レジス儚記Ⅰ ~究極の代償《サクリファイス》~

すずろ

第一章 第二話「キッス」 ※挿絵有

 RPGではよく、時属性魔法に【ストップ】という魔法がある。
 敵の動きを止めるものだ。
 強力なものでは、自分以外全ての時間を止めることもできる。
 まさに今の状態だ。

「えっ、これ……もう」


 ――無敵じゃね?

 時間を止められるって、もうゲームクリアしたようなもんじゃん。
 もちろん陽太はチャンスとばかりにドラゴンへ近づいた。
 尻尾から登り、頭へと乗っかる。

「ひゃっほう!」

 よい眺めだ。
 陽太はドラゴンの上から街を見渡した。
 なるほど、半分ほど倒壊しているようだが、今日だけの被害じゃなさそうだ。
 ――ははん、わかったぞ。
 何度もドラゴンの襲撃に合っては防衛するも、このままでは街が壊滅してしまうと踏んで、助っ人を召喚したって感じであろう。
 まあそれはいいとして、とりあえずこのドラゴン、やっちゃいましょうか。
 そんなことを考えながら、陽太はドラゴンの額を見つめる。

「このクリスタルを砕けばいいのかな?」

 貰った剣で、ドラゴンの額に埋め込まれているクリスタルを、ガシガシと叩く陽太。
 飛び散る破片。
 そのうちクリスタルは、パリーンと音を立ててくだけ散った。
 そして、固まっているドラゴンも同じように崩れ落ちる。

「わわわっ、降りねーと」

 ドサーンと倒れこんだ巨大なドラゴン。
 こうして陽太は、ドラゴンをやっつけたのである。
 ――あっけなかったな。
 地味だし。
 もっとこう、ドッカーンとかグオーみたいな派手な魔法を期待してたのに。
 でもまあ、なんの努力もせずに最上級魔法が使えるなんて……

「サイコー!!」

 なんて素敵な世界へ来ちゃったんだろう。
 スキップしながら街へと向かう陽太。


 入り口の門をくぐる。
 レンガ作りの中世ヨーロッパ的な街並みは、やはりファンタジーを彷彿ほうふつさせ、陽太の胸が高鳴る。
 しかし、なにか様子がおかしい。
 誰の気配もしないのだ。
 なんでだろう。
 みんな街を捨てて逃げたのかな。
 そして陽太は民家のドアを開け、中を覗いてみた。

「あ、わかった」

 中には天使らしき夫婦がいたのだが、ぴくりとも動かない。
 そうだ、時間を止めたままだった。
 ――俺が。
 ――てへっ。

 これは凄いです。
 ――泥棒でもなんでもしほうだいじゃないか。
 まぁ、しないけど。
 とりあえず女湯に――

「……あれ?」

 その時、陽太の短パンが急にずり落ちた。
 ――いやいや、まだお風呂じゃねーんだけど。
 慌てて腰まで引き上げる。

「え、なにこれ」

 陽太は不思議に思う。
 さっきまでずっと穿いていた短パンが、なぜかブカブカなのだ。
 思えば、Tシャツもこんなにデカかったっけ?
 嫌な予感がして、陽太は化粧台を探し、自分の身体を鏡に映してみた。

「なんじゃこりゃあああ!!」

 そこに映っていたのは、中学生ぐらいの自分。
 服を脱いでパンツ一丁になってみる。
 明らかに背も身体も一回り小さい。

「どどど、どうなってんだ……」

 青ざめながら、自分の両手を見つめる陽太。
 すると、手首にぐるりと文字ような紋章が、黒く刻まれていた。
 そして更に陽太の手足、体全体が縮んでいくのが見て取れる。
 ヤバい。
 このままだと、いずれ鼻クソぐらいになって消えちゃうんじゃないか。
 これはヤバい。

 ――どうやってストップを解除するんだ?
 知らないぞ……

 サアーっと血の気が引く陽太。
 どうしよう。
 とりあえず叫んでみる。

「ス、スタート!」


 ……シーン。

「動け、ゴマ!!」


 ……しかし、何も起こらなかった。

 これはヤバいです。
 取り残された。
 時間に。
 世界に。
 ひとりぼっち?
 急に怖くなる陽太。

 そこで陽太は、思い出したように部屋を飛び出て走った。
 例の、召喚されてきた台座がある祭壇へだ。
 ドラゴンやっつけたんだから、任務完了ってことで、帰れると考えてのこと。
 パンツ一丁で一心不乱に走る陽太。


 祭壇につくと、台座にはまだ少女の体があった。

「おーい、帰ったよー!」


 ……シーン。

「おーい! ミッションコンプリートで、おうちに帰しとくれー!」


 ……しかし、返事がない。ただの屍のようだ。
 つか、マジで屍か。

 そうこうしているうちに、陽太の姿はもう小学生ぐらいまで縮んでいた。
 どうする?
 考えろ。
 魔法の解除方法。
 ゲームなんかでは、解除するための魔法があったはず。
 しかし陽太は最上級魔法だけを授かった。
 すなわち、状態異常の解除だけみたいな下級っぽい魔法は使えないんじゃないか?
 くそっ、どうしたらいいんだ。
 この少女が生きていれば……
 異世界召喚が使えるくらいだ。
 きっと凄い魔法使いに違いない。
 生きていれば……?

蘇生そせいだ!」

 蘇生魔法。
 それは治癒ちゆ魔法の中でもかなり上級なんじゃないか?
 なにせ人を生き返らせるんだから。
 最上級の魔法ならきっと自分は使える、そう考える陽太。
 さっそく少女に向かって手をかざす。

「生き返れ! ホイ!」

 ……シーン。
 ダメか!

「ザオ○ク! レ○ズ! ……パル○ンテ!!」


 ……シーン。
 ダメだ、どうすればいいんだ。
 なにか条件がいるのか?
 生き返らせる……
 反魂……
 眠り姫の目を覚まさせる……

「あれしか……ないか」

 おっさんが子供にしたら犯罪だろうけど、今は自分も小学生の身だ。
 問題ないはず……
 そう自分に言い聞かせながら、陽太は少女の口元に顔を近づける。

「どうか、生き返ってくれ……」

 ――そして陽太は少女にキスをした。

 唇の感触……未体験ゾーン。
 ほのかな甘い、女の子の香り。

「んっ……」

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 これが全ての始まりだった――

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