レジス儚記Ⅰ ~究極の代償《サクリファイス》~

すずろ

第五章 第二話「お粗末」

 幼いとはいえ、立派な狼ほどはある白虎。
 その名の通り、白く輝く毛皮に黒い虎模様、細長い体は教科書通りだ。
 ――白虎に不死鳥フェニックスにポセイドンに……神話混ぜこぜじゃないか!
 ふと以前に契約した二体を思い出す陽太。

「そうか、風には火を……」

 陽太の使える火属性と言ったら、現世に置いてきた不死鳥のぴぃたんだ。
 詠唱すれば顕現できるのだろうか。
 しかし対峙している白虎は今にも飛びかかってきそう。
 考えている暇はない。

「灼熱の焔を纏いし……ええっと、なんだっけ」

 詠唱はイマイチ覚えていないが、心の中で念じる。

 ――ぴぃたん、来て! カモンぴぃたん!

 すると目の前に赤い魔法陣が出現する。
 警戒し、後ずさりする白虎。
 そして魔法陣の中から大きな炎が出現する。
 その炎はだんだんと鳥の形を模し、周囲では火の粉が舞っている。
 こうして陽太と白虎を挟んで、キラキラと輝く不死鳥が現れたのだった。

「ぴぃたん!」
「ピィー!」

 不死鳥に抱きつく陽太。
 白虎は自分よりも数倍大きな鳥の出現に、思わず後ろへ飛びのいている。
 ぴぃたんは陽太の契約獣であり、十日間ともにサバイバルしてきた仲間でもある。
 熱い友情の抱擁。

「あちち!!」

 出現ホヤホヤの不死鳥は高熱を帯びていた。
 ――しかし、これならきっといけるぞ。
 試し打ちはしてないが、サバイバルの十日間でみるみる成長した不死鳥。
 今なら【灼熱の業火】もチャッカマンレベルではなくなっているはず。

「よし! ぴぃたん! 挟みうちだ!」

 陽太がそう叫ぶと、不死鳥はバサバサと翼を広げ空中へと羽ばたいた。
 そして白虎の背後へと降り立つ。

 短剣を構える陽太と、小さい翼を広げて威嚇する不死鳥。
 その間に白虎。
 すると白虎は不死鳥には勝てないと悟ったのか、陽太の方へと駆け出す。

「今だ!」
「ぴぃー!!」

 不死鳥は羽をバタつかせ、みるみる体が赤くなっていく。
 ぐーっと溜めるようにうずくまった後、ついに不死鳥は火を放つ。
 【灼熱の業火】だ。

 不死鳥の体全体から放たれた炎は、まるで太陽かのような明るさで白虎目掛けて飛んでいく。
 まさに業火。
 その炎はあっという間に白虎を包み、悲鳴のような雄たけびを上げている。
 ――ちょ、やりすぎじゃね? 大丈夫か白虎たん。
 そんな心配をしながら恐る恐る近づいてみる陽太。
 すると白虎を中心として竜巻のようなものが発生している。
 みるみる大きくなっていく竜巻。
 それは灼熱の業火を纏い、まるで炎の嵐だ。
 陽太は引きずり込まれるように地面を滑っていく。

「うおー!!」

 ついには竜巻に吸い込まれ、空中へと浮き上がる陽太。
 着ていた服はかまいたちのような風の刃に切り裂かれ、業火によって燃えていく。
 しかしその風力も次第に弱まり、素っ裸で風に乗っているだけの状態になる。
 ただの浮遊する露出狂だ。
 下にはキャンキャンと苦しそうに鳴く子白虎。
 体に火がついてしまい、のたうち回っている。
 まだ幼い白虎は自分を守るために放った風魔法で、火を更に燃え上がらせてしまったんだろう。
 ――やばいな、あのままだと死んじゃうんじゃないか。

 竜巻が消え、ふわりと地面へ着地する陽太。
 すぐに正座をして手を合わせ念じる。

 ――白虎たんに水を!

 すると白虎の真上に巨大な水の球が発生。
 そう、陽太は【三叉の激流】を使ったのだ。

 ――バッシャーン!

 降り注いだ激流は白虎の炎を消火した。
 もちろんそれだけでは済まない。
 不死鳥も大量の水を浴びて消えてしまった。
 そして泳げない陽太も流される。

「ごぽっ! しもたー! ぴぃたんごめんよー!」

 水の中で意識が遠のいていく陽太。
 ――まじこの代償、辛いわ。



 その頃、魔女とエロじじいの二人は――

「おお、これはワシの好きなビエネッタアイスじゃないかい! さすがわかっておるな!」
「ぬし様は昔からほんにそれが好きでありんすな。手に入れるのは苦労しんす」

 優雅なティーパーティをしていた。

「……で、どうなんだい」
「何がかえ」
「あんたらの望んだ世界は手に入ったのかね」

 爺さんが魔女に問いかけた。
 口づけていたティーカップをかちゃりと置き、俯きながら答える魔女。

「……わかりんせん」
「しかし実際この四百年、戦争は起きておらんようだがな」
「これから……でありんしょう」
「あの少年、人族か」
「……あやつが究極魔法を使いし時、全てが終わるやもしりんせん」
「そうか……」
「……」
「はぁ、だったらあんたのおっぱい、もう揉めんのかぁ! 残念だわい!」
「雷喰らいたいのかや!」

 鎌を振り上げ、キッと睨む魔女。
 がははと下品に笑う爺さん。
 しかしその目には、涙が溢れていた。

「寂しくなるな」
「……ありがとうござりんす。ぬしさまもお元気で」


「さて、そろそろ決着がついた頃か」

 二人は陽太と白虎が戦っている場所へと戻って来る。
 すると辺り一面が水浸しになっていた。

「これはこれは。派手にやらかしておる」
「お、あれは白虎かや。となると、あやつは負けて死んでしまいんしたかえ」

 魔女たちの視線の先には、子白虎の姿があった。
 しかしよく見ると、その背中には陽太が乗せられていた。
 爺さんの元へ駆け寄る白虎。

「勝ったんだな。さすが我が飼い虎」
「ふむ、まだ早かったでありんすか」

 白虎を撫でる爺さん。
 すると白虎は首を振り、爺さんに訴えかける。

「なになに? この少年は良い奴だから契約したいって?」
「くううん」

 身を挺して消火してくれたことを理解したのか、溺れた陽太を救い出して連れてきたようだ。

「はて、白虎に勝ってこその契約じゃないのかや? それに人族が良い奴なわけありんせん」
「まあまあ、白虎が自分から契約したいなんて言い出すのも珍しいことだ。良い絆を築けるだろう。任せてみようや」

 そこへ陽太が白虎の背中で目を覚ます。

「んんっ……わっ! 白虎!! 俺を食べてもおいしくないぞ!」

 慌てて飛び降り、腰の短剣を探す陽太。
 ――あれ? ない!

 短剣が無いどころか、素っ裸。
 業火の竜巻でやられたんだった。

「で、そんな粗末なモノを見せて楽しいのかや……」
「いやん!」

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