初心者がVRMMOをやります(仮)
クエスト開始前の騒動 その2
今回のクエストのことを少しでも調べていれば、カナリアはこうならなかったはずである。
この世のものとは思えぬ地獄からの咆哮が聞こえ、クエストが開始となる。
その声を聞いたカナリアは一瞬にして恐怖状態に陥り、硬直してしまったのだ。
硬直しただけましである。時にはパニック状態になり、味方を攻撃してくる場合もあるのだ。
そんなカナリアを見てほくそ笑むものが一人。
ジャッジである。
「カナリア、落ち着こうか」
いつものようにイエローカードギリギリのボディタッチでカナリアに触れてくる。
それを見たジャスティスは呆れ、これを狙ってカナリアに情報を教えなかったのではないかと思ったほどである。
「ジャ……ジャッジ……さんっ」
「カナリア、このクエストの開始くらい調べておけって言ったよね?」
「は……はい。でも、ちょっと見た映像が怖くて調べられませんでした」
この会話を聞くかぎり、どうやら故意ではないらしい。
「うん。アジア圏の文化が入り混じっているから、鬼もいればキョンシーもいるし、悪霊もいるしね」
「いやぁぁぁ!!」
すぐさまカナリアが耳を塞いでいた。
「大丈夫、カナリア。倒して解体すればいい素材が手に入るから」
「……素材、ですか?」
食いつくのそこかよ! そして誰もがカナリアの素材に対する執着を知っているだけに、黙っていたというのに何ばらしてやがる! そんな言葉を含んだ殺気がいたるところから流れ始めた。
「そう、素材。そのためにはこのクエストを頑張ってクリアする必要がある。そのためには全滅を防ぐしかない。その鍵はカナリアが持ってるんだよ」
「私、ですか?」
「そう、カナリアが。だから、採取は少し後回しにしてね」
「……頑張ります!」
頑張るって何を!? 素材に誘惑されないこと? 「カエルム」メンバーはそんなことを思ってしまった。
「そう、その調子。俺がサポートするし、他のやつらもサポートするから」
だんだんと出来上がりつつある別世界でいちゃつきつつある二人に、ジャスティスがきれた。
「ジャッジ! いい加減にしろ!! 始まってんだぞ!!」
そう言って繰り出した技で、ジャッジを砦から吹き飛ばした。
……当然ジャッジのHPも瀕死状態まで一気に減ったわけで。
「『仲良きことは美しきかな』という言葉がありますが、これはやりすぎです。開始早々味方を瀕死状態にしてどうするんです?」
カーティスが呆れたように突っ込んできた。
「あいつなら、あれくらいでくたばりゃしない。逆に俺に特攻かけてくる勢いで戻ってくるから大丈夫」
「あ、じゃあ大丈夫ですね」
ジャスティスの返答も返答だが、それで納得してしまうカーティス。「春陽」と「スワスティ」のメンバーはそれでいいのかと思ったが、誰一人口にしなかった。
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