初心者がVRMMOをやります(仮)
運営会社との攻防
ジャッジとジャスティスの二人が「月の島」に行く少し前に遡る。
半分我を忘れた状態で、ジャッジはタブレットをいじり始めたのをみてジャスティスは慌てた。
まずい。このままではジャッジがプログラム破壊をしてしまいかねないと。
その時、ジャッジを運営側の結界が包み込み、ジャスティスは安堵のため息をついた。
唐突に、アラームが鳴り響いた。
あり得ない。それが運営会社に勤める織田が最初に思ったことだった。
確かに「TabTapS!」というゲームにおいて、全てのプレイヤーがタブレットなどを使う。そして、プレイヤーによってはそのタブレットやスマホををカスタマイズすることも可能だ。
だが、タブレット内に仕込んであるプログラムで、ゲームに干渉するプログラムを組めないようにしてある。干渉されることにより、他のプレイヤーに影響があることを恐れたためだ。
「警告します。それ以上のプログラミング行為はゲームへの妨害行為として排除……」
『だからなんだ?』
「!!」
その声に織田は恐怖を覚えた。何度か聞きなれていたはずの野々宮 保という青年のはずだ。
「他の方を古瀬さんのようにしたいのですか!?」
『あんたが美玖の名前を出すな。終わったはずの限定クエストのせいで苦しんでいるんだ』
「馬鹿な……」
発売当初から売りになっている「一人しかクリアできないイベント」それはまだ終わっていない。それなのに、終わっただと?
『終わったはずの限定イベントが起きた時点でシステムがおかしいってことだろ?』
「終わっていません! 限定クエストが幾つあると思っているんですか!?」
『知ったことじゃない。俺が始めたときには終わったといわれていた。そしてそれを運営会社は一度も否定しなかった』
それどころか、そんな話は一度も織田たちの耳には入ってきていなかった。入っていたら否定しただろう。
『それを修正するんだから、ありがたいと思って欲しいな』
「内部からのクラッキングがどれ位影響を及ぼすか、あなたほどのプログラマーが分からないわけないでしょう!? 最悪古瀬さんにも影響はいきます!」
『……じゃあ、美玖はまた苦しめって事か? いや、今度はプログラムミスで苦しむんだ』
「あなたがやっても苦しみます!」
初めてだ。何度も話をしたが、ここまで話の通じない男ではなかったはずだ。
『じゃあ、美玖が苦しまなかったらいいんだな?』
「あなたがやったと分かった時点で、彼女は苦しみますよ。野々宮さん」
静かに織田の上司が通信に入ってきた。
「確かにあなたが今組んでいらっしゃるプログラミングで、彼女は助けられるでしょう。ですが、他者にも影響が出ます。それを我々は彼女に伝える義務があります。彼女は、いくらあなたが己を助けるためとはいえ、他者を犠牲にしたと聞いて、苦しまないような人だと思っていらっしゃるのですか?」
『じゃあ、どうしろと?』
「今のところあなたにだけ開示しますが、限定クエストはなくならないのですよ」
『どういう意味だ?』
「限定クエストで得られるものは、多岐にわたります。我々すらも把握できておりません。このゲームは運営も楽しむために開発されたものですから。
例えば、限定クエストをクリアした者がゲームから脱会した時点でその限定クエストは蘇ります。しかも、以前とはクエスト内容に変更が見られ、同じ方法ではクリアできないのですよ」
『よほどの天才が組んだプログラムだな』
「お褒めいただきありがとうございます。初期の頃からいるユーザーなど新規ユーザーに比べれば、少ないものです。それを考えれば全てクリアされていないというのはお分かりいただけるでしょうか?」
『……じゃあ、この顛末はどう落とし前つけるつもりだ?』
「とりあえず早急に限定クエストが終わっていないことを他のユーザーに伝えます。その上で何故そのようなことになったのか、調べます」
通信の向こうでくつくつと保と、対等にやりあう上司。それは織田にとって別の意味で怖かった。
天才同士がぶつかり合うというのは、ここまで怖いものなのかと。
『で、美玖は?』
「現在限定クエストイベントの真っ最中です」
『あいつを一人にしたくないんだが』
「それは無理なんですが」
