レジス儚記Ⅰ ~究極の代償《サクリファイス》~
第二章 第九話「期末テスト」
そして時は流れ、テストの日はやってきた。
心待ちにしていたこの合同演習のテストは、一学期の期末テストに当たる。
テスト内容は生徒同士のチーム戦形式で、勝敗だけでなく技術や戦術などを評価するものになっている。
その中でも陽太たちは、魔法クラスの担任が約束通り、直々に相手をしてくれることになった。
もともと一組余る生徒数だったため、どのチームかは絶対に担任が相手をすると決まっていたらしい。
テストは例の全校集会があった闘技場で行われる。
「勝ったら約束、守ってくださいよ」
「ふん、あいかわらず生意気なガキだ。底辺の分際で」
絵にかいたような嫌味な先生である。
精神年齢的には陽太のほうが大人かもしれない。
そんな陽太に観客席から声援が送られる。
「陽太くーん!」
「ステキー!!」
黒髪と黒い瞳のおかげでファンのような子たちも応援してくれている。
決して近づいては来てくれないのだが。
アイドルは見て楽しむだけのもの同盟、みたいなのができているらしい。
――終わったらキャバクラ、探そう……
「陽太様ーっ! 頑張ってくださーいっ!」
聞き覚えのある声が耳に入る。
中等部は陽太たちの後にテストがあるらしく、アメリアも観客席で応援してくれているのだ。
そして『負けたら退学』というきつい代償のせいで尻に火がついた陽太は、期末テストまでのこの一学期間、武術も頑張って特訓した。
とはいえ数か月でなんとかなるものでもなく、体力がついたかなというぐらいで、クラスメイトと対等に戦えるほどの戦闘技術などは習得できなかったのだが。
それでも昔の陽太に比べると、日に焼けた肌が男らしさを醸し出し、ひょろひょろだった手足も子供ながら引き締まった筋肉がついていた。
クラスメイトの試合が一通り終わり、陽太たちの番だ。
ケモミミちゃんやドワーフ君たちの試合も見学したが、なかなか見ものだった。
武器使用も許可されているので、小学生とはいえ元の世界ではありえないような本気の喧嘩だ。
誰からもぐるぐるパンチなんて出てこない。
――誰にも勝てそうにないや。
まあ、負けた子らがわんわん泣いている姿だけは、可愛げのある子供そのものだったが。
「それでは、最終試合を始めます――」
武術クラスの担任の合図により、ルナディ、ハリル、陽太チームのテスト試合が始まった。
対するは魔法クラス四年の担任、地属性最上級魔法使いだ。
「どりゃあああ!」
合図とともに駆け出したのはハリル。
槍を振り回し、攻撃をしかける。
さすがはクラスナンバーワン。
小学生ながらも迫力のあるその闘姿に、観客席から女子の黄色い歓声が沸き起こっている。
しかし、バリアのような防御魔法が、ハリルの怒涛のような攻撃をことごとく弾く。
カンカンという音だけが、耳をつんざくように響き渡る。
ただ、その辺りはある程度予測済みな陽太たち。
その間に、計画通りルナディが詠唱を始めていた。
「――アイシクルアロー!」
ルナディの水魔法は、その名の通り氷の矢だ。
つらら状の氷が、ルナディの作り出した無数の魔法陣から発射される。
下級魔法だが、ルナディの強大な魔力をもってすると、その量が桁違い。
他の生徒が放つアイシクルアローの十倍……いや、百倍の数だ。
数え切れないほどの氷の矢が雨のように降り注いだその場は、砂煙と冷気で包まれ視界を遮る。
「あの子、すっげぇ!」
「……どうなったの?」
ざわざわとそんな声が観客席から聞こえる。
その頃、当の陽太は予定通り大きく回り込み、担任の背後へと移動していた。
そっと近づく陽太。
陽太はこの数か月、長剣術や槍術は諦め、ダガーによる暗殺術だけを磨いていた。
攻撃力も弱く、打たれ弱い陽太にとっては、その地味な佇まいを利用した気配の消し方やワンショットワンキル、いわゆる一撃必殺だけを磨いた方がいい、そう武術クラスの担任からアドバイスしてもらって、ひっそりと練習していたのだ。
――地味ゆーな。
そんなことを思い出しながら、担任のいる場所へと近づいていく。
実はアイシクルアローを撃つ前に、ルナディに時属性魔法の素早く動けるようになる魔法をかけてもらっていた。
瞬歩という魔法だ。
これによってまだまだ素人の陽太でも、一人前の動きになっているのだ。
霧の中からうっすらと人の形が見えてくる。
――今だ!
