初心者がVRMMOをやります(仮)
とある過去の悪しき遺産2
その後。
田倉は古瀬家からの金銭的支援が受けられなくなった。人員を割り当てることで「今までどおり」に見せかけている。おそらく、田倉と縁を切る時を模索しているのだろう。
だが、田倉とて大人しくそれを受け入れているわけではない。応仁会を脅しつつ、幼子の事件を自分なりに調べ、人手という支援を受けさせている。
この一件が尚更田倉が金に執着する原因ともなっている。大きな資金源が消えたのだ。
そして、応仁会は。
三男夫婦からの恐喝。「慰謝料」として毎年百十万ずつを二人の口座に振り込むことで、口封じをした。そして当時二十代後半に差し掛かっていた経営者の長男の婚約者に、女児を押し付けられた。
事情を知らぬ長男は、それまでお見合いの嵐だったものが消えて驚いていたという。だが、婚約者になった女児が当時二歳だったこともあり、会うどころか古瀬の血縁者としか知るつもりも無かったようだ。
「それが今回の結果か」
「はい。その時の被害者の子が、養子にしようとしている子ですよ。古瀬 美玖ちゃんといいます。よくぞあんな劣悪な環境で、純粋で擦れずに育ったと妻共々話しています」
「引き取るだけなら、事件をそこまで調べんでも……。応仁会との繋がりと思えば」
「嫌です。いくつか言わせていただきますけどね、応仁会の対応だって、私は怒りたいんですよ? それから古瀬の家から完全に引き離すこと、それから親から完全に引き離すこと、それから親を『心神喪失』状態として、表向き罪に問われないようにしつつ、古瀬の家に押し付けて隔離病棟に放り込みたいだけです」
「親権を放棄させたところで、基本的に親族が引き取るぞ?」
「あぁ。古瀬のところなら、問題ないでしょう。何せ応仁会側からの婚約破棄の話は行ってるでしょうし。罪を犯した者の子供なんて穢らわしいようですよ? 早々と面倒ごとから逃げ出す算段をしているみたいですから」
「つまり、三男夫婦と絶縁するつもりだと?」
「でしょうねぇ……。そうなると美玖ちゃんの母方の実家になるわけですが、そちらだって口に出さないだけで厄介者扱いになるでしょう。引き取ろうとするのは、美玖ちゃんのお祖母ちゃんくらい。その方になら、こちらの身分を言って了承してもらってます。
もし、会長が反対なさるなら、私は今の役員の座を降りてのんびり田舎暮らしをさせていただきます。これから先学歴が必要になるでしょうが、頼む時は溝内さんと決めてますから」
「お前がその子を養子にすると宣言し、それを知っているのは?」
重々しく義道が言う。
「件のお祖母さんに妻。それから溝内さん御夫婦と、悠里たちですかね。応仁会には、『面倒ごとを調べるため』としか言ってませんし。養子にしたいとは言ってませんからね」
「……その子は?」
「入院中です。子会社の禰宜田医療と研究所のVR機器を使って、治療をしたく思っております。今日はそのお願いに来たんです」
「阿呆か!! お前は!」
義道が腹の底から怒鳴り声をあげた。
「会長、私は目の前にいるんですから、そこまで声を張り上げなくて大丈夫です。秘書課の方々がかわいそうですよ」
逆に孝道はしれっとしている。義道の怒鳴り声など聞き飽きている。そして昔ほど怖くはない。
「美玖ちゃんはまだ昏睡状態です。ゲーム中にVR用ヘッドギアを破壊され外されたのが原因で」
「そのリハビリに使うと?」
「はい。最悪今となっては主流から外れた、カプセル型の機器を使う予定をしております」
「カプセル型を研究しておるのは、禰宜田医療と研究所しかないからの」
「えぇ。小さいのも捨てがたいんですけどねぇ。綿密なものはやはりカプセル型には敵いませんよ」
しみじみと孝道が言う。
「いい披検体というわけか」
「どこまでも失礼ですね。その前に披検体になってくれると絶対に言う子がいるので、大丈夫かと」
絶対に保なら言う。「自分も似たような状態になったんだから、まずは自分から。美玖にこれ以上危険なことはさせられない」くらい当たり前に言っていくるだろう。
