初心者がVRMMOをやります(仮)

神無乃愛

セバスの料理は竜神の胃袋も掴む


「朕は全ての水を守護する竜神……」
「こら! カナリア君!!」
 気がつくとアルテミスがユーリの腕から逃れ、竜神の前にいた。そして目がかなりキラキラしている。……まずい。ディッチの胃が珍しくきりきりいいだした。
『……鱗、いただけま……』
「カナリア君! それ違うから!! 素材じゃないから!!」
「……カナリアは何でも素材にしたがるんだな……」
「ある意味カナリアらしいというか」
「さすがカナリアちゃんですわね」
 ディッチのあとに続いたのはジャスティス、ディスカス、ユーリだ。
「汝は朕の鱗が欲しいとな?」
 その言葉にアルテミスが頷く。
「汝の中におるのは何者だ?」
『私はカナリアと言います。そして、この兎さんはアルテミスといいます。私の家族です』
「ほほう。己の眷属ではないのか? 娘香の巫女よ」
 やはり竜神はカナリアが何者か知っていたらしい。ならば聞くなと言いたくなる。
『家族です。アルテミスは家族です』
 家族であるということが大事らしい。二度言っている。
「キュッ、キュキュッ!」
「『眷属と素材以外はどうなってもいいって考えか』って言ってるぞ」
『ですから、コドラちゃんはジャスティスさんが抱きかかえてましたから、問題ないって思ったんですって。私が抱えるよりもずっといいわけですし。だとしたら残りは素材にもなりうる卵の殻じゃないですか』
 それ自体がどうかと思うのだが。

 すると、竜神や人竜族の夫婦が笑っていた。
「その話から察するに、汝を助けたのはその男か」
「キュッ!」
 竜神の言葉にドラゴンの幼生が嬉しそうに答える。
「礼を言うぞ。さすがに崖から落ちたら我が眷属といえど、どうなるか分からぬからな」
「だからそれは成り行きで……」
「成り行きであっても、礼は言わねばなるまい。娘香の巫女だけであれば眷属がどうなっていたかなど、分からぬ」
 ジャスティスの言葉を遮って竜神が言うが、カナリアがいなかったら間違いなく最短ルートのクリアを目指していたはずだ。
「それにしても、娘香の巫女よ」
『なんでしょう?』
「何故我が眷属を殺めなかった? 素材としては逸品であろう?」
 確かに。ドラゴンの皮革や角もアクセサリーの材料としてかなり使っているはずだ。
『それは討伐依頼でいいわけですし、倉庫にもそれなりにありますから。だったら、見たことのない卵の殻だけで十分かなぁと。それにドラゴンのお肉は食べれませんし』
「食えたら、どうするつもりだった?」
『その時によって変わりますが、討伐していてもおかしくなかったかなと。ただ、どちらにしても今回は討伐しなかったです』
「何故に?」
『討伐するメリットがないというか。……先日ギルドカウンターで翼竜の討伐依頼がありましたから。そっちで十分かなと』
「一度に複数の依頼を受けれるのを知らぬのか?」
 そういえばそのあたりどうなっていたのか、ディッチたちは知らない。
『……そう、なんですか?』
「カナリア、知らなかったのか?」
 ディスカスが驚いて声をかけていた。
『初耳です。一度につき一つしか受けれないと思ってました』
「ちなみに、討伐はともかく捕獲や採取は物を持ったままギルドカウンターで依頼を受ければそれでクエストクリアだぞ」
 それすらも知らなかったらしい。カナリアらしいといえばらしいのだが。
『じゃあ、じゃあ……』
「ぶっちゃけ、討伐依頼を受けて、卵捕獲、その上で討伐という方法もある」
 ディッチが続けて説明だけ入れていく。成功率アップのため、そのようにやるプレイヤーも少なくない。
『し……知りませんでした』
 ショックのあまり打ちひしがれるカナリア。その為、アルテミスの耳は垂れ下がりうなだれた感じになっている。それをユーリがせっせと慰めていた。
「此度はいい方向に動いたのでよしとしたらいかがだ? 娘香の巫女よ」
 人竜族の女性がフォローのように言う。


 丁度、セバスチャンとミントが洞窟にたどり着いた。
「よく来れたな」
「そりゃ、俺はディッさんのAIだし。もう一人はセバスチャンだし」
 あっさりとミントが言う。
「で、セバス。その手に持っているのは?」
「ミ・レディの鞄ですが?」
 またしてもカナリアとセバスチャンこの主従は不思議なことをしている。普通、AIはプレイヤーの鞄を持ち歩いたりしないのだ。「命令」があれば別だが、それでもただ「持つ」だけで、セバスチャンこのAIのようにカナリアプレイヤーの鞄を使うということはない。
「とりあえず食事をお持ちしました。アルテミスにはサラダですが」
 兎に肉を食べさせるつもりはないらしい。少なからずアルテミスに入ったカナリアがショックを受けていた。
「とりあえずミ・レディに言われたとおりミートパイは四つほど焼いてきましたので……」
 言い終わるか終わらないかで、ドラゴンの幼生がミートパイにかぶりついた。
「キュッ!」
 食えないとでも抗議をあげたらしいドラゴンの幼生にジャスティスが少しばかり呆れたように向き合っていた。
「おい。いくらなんでも大きすぎ。切ってやるから少し待ってろ。……他の人にも一つずつで……」
「いいんじゃないか? ってか、どうせサンドイッチとか、スコーンもあるんだろ?」
「ディッチ様、勿論でございます。それから本日はチャイとコーヒーらしきものが手に入りましたので、コーヒーもどきを。そして、紅茶に野菜シェーク、ベリーヨーグルトでございます。
 ミ・レディは野菜ジュースですよ」
『ベリーヨーグルト……チャイ……サンドイッチ……』
 しょんぼりしながらぶつぶつと食べ物を呟いている。
「終わったら作りますから、我慢してください」
『……はい』

 それぞれに渡し終わった後、食事に入る。その輪の中に竜神と人竜族の夫婦もいるのだが。
「美味だな」
「まことに」
「これがプレイヤーの食事か」
 竜神や人竜族の二人が各々話しだす。
「いえ、これはセバスチャンだからこそ出来る技で、私たちでは無理ですわ」
 ユーリがアルテミスを撫でながら説明していた。
「これを食べに人里に降りたいくらいだな」
「キュッ!」
「料理でしたら、いつでもいらして下さい。あとでジャッジ様に頼んで皆様も入室できるよう整えてよろしいでしょうか。ミ・レディ?」
『ジャッジさんがよければ構わないですよ。食べる時は楽しくたくさんの人たちと食べると、美味しいものがもっと美味しくなるって知りましたし』
「駄目な場合は届けられるようにしていただけると嬉しいですね」
「なるほど。その手があったか!」
 竜神が嬉しそうに叫ぶ。

「さて、ここで朕から汝らに祝福を与えるとするか。本来であれば『水の加護』なのだが、それだけではな」
「水の加護」とは水中でも息が出来るようになる、隠しクエストでもらえるスキルだ。
「……ここで手に入ったんだな」
「うむ。限定クエスト用の『水の加護』は、水属性の攻撃はいくらあたっても無効となる効果も付いておる。ただ、水属性の回復魔法は別だ。それに加えて氷魔法と火属性攻撃の軽減。これが付随する。
 ここに来た全てのプレイヤーとAIにそれを授ける。そしてジャスティスにはもう一つ……」
 そう言って竜神がジャスティスのほうへ手をかざす。


「何じゃこりゃーー!!」
 一瞬の間をおいた後、ジャスティスが叫んだ。

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