初心者がVRMMOをやります(仮)
ギルマス、サブマスは苦労性
このPvPを観戦していたカナリアは、メンバーの闘い方を見て自分は重荷なのだと思った。
「言っとくが、あの布陣はドラゴンを十体相手にするレイドとか、そういうのでやるやつ。通常レイドだと、あそこまでいかない」
そう説明してくれたのはディスカスである。
「カナリアが来てからやってないのは、そういうレイドクエストを受けてないってのもあるが、一番は攻撃方法に厚みが出たから」
「厚み、ですか?」
「そ。カナリアは補助魔法と攻撃魔法、それから回復魔法を使うだろ? まぁ、ぶっちゃけて言えば、俺とディッチの役割を減らしてくれる。その分、ディッチはもっと周囲に気を配れるし、俺も他の事が出来る。そのおかげであの布陣をする前に倒してるってのが一番の理由。
レイドクエストに関しては、俺らが受注してないってだけで、ジャッジなんかは傭兵扱いで色々行ってるはずだぞ。あいつが持ってくる素材なんかはレイドでないと手に入らないものも多いし」
そのあたりは、今回初めて知った。
「ま、何とかなるだろ。決勝戦前にあれをやったってことのほうが、俺らは驚き」
「そう、なんですか?」
「そういうこと。多分ディッチもあいつらが実力あってふざけてるのが分かったから、名乗りで挫いたんだろ」
「あれ、びっくりしました」
「誰も聞いてないんだ。分かるわけない」
ああやってみると、ディッチは本当に策士としての才能があると思ってしまう。
「ゲームの楽しみ方は人それぞれだ。カナリアがどこまでもぶれずにアクセサリーを作るのと一緒だ。俺らはカナリアと関わることで楽しみが増えたんだぞ」
「そう、なんですか?」
「当たり前だろ。お前がいなかったら、全員今頃これ止めて別のゲームを探してた」
そしてこのゲームでまた楽しみを見つけられたのだと、ディスカスは笑っていた。
「私も。ジャッジさんや皆さんと会えて嬉しいです」
現在進行形で楽しい。今までこんなことはなかった。
「これ終わったら、全員でレイド戦でも行くか。人数増えたから全員で一緒にクエストを受けるとなると、レイド戦くらいだからな。
カナリアも重要な戦力だ、頼りにしてるぞ」
「はいっ」
頼りにしている、その言葉が嬉しく、カナリアは笑顔で返事をした。
そんなカナリアを見送り、ディスカスは弁当を控え室に置く。
「サンキュ」
「今度はなにをする気だ、ディッチ」
「とりあえず、暴走しそうなジャッジを抑える……かな?」
「……あ~~」
ディッチの言葉に、ディスカスも曖昧に返事をする。
決勝戦は「深窓の宴第一部隊」なのだ。メンバーの中には、シュウとレイが当然のようにいる。
サイレンが第二部隊を率いていたのだ。それだけが救いである。
「真面目に。ジャッジの顔が怖ぇ」
「同感」
「仕方ないかと。『World On Line』ではイッセンたちまで馬鹿にしようとしてたし。PvPで逆襲にあったけど」
「つまりは、マープルさんも馬鹿にしたと」
「はっきりと。『古参のプレイヤーが道楽で始めた店。品物がいいのも古参だからだ』って言っちまったし」
「……ディッチ」
そこまで聞いたディスカスは腹を括った。
「なんだ?」
「ジャッジ止める必要ねぇ。なんかあったら俺らがサポートすればいい。好きに暴れさせろ」
「おい」
「しゃあない。あの店はジャッジにも思い入れのある店だろうが。レットやお前を含めたパーティを最初に組んだのもあの店。それを馬鹿にされたんだからな」
「言わんとしてることは分かるが、あいつに暴走されると、カナリア君が心配するだろうが」
「……試合よりそっちが心配か」
「ユーリがかなり心配してるし。それに最悪両家親とクィーン様のお小言がつくぞ?」
「……暴走させないように努力するか」
ジャスティスは暴走を止めるつもりがないらしい。ならば年長二人だけでも暴走を止めるしかない。
ディスカスやディッチだって出来うることならあの「修行」は勘弁である。
「ジャス。ジャッジの暴走を止めないのは、了承する。だけどお前は暴走するなよ? したら闘技場は確実に壊れるぞ」
「……善処するとしか言えない」
年長者二人組の胃がきりっと痛んだ気がした。
闘技場へ入った瞬間から、ジャッジは殺気を隠そうとはしなかった。
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