このまま平行線を辿るかと見えたこの話を終わらせようとしたのは、保だった。
『分かった。じゃあ、運営権限で全員を強制ログアウトさせてくれ。緊急メンテナンスだとな。その上で全ての限定クエストを壊す』
「それは犯罪ですが」
『知ったこっちゃない。美玖が一人になって不安になるよりははるかにましだ。前科者になろうがあんたらには関係ないだろ?』
「……ゲーマーとしての良心があるのならやめてください。限定クエストがなくなった『TabTapS!』なんて飽きるだけですよ。自由な職業と、自由な発想、それから尽きることのない限定クエスト。この三つのうちどれかが欠けてしまえば、『TabTapS!』は成り立たない」
『知るかよ。少なくとも俺たちが知ってるコレに限定クエストは存在していない』
既にゲームの名前すら呼ぼうとしない保に、織田はかける言葉がなかった。
与える側は知っていた。限定クエストがあり、クエストもクリア方法も多岐にわたり、何度でも楽しめるということを。だが、与えられた側はネットでの情報だけを頼りに、クリアを目指していたことを。そして、運営側の怠慢が招いた出来事が、「限定クエストは全て終わっている」という根も葉もない噂話。
その確認をどこかで怠ったがためにおきた出来事なのだと。
「……二度としないと誓っていただけますか?」
『何を、だ?』
「コレに対するクラッキングとハッキングです」
『限定クエストなんてなくなっちまえば、する必要はないだろ?』
「いいえ。これから私の権限であなたに……チートとも呼べるプログラムをお渡しします。暫くあなたは運営側のAI相手だろうが無敵です。それで古瀬さんを連れ戻してください。その間に起きるイベントは出来れば潰して欲しくはないのですが、あなたの判断に委ねます」
『その代わり、限定イベントをつぶすなって事か?』
「早い話が。一つは『月の島』に行けるように、あなたとお連れ様のグリフォンの召喚時間を無限とします。ただし、『月の島』に着いた時点でそのプログラムは無効となります。
それから、現在誰も入れない『月の島』への入場プログラムです。あなたなら黙って作ってしまいそうですが、他に影響があるので止めてください。
最後に、先程も言いました運営側AIが何かしら攻撃を仕掛けてきた際に使える反撃プログラムと、武器携帯が出来ない場所でも武器携帯が出来るプログラムです。
全てイベント終了後無効となります。これで手を打ってください。このあと巻き込まれた限定イベントにおいては、通常の方法で攻略願います。というか、我々のためにも古瀬さんが巻き込まれないようにしてください」
あ、最後にとんでもないことを言ったと織田は思った。
『善処しておく、としか言えないな」
「限定イベントクリアはフィールドにいる全プレイヤーに知らせますので、古参のプレイヤーはそれだけで分かるかと思います」
『なぁ、あんたともあろうお人が、それだけで済むと思っているのか? 神崎さん』
一度も名乗っていない上司の苗字を保は言い当てていた。
「いつ、分かりました?」
上司の声も震えている。
『あんたになってから大体は想像ついてた。確証はチートスキルの授与だな。俺から言わせてもらえれば、公表したことによって美玖が迫害を受けるかもしれないってことのほうが重要だ。何せ、あんたらにばれないように限定クエストが終わったように見せかけていたやつらだぞ?』
「……それも、そうですね」
『一応、あんたの今回の提案には乗らせてもらうよ。暫く美玖にはクエストに関わらないようにさせておくから、その間に調べてよ。なんだったら禰宜田の女帝に相談してみるのもいいだろよ』
「あなたから権力者に近い方の名前が出ると思っていませんでした」
『美玖の事で世話になってるからな』
「そうでしたか。では、プログラムを与えますが、他言無用でお願いします」
『一緒にいるやつなら、俺が何しても驚かないよ。運営と軽く交渉したってだけは伝えておくけど。さっさと結界壊してもらえる?』
どこまでもマイペースな人だ。織田は思わず天を仰いだ。そして、己では暴走させることしか出来ないであろう交渉を、あっさりと上手くもっていった上司を尊敬した。
「通信も切りますし、プログラムの付与も終わりました。なるべく周囲に迷惑をかけないでください」
