初心者がVRMMOをやります(仮)

神無乃愛

現実世界にて<禰宜田家にての一幕>


 そんなお馬鹿な会話をゲーム内でした数日後。禰宜田薬品本社に孝道宛に来客があった。
 すぐさま会長である義道の秘書が支社へいることをその相手に伝えに行く。
「Little ladyの件で来たのだけどね」
 そう、赤髪の男は言ったという。
「名を聞いとらんのか」
「セラフィムと名乗っておりました」
「それはどっちだ?」
 苗字なのか、名前なのか。だが、男はそれしか答えなかったという。
 現在、社長である義孝が対応しているという報告まで受けた。

 そもそも、義道には「セラフィム」なる人物に心当たりなどない。

 少し前に昌代が作ったゲーム会社のアメリカ側代表は「ミカエル」になっていたはずである。己の孫が代表になってることもあり、ある程度情報は入れてある。
「時田」
 義道は秘書に命じる。
「禰宜田家の長老と女帝に連絡を」
 そうすれば、何かしら分かるかもしれないと。


 そんな連絡を受けた昌代は、ため息をついた。
「……阿呆か」
 セラフィムの動きに無駄がありすぎる。

 いくら昌代がログインしていなくとも、連絡方法はあるはずなのだ。義道と誼を結ぶにしても、孝道宛に面会とはこれいかに、というのが率直な意見である。
「仕方なかろう。どうも多少常識が抜けておるのが多いようだし」
 茶をすすったあとに、禰宜田 嘉市かいちが言う。

 本来であれば、禰宜田グループの頂点に立つはずだった男で、昌代の夫であり、「禰宜田の長老」と呼ばれる男だ。
 この男が禰宜田グループの頂点に立たなかった理由は、放浪癖があったためだ。気を抜くと日本国内どころか国外に出かけており、中でも結婚三年経った後の行方不明事件が決定打となった。
 どこぞの未開の地に出かけたとかで、伝染病を三種類も同時に罹患し、禰宜田家で発見した期にはすでに危篤状態。緊急搬入させ、隔離病棟で治療すること一か月。何とか回復したものの、生殖機能は失われることとなったのだ。
 それから数年、嘉市の放浪癖に悩まされながらも夫婦として、禰宜田家のトップとして働いていたが、産後の肥立ちが悪かった妹の子供を引き取ったことにより、離婚。
 理由は何ということはない。子供の世話だけで手いっぱいで嘉市の面倒など見れなくなったからだ。
 嘉市の両親には謝られた。「あいつが持ってくる非常識な情報を有益に利用する昌代さんを失うくらいなら、嘉市を勘当する」とまで言われたが、鎖がなくなったらどこまでも飛んでいきそうなので、謹んで辞退したのだ。

 その後も様々なところを放浪しつつ、禰宜田家などに有益な情報をもたらしていた。最近はおとなしくなったため、気が付けば「長老」などと言われるようになっているのだ。
 その情報網は半端ないため、昌代は時折情報をもらいに会いに行くのだ。

 たまたま今日がその日で、嘉市が「久しぶりにお前の立てた茶が飲みたい」などと我が侭を言ったため、こうやって茶室に二人でいるのだ。

「で、そのセラフィム君とやらは昌代の目から見てどうなの?」
「クリス殿の共としてしかおたことがないからの。かような馬鹿なことをするとは思わなんだ」
「……いや、あのね。昌代のところにアドナキエル君がいるでしょ? 彼の行動見てれば分かる……」
はそこまで愚かではないの。あちらを逃げてから良き師におたようじゃ」
 性格の破綻具合だけはどうしようもないが。
 こんな馬鹿者と今回は会う必要はない、というのが昌代の見解だ。
「相変わらずだねぇ。まぁ、私も想像はついてるからいいけど。……おそらく旧の運営会社が接触してきたか、可愛い小動物ちゃんの件でしょ」
 その言葉に昌代はため息をつく。
「私もゲームしてみようかなぁ。暇だし」
「良きことではないか?」
「……止めないの?」
「止めて聞くような男か? 貴様は。お主があまりにも騒ぐなれば、美玖にしばらくゲームを禁じればよいだけじゃ」
「……それでこそ昌代だよね。繋がないよ。機械関係そろえるのが面倒だし」
 昌代は用意してくれないでしょ? そう言ってきた嘉市に、昌代は「当然」とだけ返した。

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