レジス儚記Ⅰ ~究極の代償《サクリファイス》~

すずろ

第五章 第八話「ハリルの父」

 戻った場所は血の海だった。
 惨劇だった。
 転がる首、腕、足、そして胴体。
 陽太は竜族を切り刻み、立ったまま気絶していた。
 それを押さえつけるように抱きしめているルナディ。
 両膝を地につけたまま、言葉も発せず、ただ涙を流すハリル。

「これは……蘇生も不可能でありんすな……」

 バラバラになった竜族を見ながらそう呟き、陽太に治癒魔法をかける魔女。
 すると陽太は意識を取り戻す。

「ひっ……うわああああ!!!」

 辺りの惨劇を見て体を強張らせ、手に持っていた鎌を放す陽太。

「なにっ!? なにが起きたんだ!?」
「……っ」

 ルナディの肩を掴みそう尋ねる陽太だが、ルナディはぶんぶんと顔を横に振るだけで、ずっと涙を堪えていた。
 何も答えてはくれない。

「な、なあ、ハリル……俺……」

 足を震わせながら、竜族の死体を避け、ハリルのもとへ向かう陽太。
 それに気づいたハリルは、腰に付けた短剣を抜き、陽太に向ける。

「く……来るな!!」
「……そんな! 俺、わかんねーよ! どうなってんだ!? なにが起きてんだよ!」

「……落ち着きなんし」
「お、お前は……まさか魔女なのか!?」

 輝くような銀髪とその廓言葉に、ハリルも魔女だと勘づいたようだ。

「こやつは操られておったのじゃ」
「陽太……お前!」
「ど、どうゆうことっすか……?」
「わっちが操ったのではありんせんが。まあ今それはどうでもよいこと。殺ったのはこやつの意志ではありんせん」
「そ、そうだぞ! いくらなんでも俺は人殺しなんか」

 そう話す陽太の言葉を、ハリルが遮る。

「でも殺したのは……お前だよ」

「陽たん……操られてたんだよね? 陽たんは悪くないよね?」
「そ、そう! 俺は悪くないんだよ!!」

 するとハリルは、陽太の胸ぐらへと飛びかかって来た。

「お前がっ! その手で……」
「っ……!」
「やめて! ねえ仲良くして? お願いなの!」

 止めに入るルナディ。

「オレだってな! お前が悪くないのはわかってるよ! それに親父たちが正しいとは思ってなかったよ!」
「……」
「でも! でも……誰が悪いとかどうでもいいよ……オレにとっての肉親なんだぜ。ずっと育ててくれた親なんだ……いつもオレのためにと、いろんな背中を見せてくれた……父親なんだ」

 そしてハリルは陽太を突き飛ばす。
 尻もちをつく陽太。

「お前がいなけりゃ……お前さえいなけりゃこんなことには!!」
「ハリル、すまん……俺――」
「……お前とは生きる世界が違うのかもな」

 陽太を突き放すような目で睨むハリル。
 その目は絶望の色に満ちていた。

「消えてくれ」
「俺はほんとにハリルを……」

 友達だと思ってる、大切だと思っている、そう言おうとする陽太だが言葉は出ない。

「頼む! 消えてくれ! 今のオレはお前を……殺したいほど憎い!!」

 少なくとも今は、何を言ってもハリルの傷を拭えない。
 親友の親を殺した陽太には、ハリルの友達を名乗る資格がもう、無い。

「……」

 陽太はスッと立ち上がり、歩き出した。
 そして無言でハリルの横を通り過ぎる。
 ――このまま、去ろう。


 するとハリルが振り返り、遠ざかる陽太の背中に声をかけた。

「なあ、陽太……」
「……」
「オレが強くなったら……オレが、全てを許せるぐらい強くなったらさ……」
「……うん」
「いつか……酒を酌み交わそうな……」
「……ああ。約束だ」

 ガクンと両手を地面につき、涙に暮れるハリル。

「……ハリル、また会おう」

 陽太は振り返ることなく、そう言い残し去っていった。
 胸のペンダントを握りしめながら。
 頬に伝う涙。

 その約束を最後に、陽太とハリルは別れた。
 許せる日は来ない、それをお互いなんとなく悟りながらも――

「レジス儚記Ⅰ ~究極の代償《サクリファイス》~」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く