初心者がVRMMOをやります(仮)

神無乃愛

ギルマスの苦悩


「ギルマス! 大変です!!」
 ソフィル王国首都に構えるギルド「深窓の宴」本部に、数人の男が集まっていた。
 昨今問題視されている一部PCのことで頭を悩ませていたのだ。

 ソフィル大陸にあるギルドの中では最大といえる、「深窓の宴」実は一枚岩ではない。

 先日、サブマスの一人、トールを更迭したばかりである。
 理由はPKを意味もなく行うこと、そして初心者への恫喝。これ以上「深窓の宴」の評判を悪くさせるわけにはいかない。それが他の幹部陣の一致した意見だった。
 創立時よりいる、トールの強さに惹かれて入団を希望するものもいる。その功績もあったが、それを既に帳消ししてマイナスになっている。

 最初は楽しくやっていたはずなのに、どこから変わったというのか。ギルマスであるレイはため息をついた。
「どうした?」
「は……はい。『初心者の町』で大規模レイドが発生しました!」
「ありえないだろ」
 サブマスの一人、シュウが驚いている。
「間違いありません! 我々のギルドに所属するメンバーも応戦中です! これはギルドからの正式な依頼です!!」
 首都のギルド本部に問い合わせると、緊急クエストが失敗したため、レイド戦へそのままもつれ込んだということだ。
「あそこは装備がほとんどない」
 普段はそういったことに口を出さない、もう一人のサブマス、サイレンまでもが驚いていた。
「サイレン! 悪いがここを任せた! 嫌な予感がする」
 レイは椅子を倒す勢いで立ち上がった。
「レイド戦になるため、部隊を三つ作る。シュウ。お前は先に行け」
「あぁ」
 今、「初心者の町」はある意味活気がある。理由は、アクセサリー職人、カナリアの存在だ。

 一度依頼をしてみたが、断られたのは記憶に新しい。
 古株のカウンター業務に聞けば「向こうのカウンターで拒否している」と口重に答えてくれた。
 理由は明白。今までの「深窓の宴」の悪名のせいだ。

 先日坑道の出入り口で件の職人、カナリアを見つけた。
 周囲を固めていたのは、レイたちですら憧れた四人だった。
 ディッチ、ディスカス、ジャッジ、ジャスティス。
 何度色んなゲームでその名前を聞いただろうか。

 彼らが守っているということを、心の奥底から羨ましく思った。

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