レジス儚記Ⅰ ~究極の代償《サクリファイス》~

すずろ

第六章 第三話「ぱくっ」

「ここは……」

 地の底、そんな言葉が似合う場所に三人は立っていた。
 ポタリポタリと鍾乳石のようなつららから滴り落ちる水滴。

「ごめんなあ、二人まで巻き込んじまって」
「大丈夫ですよっ! どこまでもお供しますっ!」
「ルナも。強くなりたいから」

 最上級魔法を使えるのは陽太だけだ。
 すなわちこのダンジョンの先でまた契約の詠唱を行うのだろうが、契約できるのは陽太だけってことになる。
 それでもついてきてくれた二人に感謝だ。
 今度はどんな相手なんだろう。
 今まではポセイドンに不死鳥に白虎だ。
 タイタンみたいな巨人だろうか。

 三人は道なりに進む。
 所々に小さな脇道はあれど、大通りは一方通行だったので迷うことはなく、下へと続く階段にたどり着いた。

「案外楽勝かもな」

 しかしその考えは甘かったことにやがて気付く。
 降りたところからまた道なりに進むと、下へと続く階段があった。
 地下二階、三階、四階五階六階……

「はぁはぁ……これ、どこまで続くんだ」
「喉……乾きました」
「おなか、へったの」

 降りても降りても同じような道の繰り返し。
 先の見えないダンジョンに、三人は体力も精神力も奪われていった。


「そういや前に、魔女が五年ぐらいかかるって言ってたような……」
「えー!? それはまずくないですかっ!?」
「おなか、へったの」
「水とか食べ物とか確保しないとやばいよね……」

 水に関してはルナディやアメリアの魔法で補給できる。
 しかし食べ物に関しては、ここまで歩いてきて一切見当たらなかった。
 そこらじゅう岩、岩、岩だ。
 ところどころに埋まっている光る鉱石のおかげで洞窟自体は明るいのだが、キノコ一つ生えていない。

「先人たちはどうやって生き延びたんだろ……」
「引き返してみます?」
「いや、もう少しだけ行ってみよう」

 そして三人は地下十階への階段を降りた時、今まで違う光景に立ちすくむ。
 今まではせいぜい三人が肩を並べて通れるぐらいの道をずっと歩いてきたのだが、そこはドワーフの採掘場ぐらいの空間が広がっていた。

「ゴール……かな?」
「や、まだみたいなの」

 ルナは奥の方を指差してそう言った。
 確かに向こうのほうに、下に向かって伸びているであろう階段が見える。
 しぶしぶと歩き出す三人。

 その時、シャーっという音が洞窟内に響き渡る。

「陽たん漏らした?」
「んなわけあるか! 何かの鳴き声じゃないか?」
「キャッ! あそこ見てくださいっ!!」

 アメリアの視線の先を辿ると、長い丸太のようなものがあった。
 そしてそれはウネウネと動き出す。
 岩と見間違えるような黒と灰色のまだら模様。
 先の方には頭が付いており、口からペロペロと舌を出し入れしている。

「へ、ヘビのモンスターか!?」
「それにしちゃデカすぎませんか! あんなの見たことも聞いたこともありません!!」
「ルナたちが小っちゃくなってるから?」
「そ、そうゆうことか!!」

 声を上げる三人に気付いた巨大なヘビは、陽太たちのほうへ顔を向ける。

「ヤ、ヤバ……」

 恐怖で立ちすくむ三人。
 まさに蛇に睨まれたカエルだった。
 そしてそいつは地面を這いながら、ゆっくりとこちらへ近づいてきた。
 そこで陽太は、魔女の鎌を掲げ叫ぶ。

「出でよ、ぴぃたん!!」

 すると目の前に魔法陣が出現。
 赤く発光し出し、火の粉が舞う。
 その中から不死鳥が――
 現れない。

「え!? なんで!?」

 プシューッと煙だけが上がり、消えゆく魔法陣。

「うそだろ……出でよ、白虎たん!!」

 不死鳥が出てこないので今度は風属性の最上級を使おうとする陽太。
 すると目の前に魔法陣が出現。
 碧く発光し出し、小さな竜巻が起こる。
 その中から白虎が――

「現れないんだが!!!」
「陽太様っ!?」

 わなわなとなっている陽太の前にルナディが飛び出す。

「アイシクルアロー!」

 無数の氷の矢を放った。
 しかしそれらはヘビに直撃するも、硬い皮によって弾かれてしまう。

「……に、逃げましょう!!」
「ああ!!」

 アメリアの一声で、巨大ヘビに背中を向け一目散で駆け出す三人。
 降りてきた階段へ突っ走った。
 するとヘビも速度を上げ、うねうねと猛スピードで迫ってくる。
 大きな口を開け、シャーっと鳴いた後、思いっきり三人に襲い掛かるヘビ。
 しかし、ぎりぎりで階段へ戻ってくることができた陽太たち。
 蛇の頭は階段の出口より大きく、ガシャーンと衝突してなんとか助かった。

「これは洒落になんないよ……」
「通せんぼされちゃいましたっ」

 階段の出口を覗くと、さっきのヘビがとぐろを巻いて居座っている。
 ぎろりとこちらを睨みながら。

 これ以上は進めない、そう判断した三人は来た道を引き返した。
 下りよりも体力を消費しながら階段を上り、最初に落ちてきた場所へと戻るのだった。


「はぁはぁ……おうい!」
「出してくださーいっ!」

 上に向かって叫ぶ陽太たち。
 しかしその声も洞窟内に響き渡るだけで、一向に返事がない。

「……途中で中断できないって言ってたの」
「そういや魔女がそんなこと言ってたような」
「どうしましょう……」

 とりあえずその場で助けを待つことにした三人。
 だが、いくら待っても誰も来ない。
 無情にも時だけが過ぎていく。
 一日、二日……太陽のないここではどれぐらいの時間が経ったのかもわからない。
 魔法で出した水だけでやり過ごす三人。

 前にも進めず後ろにも戻れない。
 空腹でふらふらしてくる。
 頭がおかしくなりそう。

「なあアメリア……あのヘビ……食べれるかな……」
「何をおっしゃってるんですか……陽太様……しっかりしてください……」

「ぱくっ」
「こら、ルナ……それは俺の腕だ……」
「お肉が……食べたい」

「レジス儚記Ⅰ ~究極の代償《サクリファイス》~」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く