初心者がVRMMOをやります(仮)
現実世界にて<不穏な空気>
翌朝、美玖は「勉強しに出かける」とだけ両親に言って、家を出た。
バッグの中には勉強道具と覚書、それからヘッドギアが入っている。
あの学年主任のイメージがたった一日で変わってしまったが、授業の分かりやすさにも定評のある人だ。あれは黙っておこうと心に決めてある。
聞いた話によれば、スカーレットとジャッジもこの近場に住んでいるらしい。ジャスティスが少し離れたところで、ディスカスは隣県だという。世間は狭いと思ってしまう。
櫻井駅の待合室で、一人待ちぼうけの形だ。そういえば、溝内以外の顔をカナリアは知らないことに思い至った。溝内もだが、ジャッジたちだって顔かたちを変えていてもおかしくない。
「連絡……あ、先生がするなって言ったんだっけ」
週明けからのログイン情報は俺のほうで聞いてジャッジに教えるよ、帰り際に溝内に言われた一言だ。
溝内は学年主任という立場上、ある程度美玖の親のことも知っている。そして、入学早々に起きたあの事件は、有名だろう。
だが、その頃既に美玖はジャッジに携帯の番号を教えていたのだ。
頻繁にジャッジと連絡を取っていれば、VRMMOをやっていることも親にばれてしまう。
いつかはばれるものだと分かっていても、楽しみは少しでも長いほうがいい。
「うふふ。本当に髪型以外はそのまんま」
「ひゃぁっ!!」
後ろからいきなり抱きつかれ、美玖は悲鳴をあげた。だが、相手が女性である以上、「おふざけ」としか取られないだろう。
「はぁい。美玖ちゃん。昨日ぶり」
「えっと……」
何故この方が美玖の名前を知っているのか。
「昨日会ったスカーレット。よろしく。職業は警察官。兄は教師」
「ははは、初めまして。古瀬 美玖です。溝内……」
「行くよ。つけられてるね」
真顔になったスカーレットに美玖は驚いた。
「あたしは晴香よろしく。リアルで会うときは下の名前を呼んでもらえると助かる」
「よろしくお願いします。晴香さん」
「しかし、あのむさくるしいメンバー相手と一緒にクエスト行けたね」
「先生方と一緒だから、行けたというのが正しいと思います」
「ほんっと、兄貴から聞いてたけどいい子過ぎ!」
歩きながら話していく。ゲームで会った人と、現実で会うというのは不思議な感じがしてしまう。
それにしても……と美玖は思う。晴香に比べると、美玖の身体が貧相に見えるのだ。ゲーム内では、そこまで感じなかったが。
「ゲームの方がぽっちゃりしてるって不思議」
リアルと同じにしたつもりの美玖は驚いた。
「顔を見る限り、痩せた? 頬がこけてるよ」
「そう、ですか?」
よく分からない。
そのあとも他愛ない話をしている間に、図書館についた。
「ごめん。トイレに行って」
「え?」
「駅からずっとつけられてる。美玖ちゃんをつけてるのか、あたしをつけてるのかはっきりさせるから」
「……分かりました」
仕事用の凛々しい顔になった晴香に、美玖は頷きトイレに行く。
個室にこもると誰かが入ってきたような音がした。
怖い。私が狙われる理由って何? がたがたと震えそうになるのを必死に美玖は堪えていた。
「兄貴、やっぱりつけられてたよ」
『そうかい。で、まけそうか?』
「どうなんだろうね。ただ単に美玖ちゃんが男と会っているのか、本当に勉強だけなのか、知りたいだけって感じもしなくもない」
昨日のうちに、勉強は友達とするのだと話しておけと言ってある。さすがに学年主任といえど、男と二人だけで会って勉強するというのには無理があるのだ。
だからある意味、昨日晴香があのメンバーに乱入して助かったのは、良平とジャッジだろう。
「トイレに入ったっきり出てこないけど」
中年女性の声がした。
「……えぇ。一緒だったのは少しばかり年上の女の人よ。男ではないわ」
誰かと話しているようだ。
「私たちのことを疑ってる? まさか」
少しばかり相手を伺うと、中年女性は声高らかに笑っていた。
「私たちがそう仕向けたんでしょう? 美玖は知らなくていいのよ」
我が子に対する言葉なのだろうか。晴香は思わず疑った。
急いで電話を切り、良平にメールを打つ「虐待の疑いあり」と。