『善処する』
そして通信は切れた。
半分我を忘れた状態で、ジャッジはタブレットをいじり始めたのをみてジャスティスは慌てた。
まずい。このままではジャッジがプログラム破壊をしてしまいかねないと。
その時、ジャッジを運営側の結界が包み込み、ジャスティスは安堵のため息をついた。
唐突に、アラームが鳴り響いた。
あり得ない。それが運営会社に勤める織田が最初に思ったことだった。
確かに「TabTapS!」というゲームにおいて、全てのプレイヤーがタブレットなどを使う。そして、プレイヤーによってはそのタブレットやスマホををカスタマイズすることも可能だ。
だが、タブレット内に仕込んであるプログラムで、ゲームに干渉するプログラムを組めないようにしてある。干渉されることにより、他のプレイヤーに影響があることを恐れたためだ。
「警告します。それ以上のプログラミング行為はゲームへの妨害行為として排除……」
『だからなんだ?』
「!!」
その声に織田は恐怖を覚えた。何度か聞きなれていたはずの野々宮 保という青年のはずだ。
「他の方を古瀬さんのようにしたいのですか!?」
『あんたが美玖の名前を出すな。終わったはずの限定クエストのせいで苦しんでいるんだ』
「馬鹿な……」
発売当初から売りになっている「一人しかクリアできないイベント」それはまだ終わっていない。それなのに、終わっただと?
『終わったはずの限定イベントが起きた時点でシステムがおかしいってことだろ?』
「終わっていません! 限定クエストが幾つあると思っているんですか!?」
『知ったことじゃない。俺が始めたときには終わったといわれていた。そしてそれを運営会社は一度も否定しなかった』
それどころか、そんな話は一度も織田たちの耳には入ってきていなかった。入っていたら否定しただろう。
『それを修正するんだから、ありがたいと思って欲しいな』
「内部からのクラッキングがどれ位影響を及ぼすか、あなたほどのプログラマーが分からないわけないでしょう!? 最悪古瀬さんにも影響はいきます!」
『……じゃあ、美玖はまた苦しめって事か? いや、今度はプログラムミスで苦しむんだ』
「あなたがやっても苦しみます!」
初めてだ。何度も話をしたが、ここまで話の通じない男ではなかったはずだ。
『じゃあ、美玖が苦しまなかったらいいんだな?』
「あなたがやったと分かった時点で、彼女は苦しみますよ。野々宮さん」
静かに織田の上司が通信に入ってきた。
「確かにあなたが今組んでいらっしゃるプログラミングで、彼女は助けられるでしょう。ですが、他者にも影響が出ます。それを我々は彼女に伝える義務があります。彼女は、いくらあなたが己を助けるためとはいえ、他者を犠牲にしたと聞いて、苦しまないような人だと思っていらっしゃるのですか?」
『じゃあ、どうしろと?』
「今のところあなたにだけ開示しますが、限定クエストはなくならないのですよ」
『どういう意味だ?』
「限定クエストで得られるものは、多岐にわたります。我々すらも把握できておりません。このゲームは運営も楽しむために開発されたものですから。
例えば、限定クエストをクリアした者がゲームから脱会した時点でその限定クエストは蘇ります。しかも、以前とはクエスト内容に変更が見られ、同じ方法ではクリアできないのですよ」
『よほどの天才が組んだプログラムだな』
「お褒めいただきありがとうございます。初期の頃からいるユーザーなど新規ユーザーに比べれば、少ないものです。それを考えれば全てクリアされていないというのはお分かりいただけるでしょうか?」
『……じゃあ、この顛末はどう落とし前つけるつもりだ?』
「とりあえず早急に限定クエストが終わっていないことを他のユーザーに伝えます。その上で何故そのようなことになったのか、調べます」
通信の向こうでくつくつと保と、対等にやりあう上司。それは織田にとって別の意味で怖かった。
天才同士がぶつかり合うというのは、ここまで怖いものなのかと。
『で、美玖は?』
「現在限定クエストイベントの真っ最中です」
『あいつを一人にしたくないんだが』
「それは無理なんですが」
このまま平行線を辿るかと見えたこの話を終わらせようとしたのは、保だった。
