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神無乃愛

現実世界にて<不可思議なオフ会 1>


 美玖の件以来、塞ぎこんでいた母親から「オフ会をしない?」という知らせが来た時、瑞穂みずほはとうとう気が狂ってしまったのかと思った。
 妹の教育方針のせいか、あまり会えなかった姪っ子はとても素直で礼儀正しい子だったと記憶している。
 妹の犯した事件のせいで、その優しい姪っ子とも会えなくなってしまったのだ。

 姪っ子の「代理人」と称した男は「身の危険を回避するためにもなるべく会わないでください。あなた方も逆恨みの対象となる可能性があります」と言われた。
 警察からも「どこにいるのか分かるように」とお願い、、、されている。一応は断ることも出来たようだが、夫や息子もあっさりと承諾していた。
「……内定取り消しになっちった」
 すこしばかり自暴自棄になった息子、一弥が言う。既に年末。今から新しいところを捜せという方が無理な話だ。院に進もうにも、大学すら居づらい雰囲気らしい。そして、夫も閑職へと追いやられた。
「僕は辞めろと言うまで辞めないよ。それから一弥、お前も諦めないことだよ」
「うん。……せっかく希望職種に内定もらえたのに残念だよ」
「どんな形であれ、止められなかった僕たちにも責任はあるからね。甘んじて受けるよ」
 そんな暗い話ばかりの時だったから、尚更瑞穂は不思議だったのだ。

 オフ会なんて銘打ったとしても、今までは母親の自宅だった。
 だが、そこもマスコミたちが嗅ぎつけているとして、母親は自宅にすら帰れない日々をまだ送っている。
 いつもは車で母の所に行くのだが、今回は電車で行くことになった。

 その旅費は何故か既に母の名前で夫の口座に振り込まれていた。


「お母さん。ホテル暮らしなのよ。少しは節約を……」
 そう、母親を嗜めると、不思議そうな顔をしてきた。旅費のことは全く知らないと。
「誰でしょうね」
「その前に、あたしがどうして一俊かずとしさんの口座を知ってると思うのよ」
「……それもそうでした」
 ちなみに弟夫婦のところも弟の口座に振り込まれていたそうだ。弟も憤慨していたので、説教するつもりだったのだけは分かった。
「でも、時期的にお袋しか思いつかないだろ。何たって珍しく『オフ会しましょ』なんて言ってきたんだ」
 弟が瑞穂を援護射撃してきた。
「あら、あたしだって伝えるようにって言われただけだもの。中々会えなくなるから、その前に会っておきたいって」
「誰に?」
「あんたたちもよぉーく知ってる人たちよ」
 母はそう言うと、駅の構内を歩き出した。

「待たせちゃったかかしら?」
「いんや。まだこっちの面子も揃ってない。悪いけどもう少し待ってもらえるか?」
「いいわよ。……そういえばお金が振り込まれてたって……」
「あんのぉ……砂○け婆め」
 相手を見つけるなり、母と一弥よりも少しばかり年上の男が話し始めた。男と一緒にいたのは、その男よりも年上と見られる男女と、その男と同い年くらいの女性だった。
 そして、その男の声に聞き覚えがあったものの、中々思い出せなかった。
「悪い。遅刻だ」
 そう言って来たもう一人の男。こちらの声も聞き覚えがある。
「ま、行くか」
 年齢層もまばらな一行が、ぞろぞろと動き始めた。


 男に案内されて着いた先は、母が仮住まいとしているホテルとはまた違うホテルだった。しかも、一等地とまではいかなくとも、かなりいい場所に建っているホテルだ。
「ここって……」
「あれ? ご存知でした?」
 夫の言葉に男が不思議そうに言う。
「禰宜田グループの保養所、というか出張とか大きな会議のときに使う場所。僕は一度も使ったことないけどね」
「禰宜田グループにお勤めでしたか」
 相手の面子の中で一番年上と思えた男が夫に訊ねていた。
「えぇ。……しがない孫会社の下請け企業ですが」
 恥じ入るように夫が呟いていた。

 全員が通されたのは、そんな場所の最上階にある部屋だった。
 既に料亭のような料理が運ばれており、瑞穂は目を丸くした。
「あの……」
「とある人物が用意してくれた席ですので、遠慮はいりません。一部気付いていた人もいるようですが、自己紹介させていただきます。
 ジャッジこと、野々宮 保です」
 最初から母と会話をしていた男があっさりと言う。道理で聞き覚えがあったはずだ。毎日のようにVRMMO内で母が経営する店に出入りする男なのだから。
「えっと……完全巻き込まれ組のジャスティスこと、日内 正芳です」
 遅れてきた男も自己紹介をする。
 そして、一番年上の男はディッチこと、溝内 良平。同じ年くらいの女性は、その人の妹でスカーレットこと、晴香。もう一人の女性は、良平の奥さんで悠里さんと名乗っていく。
「こちらの都合上、そちらは『World On Line』上で使っている名前しか聞くなと、指示されてますので。俺たちもプレイヤーネームで呼んでもらえればと思います」
 ディッチがにこりと笑ってそう言ってきた。

「まず、料理を食べる前にとある人物より、皆さんに贈り物を預かっています」
 既に仕切り役に近くなったディッチが、母に少し大きめの袋を渡していた。

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