バッグの中には勉強道具と覚書、それからヘッドギアが入っている。
あの学年主任のイメージがたった一日で変わってしまったが、授業の分かりやすさにも定評のある人だ。あれは黙っておこうと心に決めてある。
聞いた話によれば、スカーレットとジャッジもこの近場に住んでいるらしい。ジャスティスが少し離れたところで、ディスカスは隣県だという。世間は狭いと思ってしまう。
櫻井駅の待合室で、一人待ちぼうけの形だ。そういえば、溝内以外の顔をカナリアは知らないことに思い至った。溝内もだが、ジャッジたちだって顔かたちを変えていてもおかしくない。
「連絡……あ、先生がするなって言ったんだっけ」
週明けからのログイン情報は俺のほうで聞いてジャッジに教えるよ、帰り際に溝内に言われた一言だ。
溝内は学年主任という立場上、ある程度美玖の親のことも知っている。そして、入学早々に起きたあの事件は、有名だろう。
だが、その頃既に美玖はジャッジに携帯の番号を教えていたのだ。
頻繁にジャッジと連絡を取っていれば、VRMMOをやっていることも親にばれてしまう。
いつかはばれるものだと分かっていても、楽しみは少しでも長いほうがいい。
「うふふ。本当に髪型以外はそのまんま」
「ひゃぁっ!!」
後ろからいきなり抱きつかれ、美玖は悲鳴をあげた。だが、相手が女性である以上、「おふざけ」としか取られないだろう。
「はぁい。美玖ちゃん。昨日ぶり」
「えっと……」
何故この方が美玖の名前を知っているのか。
「昨日会ったスカーレット。よろしく。職業は警察官。兄は教師」
「ははは、初めまして。古瀬 美玖です。溝内……」
「行くよ。つけられてるね」
真顔になったスカーレットに美玖は驚いた。
「あたしは晴香よろしく。リアルで会うときは下の名前を呼んでもらえると助かる」
「よろしくお願いします。晴香さん」
「しかし、あのむさくるしいメンバー相手と一緒にクエスト行けたね」
「先生方と一緒だから、行けたというのが正しいと思います」
「ほんっと、兄貴から聞いてたけどいい子過ぎ!」
歩きながら話していく。ゲームで会った人と、現実で会うというのは不思議な感じがしてしまう。
それにしても……と美玖は思う。晴香に比べると、美玖の身体が貧相に見えるのだ。ゲーム内では、そこまで感じなかったが。
「ゲームの方がぽっちゃりしてるって不思議」
リアルと同じにしたつもりの美玖は驚いた。
「顔を見る限り、痩せた? 頬がこけてるよ」
「そう、ですか?」
よく分からない。
そのあとも他愛ない話をしている間に、図書館についた。
「ごめん。トイレに行って」
「え?」
「駅からずっとつけられてる。美玖ちゃんをつけてるのか、あたしをつけてるのかはっきりさせるから」
「……分かりました」
仕事用の凛々しい顔になった晴香に、美玖は頷きトイレに行く。
個室にこもると誰かが入ってきたような音がした。
怖い。私が狙われる理由って何? がたがたと震えそうになるのを必死に美玖は堪えていた。
「兄貴、やっぱりつけられてたよ」
『そうかい。で、まけそうか?』
「どうなんだろうね。ただ単に美玖ちゃんが男と会っているのか、本当に勉強だけなのか、知りたいだけって感じもしなくもない」
昨日のうちに、勉強は友達とするのだと話しておけと言ってある。さすがに学年主任といえど、男と二人だけで会って勉強するというのには無理があるのだ。
だからある意味、昨日晴香があのメンバーに乱入して助かったのは、良平とジャッジだろう。
「トイレに入ったっきり出てこないけど」
中年女性の声がした。
「……えぇ。一緒だったのは少しばかり年上の女の人よ。男ではないわ」
誰かと話しているようだ。
「私たちのことを疑ってる? まさか」
少しばかり相手を伺うと、中年女性は声高らかに笑っていた。
「私たちがそう仕向けたんでしょう? 美玖は知らなくていいのよ」
我が子に対する言葉なのだろうか。晴香は思わず疑った。
急いで電話を切り、良平にメールを打つ「虐待の疑いあり」と。
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