初心者がVRMMOをやります(仮)

神無乃愛

お祖母ちゃんが理解者

 今日日きょうび携帯を持っていない人間はいない。
 学生ならば尚更。連絡事項は大抵メールで来るのだ。

 それでも美玖みくの両親は違った。「連絡事項は己たちの携帯に来ればいい」とのたまい、与えようともしなかった。
 それだけなら美玖もそこまで言わなかった。親は「連絡事項を連絡するのを忘れる」事が多々あった。そのため、クラスでも浮いた存在になってしまった。

 これが中学の時の出来事で、高校は親の言う公立高校に入った。
 勿論、高校でも携帯は必須だった。
 大抵がスマホを持つ中、美玖に手渡されたのは古ぼけた二つ折りの携帯電話だった。

 泣きたくなる、というのはこういうことなのかもしれない。同じ中学から持ち上がった人たちにはかなり笑われた。そして、案の定クラスで孤立してしまった。

 それでも今回は、まぁいっか。と思えるくらいにはなっていた。
 何せ、十五歳になるまでと思い、お金を貯めていたのだ。そりゃもう、親に盗られるかも知れないという恐怖と戦いながらだ。

 高校に入ったら巷で有名なVRMMORPGをやると決めていたのだ。お金は結構な金額が貯まっている。今までこっそり隠してくれていた、母方の祖母に感謝である。
「で、美玖ちゃん。こんな大金、何に使うつもりだい?」
「んとね、VRMMORPGをやろうと思ってるの」
 その言葉に祖母がにこりと笑った。
「そうかい。ただ、この金額じゃ足りないかもしれないよ」
 そう言って祖母はVRMMORPGをやる上での必要経費を挙げていく。
「今はこのカプセルが必要ないゲームもあるけどね」
「流石お祖母ちゃん、詳しい!!」
「お祖母ちゃんもやってるからね。で、美玖ちゃんはどんなゲームをやりたいんだい?」
「出来れば場所をとらないやつ。ヘッドギアだっけ? あれも目と耳の部分だけのがあるでしょ? その上からアイマスクをつければばれにくいと思うんだ」
「無理だよ。ヘッドギアの上から何かをかぶせてはいけないからね。それに映像は網膜照射が多いから眼鏡は必要ないし。……脳波を感知して全てを行う分、目と耳の部分だけってのは高額だよ。それからソフトはどうするんだい?」
 既に美玖では解決しきれない問題点を挙げていく。
「んとね。本当はお祖母ちゃんとやりたいけど、クラスメイトと一緒になるの嫌なんだ。だから思いっきりマイナーなやつをやろうと思ってるの。それから月々の料金が発生しないやつ」
「……そうかい。だとしたら、どうすべきかね。まずは近くの電気屋さんに行ってみようか」
 相変わらず話が早い。
「それから、お祖母ちゃんのお下がりで申し訳ないけど、美玖ちゃんへの入学祝だよ」
 そう言って見せてくれたのは、先日「知り合いに組み立ててもらった」ばかりという最新式のPCだった。
 羨ましいと思ってみていたが、母も「祖母からのお下がり」と言えばこういった機械を持つことを許してくれる傾向がある。祖母もそれを見越したのだろう。
「美玖ちゃんのお母さんには言ってあるよ。あたしが使い倒したPCだってね」
 おおう。確かに数日使ってた。事実に嘘を紛れこませて、美玖へいいものをプレゼントしたいらしい。
 こういうゲーム関係じたい、美玖は大抵祖母宅でしかやったことがない。
 理由は両親共に嫌っているからだ。
 年齢的にかなり珍しい家庭である。そして、自分の子供たちを独り立ちさせたあとに、「自分の時間」としてゲームをする祖母の姿。母以外の兄弟もそれなりにゲームもすれば、従兄弟たちへ必要に応じてゲーム機なども買い与えている。
 つまり、祖母が母だけに厳しすぎたということは全くないのだ。
「でもさ、お祖母ちゃんのお下がりPC貰ったって言ったら、絶対いっくん辺りが何か言いそう」
「言うだろうねぇ。でもね、お祖母ちゃんのやったPCすら取り上げているのがあの両親だよ。いっくんたちも分かってくれるよ」
 いっくんというあだ名で呼ばれる従兄は既に大学四年である。美玖にゲームの面白さを一番最初に伝えてくれた人でもある。

 祖母の身支度が終わり、近くの電気屋さんに向かった。


「……マイナーでヘッドギアが目と耳だけしかないものを使う、VRMMOですか?」
 しかも、月額料金の発生しないもの。電気屋の店員は目を丸くして復唱した。
「はい!」
「あるでしょう。アレ、、が。ただ、美玖ちゃんには難しいと思うのよ。あとでいっくんとりりちゃんあたりでも誘ってやってごらん」
 祖母の言葉に店員はため息をつき、とあるヘッドギアを持ってきた。
「一応、そのゲームは専用のヘッドギアが必要となってます。最低ランクでも、これになり、上のランクに行けば、専用でなくても大丈夫ですが……」
 予算的にはこれしかないという。
「む~~~」
 これに躓いてしまった場合が難しい。これしか使えないのでは意味がない。
「もう一つ、上のランクにして頂戴」
「お祖母ちゃん!!」
「あたしんとこに預けといた利息で丁度いいよ」
 にっこり笑う祖母に推されて、もう一つ上のヘッドギアを買うことにした。

「ヘッドギアに金をケチるとね、色んな弊害が起こっちゃうからね。最低でもこのランクくらいにはしないと。脳波異常を起こしたりする場合もあるからねぇ」
 あっさりという祖母に、美玖は驚いた。だが、それ以上に出来ることが嬉しい。
「で、美玖ちゃん。ゲームのタイトルは覚えているかい?」
 全く見ないで買ってきてしまった。
TabTapSタブタップス。かなりマイナーなVRだからね。しっかりネットで調べてから仮想空間ヴァーチャルにダイブすることだね。
 あたしもそのうちやってみようとは思ってたんだよ。もし、あっちで会ったらよろしくね」
「うん!」
 祖母の言葉がお世辞でも嬉しかった。

 そしてその日、ひたすら調べまくり、翌日にダイブすることにした。

コメント

  • ふにゃんふなゃん15

    VRを題材にしているのが今っぽくてよいです。メタバースみたいな感じ?

    0
  • ほんしんとう25

    おばあちゃんがメインに出てくる話ってあまり見かけないので続きが楽しみです!

    0
  • ビタミン犬

    VRMMOものというと設定が分かりにくいイメージでしたが読みやすかったです!

    0
  • ノベルバユーザー601490

    おばあちゃん、すごい。話し方に反してめちゃくちゃ機械強い!そしてめちゃくちゃ理解者…。みくにおばあちゃんがいてよかった

    0
  • ブックウーマン

    ワクワクしました!続きが気になる!

    0
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