初心者がVRMMOをやります(仮)

神無乃愛

カナリアの新しい武器


 それを聞いたディッチは、ものすごく生暖かい目でジャッジを見た。
「……何やってんの、お前」
「モンスターに八つ当たり」
「阿呆か! しばらくベアーグラントのリポップなくて、公式でまで呆れる人続出だぞ!!」
 三十体討伐とギルドに報告したジャッジだが、三十体というのは、カナリアと二人で討伐した数で、実は百体をゆうに超えるベアーグラントを討伐していたと聞いたからだ。
「俺一人で討伐するとカナリアが喜ぶんだもん」
「な・に・が! 『喜ぶんだもん』だ! そりゃ、一人で倒せないモンスターを、お前ひとりで倒せば、カナリア君は驚いて褒めるだろうさ!」
 ものには限度というものがある。それをなにゆえリースとセバスチャンが止めなかったと、問い詰めたくなる。
 ……冷静になり、リースもセバスチャンもAIだと思い出した瞬間、怒りはどこにもいきようがなくなった。それゆえ、ディッチも生暖かい目で見るしかなくなり、現在に至るのだ。
 これに一番怒っているのはスカーレットである。「足の速い素材を無駄にするな!」という怒りなあたり、性格を感じてしまう。

 ジャッジのストッパーをカナリアに任せるには危険すぎる。今後一切、二人でクエスト受注を禁止するしかないのか……そんなことをディッチが思っている時だった。
「ジャッジさんっ! 先生! ディスカスさんに新しい杖を作ってもらいました!!」
 ウサ耳をピンとたて、どこからどう見ても嬉しそうなカナリアが、その杖を抱えて走ってきた。

 ……絶句したディッチは悪くないはずだ。
「杖の、名前、聞いていい、かな?」
 己の口がひきつったのが分かった。
「えっと、ディスカスさん曰く、『くま手 魔法少女Vr』だそうです!!」
「あんの、馬鹿がぁぁぁ!!」
 そう、カナリアが抱えていたのは、長さ二メートルはあるかという、リアルな熊の腕だった。
「これのどこが『魔法少女Vr』だよ!?」
「せめて、武器として使えるものか、農作業として使えるものにしやがれ!!」
 ジャッジの突っ込みとディッチの突っ込みが炸裂する。

 ……が。
 突っ込みどころが違う。それを指摘する者は、そこにはいなかった。


「あ、だいじょぶ。農作業用の熊手は、既にセバスに渡してあるから」
 けろりとしてディスカスが言う。そちらは武器としても使える仕様にしてあるらしい。
「……だったらせめて、リアルじゃなくデフォルトにしろよ」
「考えたけど、可愛くなかった。だったらリアル路線で」
「ウサっ子カナリア君には似合わないだろうが」
「お前、突っ込むところそこなの?」
「それ以外何がある」
 ディスカスの問いに、ディッチは胸を張って答えた。


 結局、ギルド「カエルム」はネタモノを作り出し、カナリアに装備させると評判になった。

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