レジス儚記Ⅰ ~究極の代償《サクリファイス》~

すずろ

第一章 第九話「空から見る景色」

「無理無理ー!!」

 陽太は嫌がっていた。
 何をって?
 そりゃ、この崖から飛び立つんだもの。
 ビビるのも無理はない。

 街を出た三人は、一路帝都を目指し、ハーリオンの島から飛び立とうとしていた。
 アメリア父が二人を抱えて、地上まで飛んでくれるのだ。

「ほんとに、大丈夫なんすか……?」

 アメリア父は小柄で太ったおじさんだ。
 人の良い領主って感じを体現しているような人物であるけれど、正直筋力があるようには思えない。

「あっはっは! たぶん、なんとかなるであろう! 昔はよく何度も行き来していたからな!」
「その時は痩せてたとか言うオチじゃないでしょうね……?」
「あー……今の半分ぐらいの体重だったかのー……」

 ほら! この天然族! やばいよ!

「大丈夫ですよっ! こう見えてお父様は私をよく肩車とかしてくれてたんですからっ」
「それ、いつの話?」
「えっ、五歳ぐらいまでですよっ? そんなこの歳になってまだそんなことしてもらってる訳ないじゃないですかーっ。もう、陽太様ったらっ!」
「……はぁ」

 ――ダメだこの人たち、色んな意味で危険すぎる。

「よし! では失敗した時の上手な不時着方法を伝授するぞ!」
「わーいっ! ぱちぱちーっ」
「上手な不時着ってなんすか……」

 こうして陽太たちはついに、崖から飛び立つこととなった。
 夢と期待と、大きな不安・・を乗せて。

「では、助走するぞ! それっ、走れ!」
「はいっ!」

 三人は崖に向かって思いっきり駆け出す。
 ――もうこうなったら、自棄やけだ! なるようになれ!

「ていっ!!」


 ――バサッバサッ。

 大きく広げたアメリア父の白い翼が、旋風せんぷうを巻き起こす。
 あ、世間をさわがせるって意味では無くてね。
 本当に風を起こし、二人を抱えたまま大空へ飛び立ったのだ。

「ふう……なんとかなったのう」
「わーっ! これがほんとの、高い高ーいっ!」
「何を言ってるんですかこの天然少女は」

 ――しかし、ちゃんと飛び立ててよかったな。
 胸をなでおろす陽太。
 気流に乗ったのか、飛行も安定している。
 飛び立つ瞬間はさすがに怖かったけれど、空中から見下ろす世界は別格だ。
 鳥はいつもこんな景色を見ていたのか。
 ミニチュアな木々にミニチュアな街。
 その中には、きっとミニチュアな動物がいて、ミニチュアな昆虫がいて……
 空から見る景色というのはまた、世界が違って見えるんだな。
 これも大切な経験として覚えておきたい、そう感じる陽太であった。


 ほどなくして、目的地であろう帝都へぐんぐんと近づいていく。
 ――楽しみだな。
 期待に胸を膨らませる陽太。
 ふとアメリア父に目をやると……

「ぜえ……はあ……ぜえ……はあ……」
「疲れてらっしゃるー!!」

 ヤバいな、これはまさかの体力切れではありませんか!
 やっぱり子供とはいえ二人も抱えて飛ぶなんて、無茶だったんだ。

「お父様! あっちの湖のほうへ不時着しましょう!」

 アメリアが誘導する。

「ぜえぜえ……そこまで……はあはあ……力がもたん……もうだめ」
「なんとここで、あきらめ宣言でましたー!!」

 そしてヨロヨロと風に流された末、帝都から少し離れた丘の付近で、翼の羽ばたきが完全停止。
 地上へと落下していく三人であった。

「キャーっ!!」
「うそーん!!」


 ――本当にもうダメだ、志半こころざしなかばで俺は死ぬ。
 ストップの魔法ももう使えない。
 思えば短い旅だったなあ。
 ああ、こんなことなら、アメリアと一緒にお風呂入っておけば良かった。
 ちくしょう。
 あそこでイモった自分が悔しい。

「チクショー!!」


 その時だった――
 地上に小さな光が見える。
 そしてその光が消えた瞬間に起きたことである。

 ゴゴゴと空気が振動したかと思うと、陽太たちの足元になんと、巨大な水の球が現れたのだ。
 その巨大さは表現するなら、某テレビ局の本社ビルにあるあの球体ぐらいあるのではないだろうか。
 するとその水球は、針で突かれた風船のように破裂したかと思うと、陽太たちの足元にある丘へ、滝のように流れ落ちた。
 そこへ吸い込まれるように落下していく三人。

 ――バシャーン。
 どれほどの高さから落ちたのだろうか。
 さすがに死んだかと思った三人。
 だが、幸いにも先ほどの滝が流れ落ちた場所に、その勢いで湖ができていた。
 そこへ不時着することができたのだ。
 陽太とアメリアは湖を何とか泳ぎ、浅瀬にい上がる。
 丘の上だったので、激流でへこんだ湖の部分以外の水はふもとへ流れ落ちたようだ。

「陽太様っ! 大丈夫ですかっ!?」
「けほけほっ……だいじょ……」
「大変っ……人工呼吸しなくちゃ!」

 そう言ってアメリアは、陽太の口に自分の口を持っていく。
 柔らかい、とろけるような唇の感触を感じながら、陽太の意識は遠のいていった――

「って、そりゃそうだ! 呼吸してる人に無理やり人工呼吸したらダメダーメ! 本当に死ぬから!」
「あれ? 生きてたんですか?」

 ――やはり、この世で一番危険なのは、天族の天然っぷりだ。
 陽太はつくづくそう確信したのであった。

「おお……助かったのか……」
「お父様っ!」

 近くでアメリア父も、湖から這い上がってきた。
 父のもとへ集合する二人。
 するとアメリアが湖を指さして急に声を荒げる。

「大変! あそこ見てください! 誰かおぼれてますっ!」

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