初心者がVRMMOをやります(仮)
信用の度合い
カーティスとディッチを交えて、今回の一連の出来事を話していく。
「怠慢としか言いようがない」
そうあっさりと言い切ったのは、カーティスだった。
「分かっています。ですが……」
「どのゲームでも社会の縮図だということはご存知ですか?」
静かにカーティスが言う。
「今まであなた方へ指名依頼をするのに、固定金をいくら支払っていたと思いますか?」
その言葉に思わずサイレンを見たが、サイレンもまた首を振るだけだった。
「昨年までは三十万Pでした。今年お願いしようとしたら七万Pから十万Pだとギルドカウンターで提示されました。それが何を意味するかお分かりか?」
「信用の度合いが一気に下がったんだよ。それすらも分からんのか、お前らは」
サイレンもシュウも答えられずにいると、ディッチが呆れて答えを出してきた。
「指名依頼の固定金ってのはギルドカウンターで決める。今までどれくらい依頼が来ていて、どれくらいでこなすかってのも重要なんだよ。今までと同じ数だけ指名依頼が来てるからって、信用があるわけじゃない。固定金が下がったから指名しやすくなっただけだ。
実際ギルドカウンターじゃなくても分かるぞ。公式HPにしっかりと掲載されている。それを見てどこにするか決めるんだよ」
「じゃあ、あなた方は……」
「俺? 俺はそれなりに気にしている。悪いものを作っちまえばそれだけ下がるからな。生産系は特に死活問題に関わる。オークションの値段にまで反映される」
「我々は特殊ですからね。気にしてません。依頼もほとんど来ませんから、最低ランクでしょうね。エリだけで庭師として依頼を受けたほうが固定金は上でしょう」
茶をすすりながらしみじみとカーティスが言う。
「まぁな。……というか、少し別のものも受けたほうがいいような気が……」
「私は神社仏閣を愛でたくてこれをやっているんですよ!? 母国ではそうお目にかかれない着物を着たくてやっているんですよ!! これだけは譲れません!」
「……そうかい。あの方々と気が合うだけあるよ」
「褒めていただけると嬉しいですね」
「そんなことはさておき、だ。ちなみに、俺たちは実益も兼ねているから千Pで請け負うことにした」
「わ……我々も同じ……」
「お主らは阿呆か」
廊下から年嵩の女性の声が聞こえた。
「……あなたは出張らないはずでは?」
こめかみを押さえて、ディッチが呟いていた。
「喧しいわ」
エルフの女性とそのAIと見られる使用人風の女性。シュウとサイレンはレイと連絡を取るために立ち上げていたタブレットで、その女性を調べようとした、その時だった。
「お主らは名を名乗るつもりすらないのか? かようなもので調べれば終わりと思うておるのか?」
数多のレイドを勝ち抜いてきたシュウたちすらも押さえ込むオーラが、エルフの女性から出てきた。
くいっとディッチのほうを女性は見た。
「あーー。ギルド『深窓の宴』サブマスのサイレンさんとシュウさんですよ。彼女はうちの新メンバーのクィーンです。
それから、シュウさんに関してはあちらの関係者でもありますから」
「ほほう。かような者を謝罪の使者に寄越すとは……頭も愚かと見える」
その言葉にシュウがかっとした瞬間、別の場所から男が出てきて喉元に刀を突きつけられた。
「クィーンさんが出張るほど大物でもございませんよ」
そう言ったのは鬼族の男だった。
「カナリアに関係しておるのじゃろ?」
「ディッチ君の口ぶりからはそのようですが」
「カーティス殿」
「な、なんでしょう?」
「部屋を一つ借りる」
「囲炉裏のあるところでよければ」
「シュウとやら、ついて参れ」
どこまでも命令形な言い方に、シュウは腹を立てつつも従った。
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