レジス儚記Ⅰ ~究極の代償《サクリファイス》~

すずろ

第二章 第十話「首」※挿絵有

 ――あれは、ルナが唱えようとしているのは【水妖の一涙】じゃないか。
 水属性最上級魔法。
 こんなとこで使ったらこっちも溺れるだけだ。
 それに詠唱が一分ぐらいかかるから、今回のような戦闘向きではない。
 確かに魔力は半端じゃないんだろうけど、ルナディはやはりまだ思考が子供なのである。
 これじゃあまた頭を使えと馬鹿にされて終わりになるのは目に見えているな。

「うおおお!!」

 ハリルもまだ懲りずに突進していく。
 しかし槍の攻撃が届かぬうちにまた魔法で弾き飛ばされ、ごろごろと回転しながら倒れるハリル。
 ――もっと考えて動かなきゃ。
 精神年齢だけは大人な陽太、とはいえ一歩引いてただ立ち尽くすのみ。
 そこへ担任はルナディに向かって右手を向けた。

「お前ら、一生戦えぬ体にしてやろうか……」
「ちょっ……!」

 その手のひらからは火の玉が出現し、メラメラと大きくなっている。

「ひっ……む、無理だ……もう降参しよ!」

 大人はあきらめが肝心なのだ。
 逃げ出したい陽太だが、担任に背を向けルナディの元へ走る。
 正座で詠唱に集中しているルナディを庇うためだ。
 しかし時すでに遅し、担任の手から放たれた火の玉は、ルナディ目掛けてまっすぐに飛んできた。

「ぐあああっ!!」

 なんとか間に合った陽太が火の球を受けた。
 もろに背中を直撃し、ふっ飛ばされた陽太は顔面から突っ伏している。
 そして火の玉は、陽太の服をも焦がした。
 それによって、陽太の腰にある黒い紋章が露出する。

「……お前……その紋章は……!」
「やべっ!」

 陽太は急いで【人族の召喚】の紋章を手で覆い隠す。
 ――見られた……!

「ふ……ふは……ふははは!!」

 突然狂ったような声で笑い出す担任。
 ――なんだよ、気持ち悪いな。
 この紋章が何であるかを知っているのだろうか。
 だとしたらまずい。
 人族の召喚は不吉な事が起こる前兆。
 そう言い伝えられているとアメリア父が言っていた。
 ……とは言っても所詮隠し通すなんて無理だったんだ。
 ――まあ肩の荷が下りたと思って流れに身を任せるか。
 なんて甘く考えていた陽太だが、担任の反応は予想と違うものであった。

「ふははは!! ついに来たか……! この時を待っておったぞ!!」
「なっ……なんだよ!」
「まさかこんなガキだとは思わんかったがな!」

 そう言いながら担任はまた陽太に手を向け、何やら詠唱を始める。
 すると今度は赤黒い玉が手のひらから出現した。
 それはどんどん膨らみ、辺りの空気をピリピリと振動させているのが感じられる。

「ふは……ふはは……喰らえ……!」
「なんかこれ、ヤバいんじゃないっすか!?」
「諦めんじゃねえ陽太! 最後まで戦うぞ! 男だろ!」

 立ち上がったハリルがそう叫びながら、担任目掛けて無謀にも突進していく。
 ――すげえな、あいつ。
 社会に出て諦め癖のついていた陽太。
 損をしないように利害を考えて、長いものには巻かれるのが世の中を渡る術。
 いつからそうなってしまったのだろうか。
 少なくとも小学生の頃は、こいつらみたいに無鉄砲なことをしていたんだ。
 勝てると信じてるから?
 やられるのが怖くないから?
 違う。
 楽しいからだ。
 わくわくするからだ。
 ここは異世界、少年時代に憧れていた世界。
 子供心を、少年の冒険心を思い出せ。
 考えるより体で動く。
 小学校なんてまずそうゆうことを学ぶとこだったろうに。
 ありったけの力を出して、暴れて、ばったんと倒れて朝まで寝る。
 それでいいじゃないか。
 ――それが青春だ。

「俺だって……」

 怖いけどなるようになれだ。
 力尽きるまで戦おう。
 そのあとのことは、今は考えない。
 今を生きるって決めたんだ。
 そう思いながら立ち上がり、ダガーを握る手に力を込める陽太。


 しかし、この時の陽太はまだ知らなかった。
 そんな覚悟は、ただ自分に酔っているだけの戯言だってことを。
 おとぎ話のような、美しいだけの世界は存在しないということを。

 この時の陽太は、まだ知らなかった。


 陽太の決心をよそに、歴史は動き出していた。
 いつのまにか辺りが暗くなっている。
 日が陰ったのか。
 あたりは鼠色。
 いや違う、まるで夜の闇のように薄暗くなっている。

「たあっ!!」

 そのことにも気づいていない陽太は、一心不乱に担任目掛けて駆け出し、力いっぱい斬りかかった。
 しかし、その攻撃は当たることなく、ぶんという音だけを残し空を切る。
 目の前にいたはずの担任の姿が無くなっていたのだ。

「あれ……?」

 ざわつく観客席。
 不思議な感覚に戸惑う陽太。
 ハリルもバックステップを踏み、ルナディも詠唱の手を止める。

 ――何かおかしい。

 そして辺りは徐々に明るさを取り戻していく。
 霧が晴れるかのように。
 どこかで感じたことのあるような現象に嫌な予感がして立ち止まる陽太。

 すると――

「なにこれ……?」

 きょろきょろと周りを見回す陽太の顔に、水滴のようなものが頭上から落ちてきた。
 手の甲で顔を拭う。
 それは真っ赤な血液だった。
 驚いて空を見上げる陽太。


 そこには――


 大きな鎌を持った女が、宙に浮いているではないか。
 銀髪に和服の見知らぬ女。
 その手には、さっきまで戦っていたはずの担任の頭をぶら下げて。

 その担任の首から下はすでに無く――
 立ちすくむ陽太の顔は、滴り落ちてくる血で染まっていったのであった。

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