「おぬしも失礼ではないか?」
「事実です。早く目覚めた状態で美玖ちゃんに会いたいものです」
そうしたら、優しくも厳しく、そして本当の父親として見守ろう。既に相手がいるのが納得いかないが。
「目覚めた状態で会っとらんのかね?」
呆れたような会長の顔。
「最初に会ったのがVRMMOの中でしたし。お盆の頃ですね」
「珍しく即決だの」
「私の決断以上に、妻の決断が早かったんですよ。養子の件も妻からでしたし」
「……むぅ」
最初の礼儀正しさと、可愛らしい容姿にやられたというのが正しいかもしれない。だからこそ、昏睡状態の美玖に会った時、髪が短く無残に感じたのだ。
「まぁ、私の報告は以上です。応仁会への薬や機器の卸は今までどおりでいいかと思いますよ。私たち親子に関わらない限りは」
「さり気なく、言ってくるでない。で、十三年前の『事故』の真相は?」
「あなたが気になってたのは、そっちですか? 美玖ちゃんは当時からかなりの怖がりで、あんな場所には自分から行かなかったそうですよ。行きたいと言った時点で不思議だというのが、近所の人たちの意見です。兄の愛情が幼い従妹に行ったことに嫉妬した、馬鹿な弟がしでかした事件ですね。
これは、その時連れて行った使用人からも証言としてもらえてます」
そう言って孝道はボイスレコーダーを取り出し、その録音内容を聞かせた。
「ふむ。どうしようもないな。無論この男もだ」
「分かっていただけましたか?」
二人は思わず顔を見合わせて黒い笑顔で頷いた。
「よくぞ調べたものだな。しかも禰宜田の名前を出したのは応仁会だけか。誰に似たのやら」
「社長には、会長に似てると言われてます。不本意ですが」
「当たり前じゃ。私はお前ほど腹黒くないぞ?」
「おや? 私は黒くありませんよ。黒いのは会長という名の古狸様ですよ」
空気が急に変わった。変なことで互いがけん制しあうだけなのに、室温が数度下がったようにすら感じるものもいるだろう。
「あんたら、何やってんですか!!」
勢いよく会長室の扉を開け、怒鳴り込んだのは孝道の兄で、社長の義孝だった。
田倉は古瀬家からの金銭的支援が受けられなくなった。人員を割り当てることで「今までどおり」に見せかけている。おそらく、田倉と縁を切る時を模索しているのだろう。
だが、田倉とて大人しくそれを受け入れているわけではない。応仁会を脅しつつ、幼子の事件を自分なりに調べ、人手という支援を受けさせている。
この一件が尚更田倉が金に執着する原因ともなっている。大きな資金源が消えたのだ。
そして、応仁会は。
三男夫婦からの恐喝。「慰謝料」として毎年百十万ずつを二人の口座に振り込むことで、口封じをした。そして当時二十代後半に差し掛かっていた経営者の長男の婚約者に、女児を押し付けられた。
事情を知らぬ長男は、それまでお見合いの嵐だったものが消えて驚いていたという。だが、婚約者になった女児が当時二歳だったこともあり、会うどころか古瀬の血縁者としか知るつもりも無かったようだ。
「それが今回の結果か」
「はい。その時の被害者の子が、養子にしようとしている子ですよ。古瀬 美玖ちゃんといいます。よくぞあんな劣悪な環境で、純粋で擦れずに育ったと妻共々話しています」
「引き取るだけなら、事件をそこまで調べんでも……。応仁会との繋がりと思えば」
「嫌です。いくつか言わせていただきますけどね、応仁会の対応だって、私は怒りたいんですよ? それから古瀬の家から完全に引き離すこと、それから親から完全に引き離すこと、それから親を『心神喪失』状態として、表向き罪に問われないようにしつつ、古瀬の家に押し付けて隔離病棟に放り込みたいだけです」
「親権を放棄させたところで、基本的に親族が引き取るぞ?」
「あぁ。古瀬のところなら、問題ないでしょう。何せ応仁会側からの婚約破棄の話は行ってるでしょうし。罪を犯した者の子供なんて穢らわしいようですよ? 早々と面倒ごとから逃げ出す算段をしているみたいですから」
「つまり、三男夫婦と絶縁するつもりだと?」
