レジス儚記Ⅰ ~究極の代償《サクリファイス》~

すずろ

第三章 第四話「ドラゴン再び」

「ね、陽たん、あそこ……」

 ルナディが指差す先には小高い丘が見えた。
 水属性最上級魔法を使ったおかげか、霧もかなり晴れている。
 もちろんルナディはそこまで計算していたわけではないだろうが。
 枯れ木林の隙間から、先の景色が見えていた。

「おお! あそこからならこの世界が見渡せるかもしれんな!」
「行ってみるか」

 そんなに遠くない。
 一キロメートルぐらいであろうか。
 ゴブリンもどっかに流されたようで、邪魔者はいなくなった。
 濡れた服を絞り、また歩き始める三人。
 陽太は血が足りてないのでまたハリルに寄りかかりながら。
 ――クズだな俺。うん、マジで役立たず。


 しばらく歩くと、枯れた木々の連なりはぱったりと途切れ、爽やかな野原が広がっていた。
 三人は森を抜けたのだ。
 眩しい日の光に目を細める陽太。
 そこへ、ハリルが上空を見上げながら急に大声を上げる。

「おいおいおい、あれを見ろ!」
「もう、次はなんだよ……」
「なんかこっちに向かって飛んで来てるの!」
「ちょ、あれって……」
「ドラゴンじゃないのか!」

 一難去ってまた一難。
 陽太たちを目掛けてバサバサと翼を羽ばたかせながら飛んでくるモンスター。
 あれは天族の街で対峙たいじしたものと同じようなドラゴンだ。

「どうするよ!?」
「ハリル、竜族ならドラゴン狩れるんじゃないのか!?」
「ばっか、いくら強い竜族でも、一人で相手できるようなモンスターじゃねえよ!」
「ルナももう【水妖の一涙】は撃てないの」

 水属性最上級魔法は一日一回の制限がある。
 そして陽太も酷い貧血で、今詠唱などしたら命に関わるであろうことは、やってみるまでもなく体が理解している。
 つまり、絶体絶命だ。

「しかしゴブリンにドラゴンに……幽世かくりよって怖すぎだろ……!」
「何言ってんだ陽太! ゴブリンもドラゴンも普通に現世うつしよで出現するぞ!?」
「あ、そうなの?」
「ああ、むしろ幽世には生物なんてほとんど住んでないって聞いてたんだが」
幽世かくりよの生物は隔離かくりよ……なんちゃって」
「ルナさんや、今ダジャレ言ってる場合!?」
「仕方ねえ、オレがおとりになるからお前らは隠れてろ!」
「ハリル! それは無茶じゃねーか!」
「けど、お前らもう戦えねえだろ! 三人ともやられるよりはマシだ! 竜族のプライドにかけてオレが守る!」
「くそっ、なんか方法はないのか!」

 陽太は頭をフル回転させて考える。
 しかしこの状況を打破するような解決策は見つからない。
 ――ちっ、なんのための最上級魔法だよ!
 ――こうなったらまた【星霜の途絶】を使うしか……
 そうは言っても、ディスペルの使えない陽太。
 時間を止める魔法を使うことは死を意味する。
 解除できない限り、代償の【逆成長】も止められず、鼻クソサイズになっていくからだ。

 ――将来有望な少年ハリルを囮にして逃げるぐらいなら、オッサンの俺が……
 いや、それもだめだ。
 俺の魂は俺だけのものじゃない。
 簡単に捨てては、天族ファミリーに顔向けできない。
 アメリア父たちの姿が目に浮かぶ。
 迫りくるドラゴン。
 ――八方ふさがりだ。
 そうこう考えているうちに、ついにはハリルがドラゴンに向かって飛び出す。

「うおりゃあああ!!」
「おいっ! 待てよ!」
「リュウマチの竜、待ち!」
「ルナちょっと黙ってて」

 マジで囮になる気だ。
 ――ああ、小学生の子供に何をさせてんだ俺は。
 ――こうなったらもう……


 その時だった――


 ドラゴンよりさらに向こうから、ブォーッという音が鳴り響く。
 角笛の音だ。
 それに気づいたドラゴンは旋回し、音のする方向へ向き直る。
 目を凝らして見てみる陽太。

 なんと、そこには――

 無数の騎馬隊の姿。
 パカラッパカラッと馬を走らせながら、先頭の者が角笛を吹いていた。

「お、親父ぃ!?」

 それを見たハリルが立ち止まり、声を上げた。
 どうやらハリルの同族、竜族の騎馬隊だった模様。

「親父さんだって? なんで? どうやってここへ……」

 状況の理解できない三人をよそに、竜族対ドラゴンの戦闘は始まっていた。
 槍をアクロバットに使い、飛んだり跳ねたりしながらもしっかりドラゴンの額に傷をつけていく。
 額のクリスタルを壊せば倒せるからだ。

「ハリルがいっぱい……」
「ああ、ほんとだ。いや、ハリルをもっと速く強くした感じか」
「ははっ! これが竜族だ! すげえだろ!」

 自慢げにニマニマしながら、二人の元へ戻ってくるハリル。
 そこへ騎馬隊のうちの数人がこちらにやってきた。

「殿下! ご無事でしたか!」
「おう! 助かったぞ!」

 ハリルに向かって声をかける竜族たち。
 ――殿下だって?

「まさか、ハリル……お前マジで王子なのか?」
「無礼者! 殿下に向かってお前とはなんだ!!」

 陽太は竜族に槍を突き付けられる。

「ちょ……」
「やめろ、この黒髪黒眼の割に冴えない顔した男は、オレの大事な友人だ!」
「冴えないとか、余計じゃね?」
「はっ……しかし殿下ももっとご自分の立場を……」
「ああもう、わかってるから! でもそうゆう特別扱いされたくないから親父に頼みこんで寮へ入らせてもらったのは知っているだろ?」
「すみません、しかしですね」
「小言はよい……帰ってからにしてくれ」
「とにかく、殿下、それにご友人のお二方、ひとまずあの丘へ移動しましょうぞ!」

 聞きたいことは山ほどあるが、陽太たちは騎馬の後ろに乗せられ、先ほどから目指していた丘へ避難する。
 そして、そこで見た景色で陽太は、全てを悟ることとなった。

「この丘って……」

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