初心者がVRMMOをやります(仮)

神無乃愛

悪夢な知らせ


 その日のカナリアはかなり浮かれていた。だからと言って「先生とユーリさんの娘になるの」と公言したりしない。「カエルム」メンバーは、三人とその身内の行動でおおよそ悟ったが。
 言われていない、イッセンとリリアーヌもその口で。教えて欲しかったと思うが、どこで誰が聞いているか分からない状態で言えるわけがない。それくらいは分かっている。
「何か微妙」
「何がだい?」
 イッセンの呟きを拾ったのは、ディッチだった。
「これから俺らが守んなきゃって思ってたんだけどね」
 守り切れなかった悔しさと、頼れる大人が傍にいることと。
「なにも、君たちとの付き合いはどっちかが切ろうとしない限り、切れないんじゃないのかい?」
「そうなんだけどさぁ」
 時折「いっくん」と頼ってきた可愛い従妹。笑顔にするために会えた時に必死になったのは、既に遠い思い出で。気が付いたら、そんな従妹はジャッジたちを頼るようになっていた。少し、いやかなり寂しいと二人で落ち込んでいるのだ。
「だからと言って君らはカナリア君を縛り付けないからね。どこかの誰かは『自分が助けてやっている』と上から目線だったみたいだし」
「……よぉぉく分かってるよ。『人の振り見て我が振り直せ』って素晴らしい諺があるじゃないか」
 二人揃って誰とは言わない。どこぞの自信過剰男。最近はめっきりゲームで見かけなくなった。
 一応動向は把握している二人だが、あえて言わない。
「それ言ったら、俺としちゃジャッジと一緒にいるのも不安なんだけどね」
「あーー。昔だったら分からんかったけど、今なら分かるわ」
 ディスカスの言葉に、イッセンは心の奥底から同意した。

 そんな話をしていたら、リリアーヌとカナリアが飛び込んできた。
「いっくん、先生大変ですっ。皆がっ」
「ん? どうした?」
「いきなり暴れして!!」
「え!?」
 イッセンと二人声がはもった。他のメンバーが暴れだしたとは一体何事かと。
「美玖ちゃん! 違うでしょ!! ニーニャやウルリーノたちでしょ」
 そっちかい!
「みんなはみんなだもんっ!」
 ぶうたれるカナリアに一度深呼吸させ、ディッチたちは話を聞くことにした。

 どうやら騎獣からペットに至るモンスター全てが暴れだしているらしい。カナリアやリリアーヌたちが保護している魔獣たちも同じ状況だという。ただ、一時的にだそうだが、セバスチャン謹製のご飯を食べて直っているらしい。……相変わらず規格外なAIである。
「ドラゴンさんや、兎さんたちもかな」
「カナリア君」
「はいっ」
「悪いけどイッセン君たちとマリル諸島経由で月の島に飛んで! 状況確認。俺はジャスたちと合流してドラゴン見てくるから」
「よろしくお願いします」
 ぺこり、そう頭を下げたカナリアを、撫でてすぐさまジャスティスたちに連絡を入れた。

 のだが。どうやらジャスティスは人竜族の少女メルにSOSを出されたあとらしく、ジャッジとユウを連れて向かっているという。スカーレットとディスカスはギルド待機で情報整理、そして他のメンバーは色んな所に回っているらしい。
 早すぎる。そう思ったのだが、規格外飯を食べていたカナリアの「家族」が最後に暴走したらしく、様々なスレッドを賑わせていた。
「ここ一時間ぐらいか」
 ディッチもギルドに向かう前にセバスチャンから飯を大量に貰うことになった。

 大変ありがたかったとだけ、遠い目でディッチは呟いたという。

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