初心者がVRMMOをやります(仮)
ギルド設立
「待たせたね」
ディッチがある程度話をまとめて部屋に戻ってきた。
「兄貴、どうした?」
「いんや。俺らの要望としてはカナリア君は連れてくるだけ、だったよな?」
「そうだけど?」
ディッチが困った顔をして報告を始めた。
ギルマス本人がカナリアに直接謝罪をしたいと言ったらしい。
「ってことは、あのシュウもいるってことですよね?」
ジャッジは思わず確認をいれた。
「そうなんだよ。だから俺も反対なんだけどね」
こればかりは、あの時一緒にいたジャッジとディッチしか分からないことだ。
「……何かあったのか?」
「リアルであのシュウとカナリアは顔見知りなんだ。しかもカナリアを見下した発言をしやがった」
あの時のカナリアをジャッジはまた見たくない。
「……だ、大丈夫、です」
心細げな声でカナリアが言う。実際怖いのだろう。ウサミミの動き方がいつもと違う。この機能に関して、ジャッジはスカーレットに感謝している。無表情になったとしても、耳がカナリアの気持ちを代弁してくれる。
「どこが大丈夫だ」
「……だって、あの人が言ったことは本当です。何も出来ない不器用……」
「カナリアちゃんにシュウは『不器用』なんてのたまったの? じゃあ、あいつはアクセサリーが作れるの? あたしは二度と『深窓の宴』の依頼は受けない。たとえジャスやディスも巻き込んだものだとしても」
「俺も同感だ。こんな綺麗なパーツを残り物で作ったんだ。その発想は誰も出来なかったんだ。そして、それを実行できるくらいの細工LVもあるって事だし」
アクセサリーなどは現実世界のセンスと発想力までもが問われる。こういったものを作りだすカナリアは、現実でもセンスがかなりいいはずだ。
まるで刷り込みのように、カナリアは自己評価が低い。身内からの否定的な言葉がそれを助長させているのだろう。
「うん。こちらとしてはサブマスとカナリア君を会わせない方向でいく。向こうがごねるなら、こちらとしては今後一切『深窓の宴』メンバーからの依頼を受けない、ということでどうかな?」
「賛成」
カナリア以外の声が、はもった。ただ一人、カナリアは「駄目です」と弱々しげに呟いた。それでは他の人たちの評判が下がるだろうと。
「だったらあたしたちでギルドでも作っちゃおっか。弱小ギルドになっちゃうけど。メンバー募集はなしで」
「レット、そりゃいいな。そうしたらギルド共有倉庫が使える。だと、いちいち受け渡す時に面倒な手続きは要らないし」
「それにカナリアが外の大陸に行きやすくなるし、俺らの倉庫も共有扱いにすれば問題ないな」
ジャスティスとディスカスがすぐさま賛成してきた。ジャッジとしては少しばかり複雑だ。つい最近まで、よく話すのはジャッジしかいなかった。それがたった数日でここまで増えたのだ。
「じゃあ、ギルマスは兄貴でサブマスはディスね」
「順当だな」
すぐさまジャスティスが賛成していた。
「ちょっと待て。お前が言いだしっぺなんだ、お前がギルマスだろ」
「はぁ? 常にまとめてる兄貴に言われたくない」
「だったら、お前がサブマスだ」
「やだ」
ディッチとディスカスの言葉に、スカーレットが反論する。
「カナリアちゃん」
「は、はいっ!」
「他の大陸にある鉱石とか金属、欲しくない?」
「ほ……欲しいです!」
即答だった。
「じゃあ、ギルド作ろうか」
「え!?」
「ギルドの利点はね、ギルドメンバー専用の共有倉庫ってのがあるの。そこに入れておけば、カナリアちゃんはソフィル大陸にいながら、他の大陸でしか出土しない鉱石とか金属類を手に入れられるし、必要になったらそのギルドメンバーが拠点にしている他の大陸にも、手順を踏まなくてもいけるようになるの」
スカーレットの言葉にカナリアの目がキラキラし始めた。勿論、ウサミミも「興味津々」というのをきっちり現している。
「だから、あたしとギルドつくろっか。男どもは入れずに」
「ちょっと待て!!」
すぐさまディッチが反論した。
「えー? だって兄貴はギルマスしたくないんでしょ? ディスもサブマスしたくないんでしょ? あたしがギルマスするなら、サブマスはカナリアちゃん。だとしたら他に入れたくないもん」
「分かった! 俺がギルマスやる! んでもってディスにサブマスをさせる!!」
「商談成立」
見事な作戦(?)でギルド設立とギルマスを、ディッチに押し付けていた。
「名前なんてしようか」
「カエルムなんてどう? ラテン語で『空』!」
ジャスティスの言葉にスカーレットがすぐさま言った。
「じゃあ、それで提出してくるか。本部はカナリア君とジャッジが使っているあの家で大丈夫だな」
「おう!」
ジャッジとカナリアを無視して色々と決まっていく。だが、カナリアのことを考えればいい事のはずだ。
「素材が各地から手に入るとだけ思っておけ」
話についていけないカナリアに、ジャッジはそう伝えた。
結局、ギルド本部はソフィル王国の首都かガレ連邦共和国の首都のどちらかにしろと、ギルドカウンターで言われ、ガレ連邦共和国首都に決定した。
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