『分かった。じゃあ、運営権限で全員を強制ログアウトさせてくれ。緊急メンテナンスだとな。その上で全ての限定クエストを壊す』
「それは犯罪ですが」
『知ったこっちゃない。美玖が一人になって不安になるよりははるかにましだ。前科者になろうがあんたらには関係ないだろ?』
「……ゲーマーとしての良心があるのならやめてください。限定クエストがなくなった『TabTapS!』なんて飽きるだけですよ。自由な職業と、自由な発想、それから尽きることのない限定クエスト。この三つのうちどれかが欠けてしまえば、『TabTapS!』は成り立たない」
『知るかよ。少なくとも俺たちが知ってるコレに限定クエストは存在していない』
既にゲームの名前すら呼ぼうとしない保に、織田はかける言葉がなかった。
与える側は知っていた。限定クエストがあり、クエストもクリア方法も多岐にわたり、何度でも楽しめるということを。だが、与えられた側はネットでの情報だけを頼りに、クリアを目指していたことを。そして、運営側の怠慢が招いた出来事が、「限定クエストは全て終わっている」という根も葉もない噂話。
その確認をどこかで怠ったがためにおきた出来事なのだと。
「……二度としないと誓っていただけますか?」
『何を、だ?』
「コレに対するクラッキングとハッキングです」
『限定クエストなんてなくなっちまえば、する必要はないだろ?』
「いいえ。これから私の権限であなたに……チートとも呼べるプログラムをお渡しします。暫くあなたは運営側のAI相手だろうが無敵です。それで古瀬さんを連れ戻してください。その間に起きるイベントは出来れば潰して欲しくはないのですが、あなたの判断に委ねます」
『その代わり、限定イベントをつぶすなって事か?』
「早い話が。一つは『月の島』に行けるように、あなたとお連れ様のグリフォンの召喚時間を無限とします。ただし、『月の島』に着いた時点でそのプログラムは無効となります。
それから、現在誰も入れない『月の島』への入場プログラムです。あなたなら黙って作ってしまいそうですが、他に影響があるので止めてください。
最後に、先程も言いました運営側AIが何かしら攻撃を仕掛けてきた際に使える反撃プログラムと、武器携帯が出来ない場所でも武器携帯が出来るプログラムです。
全てイベント終了後無効となります。これで手を打ってください。このあと巻き込まれた限定イベントにおいては、通常の方法で攻略願います。というか、我々のためにも古瀬さんが巻き込まれないようにしてください」
あ、最後にとんでもないことを言ったと織田は思った。
『善処しておく、としか言えないな」
「限定イベントクリアはフィールドにいる全プレイヤーに知らせますので、古参のプレイヤーはそれだけで分かるかと思います」
『なぁ、あんたともあろうお人が、それだけで済むと思っているのか? 神崎さん』
一度も名乗っていない上司の苗字を保は言い当てていた。
「いつ、分かりました?」
上司の声も震えている。
『あんたになってから大体は想像ついてた。確証はチートスキルの授与だな。俺から言わせてもらえれば、公表したことによって美玖が迫害を受けるかもしれないってことのほうが重要だ。何せ、あんたらにばれないように限定クエストが終わったように見せかけていたやつらだぞ?』
「……それも、そうですね」
『一応、あんたの今回の提案には乗らせてもらうよ。暫く美玖にはクエストに関わらないようにさせておくから、その間に調べてよ。なんだったら禰宜田の女帝に相談してみるのもいいだろよ』
「あなたから権力者に近い方の名前が出ると思っていませんでした」
『美玖の事で世話になってるからな』
「そうでしたか。では、プログラムを与えますが、他言無用でお願いします」
『一緒にいるやつなら、俺が何しても驚かないよ。運営と軽く交渉したってだけは伝えておくけど。さっさと結界壊してもらえる?』
どこまでもマイペースな人だ。織田は思わず天を仰いだ。そして、己では暴走させることしか出来ないであろう交渉を、あっさりと上手くもっていった上司を尊敬した。
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