初心者がVRMMOをやります(仮)
トトとパパンの本気
疲れ果てたまま、良平は自宅に戻りすぐに「TabTapS!」に繋ぐ。悠里に言って他のメンバーには出来るだけログインしてもらうようにしていた。
ディッチになってギルド拠点に行くと、すぐさまセバスチャンが特殊結界を張った。
「ジャッジ、GMコールを頼む。GMも含めて話をしたほうがいい」
どかりとソファに座れば、すぐにセバスチャンがお茶と菓子を用意していた。
「サンキュ」
「ミ・レディのことを案じてくださってる皆様に私が出来るのはこれ位ですから」
少しばかり寂しげな顔でセバスチャンが答えていた。
――どういったご用件でしょうか?――
「先日のPC消失の件です。現実世界でプレイヤーと接触しました。現状、脱水症状が改善されたものの、意識不明です。脱水症状になった場合はどうなるんでしたっけ?」
――脳波や目の動きでそれらを感知した場合、数度の警告があります。それでも従わない場合は強制ログアウトです。ですが、そのような警告を鳴らしたという記録は残っておりません――
だろうな、とディッチは思う。
「今はそこまで発達しているのか」
驚いたようにパパンが言う。
――はい。快適にゲームをしていただけるよう、色々と規則がございます。脳波等で体調不良が分かった場合は、ログインできないシステムです――
「なるほど。ではヘッドギアに関しては?」
――基本推奨以上のものをお使いいただかないと、登録もログインも出来ません。またパソコンのヴァージョンにも同様のことが言えます――
「では仮に、推奨以下のものを使って事故が起きた場合は?」
――弊社の規約から外れることになります。そのため、ログインした際のパソコンのヴァージョンとヘッドギアの情報はこちらに全て記録させていただいております――
「なるほど。それでジャッジ君はその情報が見たいと言ったわけだ。……ということは警察からの情報提供を頼まれないと大抵は公表しないということだ」
――左様でございます――
だろうと思ったからこそ、ディッチはGMコールを頼んだのだ。
――ただ、既に警察署よりそのデータを引き渡すよう申し付かっておりますので、そのデータは既に弊社にはコピーのみしかございません。また、ここでお話されたことも場合によっては警察に提出するものとなります――
「してくれて構わないんじゃないかね」
きっぱりとパパンが言う。そうだ。ここにはスカーレットとトトという二人の警察官がいるのだ。
――ご協力ありがとうございます――
そのあといくつか話して、GMも含めた話し合いは終わった。
「カナリア君の部屋からヘッドギアが見つからなかったそうだ。現在は家宅捜索をすると言っていた。さすがに虐待の可能性もあるという行政と民生委員からの申し出があったから、動きが早いな」
「学校側も動いているからでしょ」
「……まぁなぁ。やっぱり教頭の勘は伊達じゃないな」
最初にカナリアこと、美玖の様子がおかしいことに気付いたのは教頭だった。そして、それを担任と学年主任であるディッチに伝えてきたのだ。担任は己の手に負えないと全てをこちらに一任してきた。
「カナリアちゃん、大丈夫かしら」
ママンが辛そうに呟き、部屋に沈黙が流れた。
「これは、私の独り言だ。気にしないでくれ」
唐突にパパンが口を開いた。
「私が最初の頃、VRMMOというものを毛嫌いしていただろう? トトさんやカカさんもご存知だと思うが、昔のVRは酷かった。医療用にはきちんとしたガイドラインがあったため、問題がほとんどなかったが、ゲーム用ヘッドギアは酷いものが多かった」
パパンの言葉は、今のVRしか知らないディッチたちに驚きをもたらしていく。
軽量化を謳ったヘッドギアは、脳波混乱という異常を起こし、使っていた者たちをこん睡状態に陥れることもあった。パソコンも然り。MMOの頃からの流れか、推奨のヴァージョン以下でも起動が出来た。それゆえ事故が多発。眠りから醒めないまま亡くなる方もいた。
行政側でも後手に回りながら、ガイドラインを決めていく。推奨以下では起動できないロックシステムや、どういったパソコン、ヘッドギアを使ってのログインかをゲーム運営会社に記録することを義務付けた。ところが、子会社どころか孫会社が運営を代行していると、そのシステムを導入しない会社もあった。それを一挙に摘発。どのゲーム会社がソフトを開発、販売、管理、それを行政側に報告を義務付けた。報告されていなかったもの、報告と違うところが管理などをしていた場合は、即ゲームポートの閉鎖などが盛り込まれ、やっと今の形になったのだ。
それでもパパンはゲームのVRは信用できなかった。そしてその下地を作ったであろうMMOも毛嫌いしたのだ。
それを壊したのが、ディッチだ。最初は娘をこっそり誘ってやっていたが、ばれてからはそれこそ堂々と。「一緒にやりませんか? これが嫌ならシューティングなどどうでしょう?」とあの手この手でパパンをゲームに引きずり込んだ。
そして一番のメリットをディッチは言ったのだ。「VR上であれば、時間経過は現実世界よりも早いですから。多少の研究にはもってこいです。そして、失敗したとしても怖くない」と。
ディッチは研究の道を「失敗の怖さ」から諦めた男だと、その時に知った。研究は失敗してこそ成功に繋がる。それを分かっていても、怖いとなれば研究者に向かないのだ。
「資材も採掘すれば無限にありますから。……まぁ、現実とは違う素材も多いので全てが現実と同じに出来るとは限りませんけど」
その言葉が、パパンの脳裏に引っかかった。
もし、だ。現実と同じ環境に設定をしてVRを使えばどうなるか? 時間設定を現実より早めにして、研究を重ねればどうなるのか? 目から鱗が落ちるようだった。
そのためには、医療用で使われている以外のVRに目を向ける必要があると思ったのだ。だから、ディッチに誘われるまま、ゲームを始めた。そして、一昔前と違いプロテクターを搭載していて驚いのだ。
だからこそ、安心してパパンは今までゲームをしていた。
それなのに、もう一人娘が出来たと喜んだ矢先に昔と同じ事故が起きたのだ。
「だからね、カナリアちゃんは悪意があってヘッドギアを外されたと思っているよ。
消え方からしてそうだと思う。そこまで行けば虐待ではなく、殺人事件だと私は思うよ。トトさんはどう思いますか?」
「パパンさんに同意させていただく。今までの話を総括する限り、悪意があれば完全に殺人事件、もしくは殺人未遂になる。
そのつもりでこちらも動かそう」
ゲーム中はどうやっても無防備になる。その時を狙った殺人事件も多いのだ。
だからこそ、VR用のヘッドギアをつけていた場合の罪は通常よりも重くなる。それは今までの事案からも分かることだ。
知らないというのであれば……、ただの愚か者に過ぎないということになる。
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