レジス儚記Ⅰ ~究極の代償《サクリファイス》~

すずろ

第二章 第二話「ルームメイト」

「強大な力はときに、人を幸にも不幸にもする。忘れるな」

 アメリア父も言ってたことだ。
 人族が召喚されたというのは、世界に良くないことが起きている証でもあるからだ。
 陽太のことを考えてくれてのことだろう。
 サバサバしているが、面倒見の良いお姉さんって感じだ。
 天族は信じられる。
 偏見かもしれないが、ここへ来て出逢った多くの天族を、陽太は好きになっていた。

「叔母さん、ほんとに助かりましたーっ!」
「いやいや、可愛い姪っ子が来るのを私も楽しみにしてたからな! 役に立って良かったよ!」
「俺も助かりました。ありがとうございます。おっぱ――おばさん」
「だが! これから過ごす寮では、あんたたちも他の寮生と同じ! 姪っ子だからって特別扱いはしないぞ! 特に陽太! 不純異性交遊などは絶対に許さんからな!」
「ないですって……」


 その後、寮へと案内される二人。
 もちろん男子寮と女子寮は別々だ。
 そして二人一部屋のルームシェア方式である。
 勘違いもはなはだしいのだが、陽太はてっきりアメリアと一緒に二人暮らしを妄想していたので、肩を落としていた。

「では陽太様っ、明日の朝、一緒に登校しましょうねっ!」
「うん、わかった。じゃあ明日、寮の玄関で」

 そういってアメリアと分かれる陽太。
 一緒に登校って言っても、学校は目の前なのだが。
 明日は始業式だ。
 陽太たち転入生の紹介などもあるから、他の生徒とは別行動だと叔母さんから聞いている。
 小中高一貫なので、アメリアも中等部入学とはいえ、転入生扱いってわけだ。
 それより、今はルームメイトが気になる。
 人見知りというか、陰気な性格で学生時代を過ごしてきた陽太だから、うまくやっていけるか心配なのだ。
 ただ、年度ごとに部屋割の入れ替えがあるそうで、お互い初めてのルームメイトになるそう。
 一年間一緒に生活する奴はどんなだろう。
 ドキドキしながら、自分の部屋をノックする陽太。
 すると部屋からドタドタと走る音が聞こえ、向こうから勢いよくドアが開く。

「おっ! いらっしゃい!」
「あ、ども……今日からルームメイトになる陽太と言います。よろしく」
「おう! 変わった名前だな! オレはハリル! よろしくな!」

 元気よく出てきたのはミディアムヘアーではいみがかった明るい茶髪の男の子。
 ガシっと握手を交わす。
 ――そうか、相手は子供じゃないか。何を緊張してたんだ。
 陽太は彼を見てそう思う。

「まあまあ、入れよ! お前、二段ベッドのどっちがいい? それ聞いてからにしようと思って、待ってたんだぜ!」
「ハリルの好きなほうでいいよ」
「まじ? じゃ、オレ上でいいか!?」
「どうぞどうぞ」
「やったぜ!」

 無邪気な笑顔で梯子はしごを上り、万歳ばんざいして寝転ぶハリル。
 やっぱりこの年齢は、まだまだ子供だな。
 待っててくれたってのがまた、悪い奴じゃなさそうで好感が持てる。
 陽太は高いところに憧れる精神年齢でもないぶん、さっと動ける下のほうでちょうど良かったかも、と思いながら荷物をベッドに放り投げた。
 十畳ぐらいの部屋に二段ベッドと勉強机が二つ、あとは特に何もないような、簡素な部屋である。
 アメリア宅から借りてきた勉強道具などを出して、整理を始める陽太。
 するとハリルがまたドタバタと梯子はしごを下りてきて陽太に話しかける。

「なあなあ! お前どっから来たの? 今年からだよな!?」
「ああ、そうだよ。ハーリオンから来た」
「まじ? 天族!? 翼見せてくれよ!」
「え、いや……俺はまだ子供だからほら……」
「まさか、まだ生えてないのか!? ガキだなー!」

 なんか違う意味にも聞こえてイラっとする陽太だが、ハリルはケラケラと手を叩いて笑っている。

「ハリルは?」
「オレは、ほら! 見てみな!」

 そういってお尻を見せるハリル。
 そこには小っちゃな突起が生えていた。

「すげえ……! ケツにもちんちん付いてんのか……!」
「ちんちんじゃねえ!! これは生えかけの尻尾だよ! 尻尾! オレは竜族だ!」
「竜……?」
「ああそうだ! 武術に長けた戦闘種族、竜族だ! 知ってるだろ?」
「ごめん知らない。つか、竜と言えば、俺こないだドラゴン倒しちゃったけど……もしかして親戚しんせき?」
「あー、ドラゴンはあくまでモンスターだ。関係ねえ。元をたどれば祖先なのかもしれないって説もあるけどな!」
「そっか、よかった」
「つか、こないだ倒したって? あはは! おもしれえ冗談いうじゃねえか!」
「はあ」

 まあ天族が一丸となっても倒せなかったドラゴンだ。
 普通なら信じられる話じゃないよな。
 つっても笑いすぎだろ。
 さすが子供、テンション高い高い。

「なあ、ハリル。どうしてドラゴンが天族の街を襲うようになったか、理由を知らないか?」
「うーん、ここんとこドラゴンの討伐依頼が増えてるってのは親父に聞いたことがあるけど。原因までは知らないなあ。そもそもモンスター全体が狂暴化してるって話だったぜ。お前の街も襲われたのか?」
「俺の街……まあ、そうだな。その原因を知りたくてここへ来たってのもあってさ。また親父さんに聞いといてくれないか?」
「おう! そうゆうことなら任せろ! 今度帰省する時に聞いといてやるぜ!」
「まじか。それは助かる」
「何でも言ってくれ! これから一年ずっと一緒のルームメイトだしな! お前も、お前の家族も、オレにとっちゃもう他人事じゃねーってことだ」
「すまんな、ありがとう」

 熱い奴だな、良い奴だけど。
 元の世界への帰還方法がわかったら、この学校に長居するつもりはないのだが、そう言ってくれると嬉しいものがある。
 竜族ってのはこんな感じの種族なのだろうか。
 ドラゴン討伐の依頼を受けてるってことは、本当に強いのだろう。
 ハリルもまだ子供だけど、どことなくパワーを感じる。

 しかし改めてハリルを見ると、男のくせに綺麗な顔をしているな。
 服装も自分とは違い、正装風のブラウス、良いところの坊ちゃんだろうか。
 元気さを体現するかのように、ずっと裾出しでだらしなく着ている。
 やんちゃな王子様って感じで、女子にモテそうな奴だ。

「しかし陽太お前、モテそうだよなー!」
「へ? 俺が? このうん十年間一度も交際すらしたことのない俺が?」
「うらやましいぜ!」
「ハリル、目、おかしいんじゃないか……?」

 その後、二人は夜更けまで、天族の暮らしや竜族の英雄譚などを語り合い、打ち解けるのであった。

 ――このハリルが将来、陽太にとって一生涯の親友・・にして宿敵・・になる運命だとは、お互いまだ知る由もなかったのだが。

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