初心者がVRMMOをやります(仮)

神無乃愛

久しぶりの討伐クエスト


 今日も今日とて、ゲーム内で勉強である。
「……えっと、今日は古典と数学、それから英語。あとは礼儀作法にマナー」
 コマ割りを見ながらカナリアが呟く。学習塾に関してはモデルケースとして、補助金も出たとかで教師陣にゆとりが出てきた。
 それでも設立当初からやっている講師も一部そのままボランティアとして講義を行っている。……最たる例がディッチとクリスである。
「カナリア。今日はクエスト行けそうか?」
「んと、ゲーム時間で一時間くらいなら。みんなにご飯あげたりしなきゃいけないですし、アクセサリーの依頼も来てるので」
 必死にタブレットを見ながらカナリアは答えた。ジャッジとクエストに行きたいところではあるが、いかんせん時間がない。
セバスチャンにかなりいろんなことをお願いしまくっている。
「そのうちセバスの中に人がいるとか言われそうだな」
「え!? セバスチャンもいつの間にかプレイヤーになったんですか!」
「……だから違うっての。そういう噂が立ちそうだって話。AIがプレイヤーになれるわけないだろ」
「早とちりでした」
 ジャッジのあきれた声に、カナリアは思わずしょんぼりとした。
「奴らの飯は?」
「定期クエストのおかげで何とかなってます」
 それが無ければ、今頃色々と終わっていると思うカナリアである。
「定期クエストの回数、もう少し増やすか?」
「そうしたいのはやまやまですが、お金が足りないんです」
 受けるクエストが減った為、資金が貯まらない。
「喫茶店で儲けた金、使えや」
「あれは喫茶店のお金です!」
 断じてカナリアのお金ではない。そう言い切ると、ジャッジが苦笑していた。
「だったらなおさら一緒に、、、クエスト行かないとな。セバスは置いていくのか?」
「……どうしましょう」
 そこが悩みどころでもある。

 結局、ペットたちはユニに、喫茶店はリリアーヌたちに見てもらうことになり、久しぶりに四人でクエストに出かけることにした。
「あれから二年は経つんだよなぁ」
 感慨深げにジャッジが呟く。そう言われて見ればその通りだ。色々ありすぎて何年もゲームしている気分になる。

 今回ジャッジが選んだのは、討伐系のクエストである。カナリアのLVを少しでも上げるという狙いもある。
 ギルドメンバー内において、カナリアのLVはクィーンを除くと一人だけ二桁のLVだ。カナリアの楽しみ方を考えればLVなぞ二の次でいいのだが、いかんせん、他のメンバーとのバランスが取りにくい。
 カナリアもLVを三桁にする必要は今のところないが、せめて九十台に達してほしいところではある。
「どうすっかな」
 正直なところ、ジャッジはゲーム内でも一緒にいられればいい。カナリアが欲しがる素材は全部ジャッジが集めればいいと思っている。
 それではカナリアが育たないと言われたばかりだ。

 どろどろに甘やかしたい。そう言いそうになったところで、ギルドメンバーに止められた。ジャッジが連れて行かないのなら、自分たちが連れて行くと。
 それでは時間が取れないではないか。そんなこともあり、こうやって討伐系のクエストでカナリアを育てることにしたのである。
 ……もちろん、カナリアにとって大量に素材が手に入るフィールドを選んだあたりが、ジャッジなのだが。
「その辺に鉱石があるはずだから、掘っとけ」
「はいっ」
 ぴょこぴょこと嬉しそうに動くうさ耳と尻尾を見ながら、タブレットの操作をしていく。
 うん、討伐は二の次でいい。そんなことを思いながら。
「カナリア、そろそろクエストに載っていたベアーグラントが来る。討伐用意しとけ」
「……ベアーグラント?」
「まだ見てないのか!?」
 キョトンとしたカナリアを見て、ジャッジは驚いた。……LV六十前後で討伐するモンスターだ。

 ベアーグラント。
その名のとおり熊型で、全長百メートルを超える大型のモンスターだ。防御力は少し高めと言ったところだが、攻撃力が半端ない。……推奨LVにおいてではあるが。

 ベアーグラントの群れを討伐した後に、ドラゴン討伐等に行くともいわれているが、よくよく考えてみれば、それらを無視したのはジャッジたちである。……知らなくて当然なのかもしれない。
「とりあえず、皮は防具に、爪は武器に。脳や内臓系はいつものとおりに錬金術や薬関係に使うことが多い。あと、爪と腕の部分を使って「熊手」を作ることが可能。これは掃除道具みたいなユニーク武器だ」
 ふむふむ、とジャッジを見て頷いていた。それがまた可愛いと思うのは惚れた弱みなのか。
「今回のクエスト討伐数は十。レットがいつものごとく限り内臓関係が欲しいらしい」
「はいっ」

 そんな話をしていたら、ベアーグラントの群れがこちらに向かってきた。

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