初心者がVRMMOをやります(仮)

神無乃愛

卵クエストに出発!


 家にこもりがちなるカナリアをクエストに連れ出すのは、「カエルム」メンバーの仕事でもある。カナリアがアクセサリー作りに没頭し続けると、セバスチャンからSOSが入るのだ。そこを見計らいスカーレットやユーリなどが迎えに行くものの、ユーリの戦歴は芳しくない。
 理由は、カナリアの作るアクセサリーに魅せられて、時間を忘れるからだ。そうなるとディッチ、もしくはディスカスが出張る。
 ディッチやディスカスは己も作り始めると時間を忘れることがあるため、どうやったら切り上げられるかを実体験で知っている。だからこそあっという間にクエストに放り込めるのだ。

 最近のリハビリとしては、ジャッジと個別に動くことに重点を置いている。ゲーム内の方が時間が過ぎるのが早いため、リハビリにはもってこいらしい。
「さて、今日はドラゴンの卵を取りに行こう」
「ドラゴンの卵、ですか?」
 ディッチの言葉に、カナリアは思わず首を傾げた。
「ドラゴンの卵は珍味扱いだからね。そんでもって卵の殻は素材としても有用だよ」
「美味しいんですか?」
「食べたことない。ほとんどが納入のみ。そのあとの卵の殻は買っているけど」
 卵の殻自体はそれなりに固く、特殊なハンマーで割るという。ただ、搬送中に一度落としてしまうと、中身が駄目になり買取してもらえないらしい。
「今日は翼竜の卵だ。アクセサリー作りに幅が出るかもしれない。どうだい?
 かくいう俺も飛行機作りのヒントを見つけに行くために受注するようなもんだ」
「行きます」
 思わず即答した。アクセサリー作りのヒントが見つかる上に珍味を運ぶのだ。そしてそのあと卵の殻をもらえれば万々歳。そんな思いがあった。
「ミ・レディ。ドラゴンの肉はいりませんから、クエストだけ成功することに重点を置いてください」
「……はい」
 すぐにセバスチャンに釘を刺される。毒を含んでいないもの、もしくは虫以外をカナリアは色々と持ち込む。料理できるか出来ないかは二の次だ。それを調理するのはセバスチャンの役目のため、少しばかり嫌がられている。

 ちなみに、ドラゴンの肉はゴムのようで煮ても焼いても食えなかった。
 ドラゴンの肉を喜んだのはニーニャとベルドックと呼ばれる大型犬のようなモンスターだった。
「皆、行ってきます」
 カナリアの言葉に、同居人であるモンスターたちがそれぞれのいななきで返してきた。

 本日のパーティはカナリアとディッチの他に、ユーリとジャスティス、ディスカスの五人編成だった。
「とりあえず、ジャスが卵回収。んでもってディスとカナリア君で護衛。ユーリと俺で雑魚を蹴散らす。OK?」
 こういうとき指揮を執るのはディッチだ。
「私で駄目なんですか?」
 カナリアとしてはかなり不思議だ。戦力としてあるはずのジャスティスに卵を持たせるなど。
「卵はかなり重い。STRとVITが高くないと難しい。カナリア君も持てなくないが、持てる時間はかなり短い。それだったら、おそらく最後まで問題なく持てるジャスに持たせておいたほうがいい」
 理由を聞いてしまえば、カナリアも納得だ。途中で落とすわけにはいかないものだ。
「ま、レットがいる時だと、交替で持つけどな」
「最悪、ジャスのLPが減ったら、何か食べさせてやれ」
「はいっ」
 カナリアとしては、全員のLPが減ったら何かを用意するというのが一番の仕事だと思っている。……これは周囲から見るとかなり間違えているのだが。

 そしてセイレン諸島へと五人で向かった。

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