初心者がVRMMOをやります(仮)

神無乃愛

クィーンとクリス その2


 アントニーとクィーンが「深窓の宴」に赴くようになってから分かった、パッシブスキル。アントニーは「修行僧の誇り」、そしてクィーンが「女帝の威圧」。
 それがどんなものなのか、クリスはしっかりと覚えてきたはずだった。
「おぬしが来るであろうことが分かっていて、我が何もしておらぬと思っておるのか?」
 煙管をふかしながらクィーンが言う。
「アントニー殿に、この空間を『修行の間』にしてもらった。先ほど手に入れたばかりのアクティブスキルじゃ。これは『深窓の宴』メンバーに感謝じゃな。それから我が以前から持っておったアクティブスキル『冷徹の女帝』これを合わせたに過ぎぬ」

 クィーン専用アクティブスキル「冷徹の女帝」。敵と見做した相手を凍てつかせ、動けなくするスキルである。
 ちなみに、このスキルには一つ弱点がある。何としても守りたいものがそばにある場合、敵に対して効果が絶大であるのだが、何故か味方までもが凍てつきやすくなるというものだ。
 ……もっとも、この弱点をクィーンが知ったのは今しがたではある。

 それに対して、孫娘であるユーリはそのまんまだと思ってしまった。現実世界でもゲーム世界でも、クィーンの能力は変わらない。弱者を守るという立場は、一貫しているのだ。

 そして、アントニーのアクティブスキル「修行の間」。
 これは屋内外を問わず、アントニーが指定した場所を一時的に修行空間にするスキルである。その中では、アントニーとクィーン以外の全てのプレイヤー、NPC、モンスターに関わらず、修行開始、、、、と見做され、動いたものをいとも簡単にアントニーが捕まえられるようになるのだ。
 こちらも、フィールドで使ってしまえば、誰もモンスターが倒せなくなるので使えないのだが。

 一長一短のスキルではあるが、現在かなり有効なのは確実である。


「私に話していいんですか? そのスキル」
「何、対策を練りたければお得意のプログラムで組むがよい。その場合、おぬしはゲームから離脱であろうの」
「……何を根拠に」
「とある人物に頼んである。おぬしが己のみに有利なプログラムを開発し、使った場合はアカウントの剥奪。そして、創生主であるにもかかわらず、このゲームに二度と入れぬようにな」
 ちっとクリスが舌打ちする。
「そこまでされる必要はあるのですか?」
「このゲームを心から楽しんでいるものに対する冒涜じゃ。我は一応茶が満足に点てられるようになったら抜けるがの。
 それに、おぬしといい、あの馬鹿共といい何故楽しみを潰すと言いたくなる。『なくなることのない限定クエスト』と銘打っておるが、一部にのみクリアされては面白くないと思う輩も多いはずじゃ。そういった者がこのゲームを辞め、別のゲームへと移行する」
「それはトールのことを言っているのか?」
「トールだけではあるまいて。レイとて同じこと。そしてこの運営会社もじゃ」

 かつん、煙管の音だけがこだました。


 クィーンとて、口出しはしたくないというのが本音である。

 ただ、このまま放置しておけば間違いなく今以上に悪化すると断言できたからこそ、しているだけだ。

 ジャッジを「ヤンデレ」という言葉で表現したクィーン。その裏にある「事情」を知っていたのだ。己をどこまでも偽れるという、その原点はおそらくクリスにあるだろう。

「おぬしにとって『子供』はただの実験台じゃ。それゆえに歪んだ者が多い」

 そう断言すると共に、クィーンはアクティブスキルをキャンセルした。

コメント

コメントを書く

「SF」の人気作品

書籍化作品