レジス儚記Ⅰ ~究極の代償《サクリファイス》~

すずろ

第四章 第六話「本」

「自分の身は、自分で守らないといけない」

 その言葉はアメリアにとって、谷底にでも落っこちたような寂しい気持ちにさせるものだったろう。
 今まで温かい家族に囲まれて育ち、帝都へ来ても陽太や叔母さんたちがいてくれて、ひとりぽっちになった経験がなかったから。
 まあ、本当に谷底に落っこちてる奴もいるのだが。

 アメリアは言われた通り、叔母の部屋へと向かった。
 戸棚の奥を探す。
 するとほこりを被った一冊の分厚い本が出て来た。

「これ……でしょうか?」

 ぱっぱと手で表紙の埃を払うアメリア。
 そこには本の題名が書かれていた。

「魔獣召喚……」

 戦闘能力の弱い天族には召喚魔法の才がある。
 アメリアの故郷ハーリオンでも、生活のため荷車を引かせる魔獣などは沢山召喚されており、契約のもと仲良く暮らしていた。
 中でも、魔本を使って呼び出した召喚獣は、テイミングする手なずけることでレベルアップしていく、いわゆる旅のお供・・・・を呼び出すものらしい。
 一冊に一体しか呼び出せないので、貴重な本であるそうな。

「叔母さん、こんな大事な本……」

 貴重な本なのでアメリアは躊躇ちゅうちょしている様子。
 だが、賢い彼女のことだ。
 自分を守ることは陽太を守ること、引いては叔母さんやこの街を守ることにも繋がるかもしれない……いやそうに違いないと考えたのだろう。
 真剣な顔でゆっくりと魔本を開いた。

 中をペラペラとめくると、ほとんどが白紙になっている。
 最初の一ページ目だけに文字と魔法陣が書かれていた。

「ふむふむです……この魔法陣に血を一滴垂らすと、私に合った魔獣が召喚されるんですね」

 召喚方法のほか、その代償についても触れてある。
 召喚した魔獣に対して、飢えさせたり虐待などを行った場合、術者は一切の魔法が使用できなくなると。
 簡単に言えば、ペットを虐待したら魔力全部奪われるよってことだろう。
 最上級魔法じゃないので命までは奪われないのだろうけれど、魔力が全部奪われるのは厳しい処罰だ。
 まあ、基本的に心優しい天族にとっては、全く縁のない話か。

 そしてアメリアは裁縫箱から針を取り出してくる。
 床の上に本を広げ、親指に針を刺して血を垂らした。
 どんな魔獣が出てくるのか、ドキドキの面持ちで。

 すると魔法陣が発光しだす。
 中からもくもくと白い煙が出てきて部屋中を包む。
 アメリアの視界も完全に奪われた。

 その時――

「にゃー!」
「……にゃあ?」

 煙の中から声がした。

「って、何も見えないにゃ! けほけほ」
「しゃ、喋ってます!?」

 だんだん薄れていく煙。
 すると魔法陣の上には――

 子猫のような動物が座っていた。
 黄色と黒のしましま模様。
 スコ座りで片手を挙げている。

「ご主人様! ご主人様! よろしくにゃ!」
「きゃ……きゃわたーん!!」

 思わず抱きかかえるアメリア。
 子猫はぺろぺろと頬を舐めてくる。

「えっと、それからどうすればいいんでしょう……」

 子猫が出て来た魔本を取り、ペラペラとめくってみる。
 するとさっきまで白紙だった二ページ目に、文字が出現していた。

「えっと……『哺乳網、食肉目、魔ネコ科、魔ヒョウ属、魔トラ種』……つまりトラさんってことでしょうか?」
「そうそうー! うちは格闘系種族の魔トラだにゃ!」
「うー! かわいー!! トラさんもニャーって鳴くんですね!」

 頬にすりすりするアメリア。
 年頃の女の子は、可愛いものに目がないのだろう。

「にゃにゃっ。うちの名前は『ココ』! 優しそうなご主人様でうれしいにゃっ!」
「ココちゃん! うふふ、ありがとっ!」

 子トラのココを抱きながら、本に目を戻す。

「ええと、続きは……『魔トラ種、メス、幼体。さあ、テイミング手なずけしよう!』……ですって。ふむふむ、女の子なんですねー!」
「そだよそだよー、大人になったらもっともっと強くなるにゃ」
「これは今ココちゃんが使える術でしょうか」

 二ページ目の下のほうに技名が載っている。
 【爪掻き】爪で引っ掻く。
 【噛み付き】噛み付く。
 【相利共生】味方をかばう代わり、治癒魔法による回復率が上がる。顕現中は常時発動。

「うんうん! 一生懸命ご主人様をお守りするにゃ!」
「きゅーん……ありがとっ! ふむふむ、他の白紙ページには、成長に伴って技が追記されていくようですね」

 こうしてアメリアは、召喚獣『ココ』を手に入れた。
 子猫みたいなのが引っ掻いたところで、戦闘の役に立つのかは疑問だが、可愛さにやられたアメリアは十二分に満足している様子であった。

「陽太様にも、早く見せたいですっ!」

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