「でしょうねぇ……。そうなると美玖ちゃんの母方の実家になるわけですが、そちらだって口に出さないだけで厄介者扱いになるでしょう。引き取ろうとするのは、美玖ちゃんのお祖母ちゃんくらい。その方になら、こちらの身分を言って了承してもらってます。
もし、会長が反対なさるなら、私は今の役員の座を降りてのんびり田舎暮らしをさせていただきます。これから先学歴が必要になるでしょうが、頼む時は溝内さんと決めてますから」
「お前がその子を養子にすると宣言し、それを知っているのは?」
重々しく義道が言う。
「件のお祖母さんに妻。それから溝内さん御夫婦と、悠里たちですかね。応仁会には、『面倒ごとを調べるため』としか言ってませんし。養子にしたいとは言ってませんからね」
「……その子は?」
「入院中です。子会社の禰宜田医療と研究所のVR機器を使って、治療をしたく思っております。今日はそのお願いに来たんです」
「阿呆か!! お前は!」
義道が腹の底から怒鳴り声をあげた。
「会長、私は目の前にいるんですから、そこまで声を張り上げなくて大丈夫です。秘書課の方々がかわいそうですよ」
逆に孝道はしれっとしている。義道の怒鳴り声など聞き飽きている。そして昔ほど怖くはない。
「美玖ちゃんはまだ昏睡状態です。ゲーム中にVR用ヘッドギアを破壊され外されたのが原因で」
「そのリハビリに使うと?」
「はい。最悪今となっては主流から外れた、カプセル型の機器を使う予定をしております」
「カプセル型を研究しておるのは、禰宜田医療と研究所しかないからの」
「えぇ。小さいのも捨てがたいんですけどねぇ。綿密なものはやはりカプセル型には敵いませんよ」
しみじみと孝道が言う。
「いい披検体というわけか」
「どこまでも失礼ですね。その前に披検体になってくれると絶対に言う子がいるので、大丈夫かと」
絶対に保なら言う。「自分も似たような状態になったんだから、まずは自分から。美玖にこれ以上危険なことはさせられない」くらい当たり前に言っていくるだろう。
「おぬしも失礼ではないか?」
「事実です。早く目覚めた状態で美玖ちゃんに会いたいものです」
そうしたら、優しくも厳しく、そして本当の父親として見守ろう。既に相手がいるのが納得いかないが。
「目覚めた状態で会っとらんのかね?」
呆れたような会長の顔。
「最初に会ったのがVRMMOの中でしたし。お盆の頃ですね」
「珍しく即決だの」
「私の決断以上に、妻の決断が早かったんですよ。養子の件も妻からでしたし」
「……むぅ」
最初の礼儀正しさと、可愛らしい容姿にやられたというのが正しいかもしれない。だからこそ、昏睡状態の美玖に会った時、髪が短く無残に感じたのだ。
「まぁ、私の報告は以上です。応仁会への薬や機器の卸は今までどおりでいいかと思いますよ。私たち親子に関わらない限りは」
「さり気なく、言ってくるでない。で、十三年前の『事故』の真相は?」
「あなたが気になってたのは、そっちですか? 美玖ちゃんは当時からかなりの怖がりで、あんな場所には自分から行かなかったそうですよ。行きたいと言った時点で不思議だというのが、近所の人たちの意見です。兄の愛情が幼い従妹に行ったことに嫉妬した、馬鹿な弟がしでかした事件ですね。
これは、その時連れて行った使用人からも証言としてもらえてます」
そう言って孝道はボイスレコーダーを取り出し、その録音内容を聞かせた。
「ふむ。どうしようもないな。無論この男もだ」
「分かっていただけましたか?」
二人は思わず顔を見合わせて黒い笑顔で頷いた。
「よくぞ調べたものだな。しかも禰宜田の名前を出したのは応仁会だけか。誰に似たのやら」
「社長には、会長に似てると言われてます。不本意ですが」
「当たり前じゃ。私はお前ほど腹黒くないぞ?」
「おや? 私は黒くありませんよ。黒いのは会長という名の古狸様ですよ」
空気が急に変わった。変なことで互いがけん制しあうだけなのに、室温が数度下がったようにすら感じるものもいるだろう。
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