レジス儚記Ⅰ ~究極の代償《サクリファイス》~

すずろ

第六章 第八話「それぞれの冠」

「そろそろ帰りたいんですけど……上まで送り届けてくれるんですよね?」
「あら、もう少しゆっくりしてらっしゃったら? 今日もご馳走いたしますわよ」

 大地の女神に最上級魔法の契約をしてもらってから数日。
 陽太たちは足止めを食らっていた。
 構ってちゃんな女神様がなかなか帰してくれないのだ。

「おいおい……みんなもうそろそろ帰るぞ」
「でもでも、今日はデザートにティラミスを出してくれるらしいんですっ!」
「じゅるり」

 ルナディたちはヨルズのヘルシーアンドデリシャスな食事で手込めにされている。

「ヨルズ様、俺らがこのダンジョンに入って、どれぐらいの時間が経ってるんですか?」

 日没も夜明けもない洞窟の中で、何日経っているのかもわからないまま過ごしてきた。
 髪が伸びては切ってもらったりしていたので、相当な時間が経っている気はするのだが。

「まだ、三年ですわ」

 なんだ、まだ三年か……

「……」
「……」
「……」

「さささ、三年だって!?」
「うそでしょっ!?」
「そういえばちょっとおっぱいが大きくなってる気がしてたの」
「いやいやルナさん、そんなのんきなこと言ってる場合じゃないぞ!」

「帰ろう!!」

 慌てて荷物をまとめだす陽太たち。


「もう帰ってしまわれるのですね……かしこまりました」
「ありがとうございましたっ!」
「ごちそうさま、なの」
「すんません、またお金返しにきますんで……」
「それなら自動で財布からスッと抜いておきますので、心配いりませんわ」
「ある意味それ、泥棒ですけどね!」

 こうしてヨルズの力により、陽太たちは帰ることになった。
 ココは魔本の中に戻り、三人に魔法をかけてもらう。
 体が光に包まれたかと思うと、一瞬にして地上、正確にはドワーフの部屋にある井戸のようなところからポコポコと飛び出してきた。

 井戸のそばには酋長がいびきをかいて寝ていた。
 小さくなっている陽太たちは、酋長に飛び蹴りして起こす。

「む……貴様ら、帰ってきたか」
「元の体に戻してー」

 酋長はよっこらしょと起き上がり、陽太たちにむかってハンマーを振りかざす。
 すると、むくむく大きくなっていく三人の体。

「あれ? 酋長さん、ちっちゃくなりました?」
「貴様の背が伸びたのであろう」

 成長期の陽太はこの三年で身長がかなり伸び、男らしい肉付きになっていた。
 小四で学校に入学した陽太も、もう中学生というわけだ。
 アメリアに関しては高校生ぐらいということになる。
 改めて見ると、女性らしい体付きになっていた。
 ――ぐへへ。
 ルナディに関しては……まあ確かにおっぱいも膨らんでいるといえばいるかな。
 とはいえ、ぺったん族のようだ。
 そんなに背も伸びた感じがしない。
 まあロリキャラで頑張ってくれ。

 するとそこへ、懐かしい姿が迎えに来てくれた。

「思っていたより早かったではないかえ」
「お久しぶりです、姐さん」

 魔女だ。
 あいかわらずの美しい銀髪とマネキンのように整った顔立ち。
 そして三年が経ち成長して色っぽくなったその体……
 ――あれ?

「姐さん、成長してない?」
「ああ、これはまた【星霜の途絶】を使わんといかん場面があっての。縮んでしもうたのでありんす」

 魔女は中学生ぐらいのままであった。
 あのたわわなおっぱいを拝めるのはまだ先ということか。
 残念。

 そしてこの三年、世の中がどうなっているかを聞いた。
 王が死んだ二つの国の、その後を。

 竜族の国では、盛大な葬儀が行われたらしい。
 竜王が民に愛されていたことを体現するかのように。
 そして彼の一人息子が竜王の称号と冠を引き継いだ。
 ハリルである。
 彼は強くなったと魔女が言う。
 勇ましく戴冠する少年の姿は、民の悲しみを拭いさった。
 颯爽と戦う姿は、騎士たちに希望をもたらした。
 ……しかし、その顔からは笑顔が消えたままだそうだ。
 ――あんなに明るく、無垢な笑顔で笑う奴だったのに。
 陽太の胸に、突き刺さるような悲しみが沸く。

 一方、帝都がなくなったハーツ帝国は、国民たちの意思により、王の血縁をたどって、若干十二歳の少年を新しい王に即位させたらしい。
 意思……とはいうものの、転移する前から直接民主制になりつつあった帝国。
 飾りだけの王に戴冠させ、主導権を握っているのは違う者だと魔女は言う。
 隣町を基点に、城の再建などを行っているとのこと。
 賑やかな戴冠式なども行われ、賑やかな祭りのように盛り上がっていたそう。
 学校も空き家を使って再開され、残っている先生や生徒たちでちゃんと授業が行われているらしい。

 「叔母さんはどうされてますかっ? 無理してないといいのですけれど……」

 魔女に問うアメリア。
 アメリアの叔母さんといえば、 紅色のポニーテールが素敵な巨乳美女。
 陽太たちが住んでいた学生寮の寮母さんだ。

「そのことでありんすが……」

 魔女は珍しく言うのをためらうようにアメリアから視線を逸らす。

「……あれから天族はみな、故郷へ帰りんした。ぬしの叔母も」
「えっ? あんなに学校の再開を楽しみにしていた叔母がですかっ?」

「実はの……新しい王は天族を迫害しよったのじゃ」
「迫害!? どうしてですかっ!」

 天族はみな優しい。
 陽太は知っている。
 もしそんな天族が迫害されるような原因があるとすれば――

「もしかして、俺のせい……っすか」
「うむ、まあ、元をたどれば、わっちのせいでありんしょう。王殺しを呼び寄せる原因を作ったのは天族にある、そう誰かが言い出し、あれよあれよとの」
「そんな……皇帝を殺したのは姐さんじゃないんですよね? ましてや俺でもないですし!」

「納得できないことや不安なこと、それを何かのせいにしたがるのは誰でも同じ。仕方ありんせん」
「……まあでも、無事は無事なんですねっ! 故郷に帰っただけで、何もされてないんですよねっ?」
「それは大丈夫じゃ。わっちが見届けた」
「よかった……みんなに会いたいな……」

 天空にいる家族を思い出したのだろうか。
 瞳を潤ませながらぽつりと呟くアメリア。
 それを見た魔女が言う。

「ぬし、そろそろ飛べるのではないかや?」

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