飛びかかる陽太。
グサッと刺さる手ごたえ。
霧が晴れていく。
しかし、刺したそれは人ではなく、担任を一回り大きく包んだ土の塊だった。
「くそっ! こんな防御ありかよ!」
そこへ土の塊の中から、担任の声が響く。
「――アースクエイク」
その瞬間、地面が大きく揺れ、あたりに地割れが出現してくる。
地属性魔法か。
「うわあああ!!」
地割れには飲み込まれなかったものの、足に力が入らずその場にへたり込む三人。
すると、土の塊がパラパラと崩れ落ち、担任の姿が出てくる。
「もっと楽しませてくれると思っていたのだがな。手加減するこっちの身にもなってくれ」
「くっ……」
地割れに飲み込まれなかったのは、担任の調節によるものだったようだ。
悔しさに歯を食いしばるハリルがまた、担任に飛びかかる。
ルナディも今度は正座をして何やら詠唱を始めた。
「って、ルナ! 何するつもりだよ!」
心待ちにしていたこの合同演習のテストは、一学期の期末テストに当たる。
テスト内容は生徒同士のチーム戦形式で、勝敗だけでなく技術や戦術などを評価するものになっている。
その中でも陽太たちは、魔法クラスの担任が約束通り、直々に相手をしてくれることになった。
もともと一組余る生徒数だったため、どのチームかは絶対に担任が相手をすると決まっていたらしい。
テストは例の全校集会があった闘技場で行われる。
「勝ったら約束、守ってくださいよ」
「ふん、あいかわらず生意気なガキだ。底辺の分際で」
絵にかいたような嫌味な先生である。
精神年齢的には陽太のほうが大人かもしれない。
そんな陽太に観客席から声援が送られる。
「陽太くーん!」
「ステキー!!」
黒髪と黒い瞳のおかげでファンのような子たちも応援してくれている。
決して近づいては来てくれないのだが。
アイドルは見て楽しむだけのもの同盟、みたいなのができているらしい。
――終わったらキャバクラ、探そう……
「陽太様ーっ! 頑張ってくださーいっ!」
聞き覚えのある声が耳に入る。
中等部は陽太たちの後にテストがあるらしく、アメリアも観客席で応援してくれているのだ。
そして『負けたら退学』というきつい代償のせいで尻に火がついた陽太は、期末テストまでのこの一学期間、武術も頑張って特訓した。
とはいえ数か月でなんとかなるものでもなく、体力がついたかなというぐらいで、クラスメイトと対等に戦えるほどの戦闘技術などは習得できなかったのだが。
それでも昔の陽太に比べると、日に焼けた肌が男らしさを醸し出し、ひょろひょろだった手足も子供ながら引き締まった筋肉がついていた。
クラスメイトの試合が一通り終わり、陽太たちの番だ。
ケモミミちゃんやドワーフ君たちの試合も見学したが、なかなか見ものだった。
武器使用も許可されているので、小学生とはいえ元の世界ではありえないような本気の喧嘩だ。
誰からもぐるぐるパンチなんて出てこない。
――誰にも勝てそうにないや。
まあ、負けた子らがわんわん泣いている姿だけは、可愛げのある子供そのものだったが。
「それでは、最終試合を始めます――」
武術クラスの担任の合図により、ルナディ、ハリル、陽太チームのテスト試合が始まった。
対するは魔法クラス四年の担任、地属性最上級魔法使いだ。
「どりゃあああ!」
合図とともに駆け出したのはハリル。
槍を振り回し、攻撃をしかける。
さすがはクラスナンバーワン。
小学生ながらも迫力のあるその闘姿に、観客席から女子の黄色い歓声が沸き起こっている。
しかし、バリアのような防御魔法が、ハリルの怒涛のような攻撃をことごとく弾く。
カンカンという音だけが、耳をつんざくように響き渡る。
ただ、その辺りはある程度予測済みな陽太たち。
その間に、計画通りルナディが詠唱を始めていた。
「――アイシクルアロー!」
ルナディの水魔法は、その名の通り氷の矢だ。
つらら状の氷が、ルナディの作り出した無数の魔法陣から発射される。
下級魔法だが、ルナディの強大な魔力をもってすると、その量が桁違い。
他の生徒が放つアイシクルアローの十倍……いや、百倍の数だ。
数え切れないほどの氷の矢が雨のように降り注いだその場は、砂煙と冷気で包まれ視界を遮る。
「あの子、すっげぇ!」
「……どうなったの?」
ざわざわとそんな声が観客席から聞こえる。
その頃、当の陽太は予定通り大きく回り込み、担任の背後へと移動していた。
そっと近づく陽太。
陽太はこの数か月、長剣術や槍術は諦め、ダガーによる暗殺術だけを磨いていた。
攻撃力も弱く、打たれ弱い陽太にとっては、その地味な佇まいを利用した気配の消し方やワンショットワンキル、いわゆる一撃必殺だけを磨いた方がいい、そう武術クラスの担任からアドバイスしてもらって、ひっそりと練習していたのだ。
――地味ゆーな。
そんなことを思い出しながら、担任のいる場所へと近づいていく。
実はアイシクルアローを撃つ前に、ルナディに時属性魔法の素早く動けるようになる魔法をかけてもらっていた。
瞬歩という魔法だ。
これによってまだまだ素人の陽太でも、一人前の動きになっているのだ。
霧の中からうっすらと人の形が見えてくる。
――今だ!
飛びかかる陽太。
グサッと刺さる手ごたえ。
霧が晴れていく。
しかし、刺したそれは人ではなく、担任を一回り大きく包んだ土の塊だった。
「くそっ! こんな防御ありかよ!」
そこへ土の塊の中から、担任の声が響く。
「――アースクエイク」
その瞬間、地面が大きく揺れ、あたりに地割れが出現してくる。
地属性魔法か。
「うわあああ!!」
地割れには飲み込まれなかったものの、足に力が入らずその場にへたり込む三人。
すると、土の塊がパラパラと崩れ落ち、担任の姿が出てくる。
「もっと楽しませてくれると思っていたのだがな。手加減するこっちの身にもなってくれ」
「くっ……」
地割れに飲み込まれなかったのは、担任の調節によるものだったようだ。
悔しさに歯を食いしばるハリルがまた、担任に飛びかかる。
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