初心者がVRMMOをやります(仮)

神無乃愛

別ゲームにて<楽しみ方の違い>


 注文するまでもなくコーヒー二つとベリーミルク一つ、それから軽食が運ばれてきた。
 さすがリリアーヌ。ログアウトする前にNPCに頼んだようである。ジャッジは少しばかり感心し、胸元に顔を埋めたままのカナリアへ、声をかける。
 しかし、カナリアは「あとで飲みます」と言ったきり顔をあげない。
「ジャッジ、察してやれ。恥ずかしいんだろ」
「そんなもんか」
「つうか、何で姫抱っこなんだよ」
 ジャスティスの言葉に、カナリアも激しく同意だ。
「最初、プレイヤーの多さにカナリアがびっくりしていた」
「だったら、手を繋ぎゃいいだけだろ?」
「最初はそうしてた。あまりにもカナリアを不躾な目で見てくるやろーどもが多すぎた」
「……で?」
「最初は抱き寄せてたが、それでも見てくるからいっそ注目してもらおうと思って抱きかかえた。以上」
「何が『以上』だ。お前阿呆だろ。店の前でおろしてやれよ」
「抱きかかえるのが久しぶりだったんで、離したくなくなった」
「……うん。お前は昔より変態度数が上がってる」
「褒め言葉だな」
「……褒めてねぇ」
 力なくジャスティスが言い、コーヒーをすすっていた。

 まったくもって、照れているカナリアは現実リアルだろうが仮想ヴァーチャルだろうが可愛い。
 現実ではまだそこまでは伸びていない髪を、ジャッジは撫でまわしていた。

「ジャッジさん! あいつ連れて来てくれたってホント!?」
 ばたばたと慌てたように勝手口の方からイッセンが入ってくる。
「あぁ」
 にこりと笑ってジャッジが肯定するものの、イッセンは既に凍り付いている。
「イッセン、諦めろ。ジャッジこいつの変態度数が昔より上がってる。正直カナリアに同情してもいいくらいだ」
「ジャス、それは酷いぞ」
「ん。了解。で、ばあちゃんが来る前に、上の休憩室でカナリアだけ、、、、、、休ませたいんだけど?」
 ジャッジの言葉を無視して、イッセンが言う。そして、ジャッジも上に行こうとするのを「関係者以外立ち入り禁止。カナリアは関係者」と堂々とのたまって、引き離した。
 その時、ジャスティスが親指を立てていたように感じたが、気のせいということにしておこう。

「じゃ、行こうか」
 うつむくカナリアの手を引いて、もう片手にはベリーミルクを持ってイッセンは二階へあがった。

「……あの子、イッセンさんの知り合いでもあるんだ」
「かなりな子だよな」
「何せ、連れてきたのはあの、、ジャッジさんとジャスティスさんだぞ」
「これでイッセンさんも知り合いって事は、マープルさんとも知り合いなんだろうな」
「ってか、かなり近しい人に見えたぞ」
 店に集っていたプレイヤーたちが各々にささやいていた。

 全てが事実なので、ジャッジとしても口出ししにくい。

「よく、こっちに来れたな」
「あぁ。いつの間にか主治医に許可を取ってたみたいだ。リハビリがてら人の多いゲームもしてみてもいいんじゃないかって」
「なるほど」
「とりあえずばあさんたちとの面会が終わったらログアウト。んでもってあっちに繋ぐ」
「カナリアのメインはあっちだからな」
 こそこそとジャッジとジャスティスはささやきあっている。


 ジャッジたちは知らなかった。
 何故、カナリアがこのゲームに来たのかを。

 たった一つの理由だけが、カナリアを突き動かしていたなど。


「安楽椅子」の店員とでもいえる、マープルの家族と共に、カナリアが姿を現したのは、それから三十分後だった。
「そのうち、俺たちもあっちに時々繋いでいい?」
「うんっ。私もジャッジさんと一緒になると思うけど、こっちに時々来るから」
「そっか。じゃあ、今日はお祝いって事で、あたしといっくんと三人でパーティ組まない?」
「りりちゃん、いいの?」
「もっちろん! ずっと夢だったから。三人で一緒に遊ぶの」
 リリアーヌの言葉に、カナリアが嬉しそうな顔をする。
「ってなわけで、ジャッジさん。三人で初級クエスト行ってきます。あたしたちは一時的に初期LVまで下げるから」
「出来るの!?」
「出来るよ。じゃないと、一緒に楽しめないでしょ?」
 カナリアの顔が、かなり綻んでいる。ここまでなるのは、現実でもゲームの中でも滅多にない。
 繋がりの強さを見せ付けられた感じがして、ジャッジは少しばかり面白くなかった。
「じゃあ、そのあと俺らと一緒に回るか? 今回サブ職に『薬師』もって来たんだろ? 薬草とかは多いにこしたことはないしな」
「はいっ」
 元気よく笑うカナリアに、「安楽椅子」の常連客が和んでいたことに気付いたのは、カナリアがイッセンたちとクエストに行ったあとだった。

 戻ってきたカナリアと共に、ジャッジ、ジャスティス、そしてマープルが再度クエストへと向かった。

「楽しかったですっ。ジャッジさん、ありがとうございます」

 ログアウトする直前、カナリアが笑顔で言ってきた。
「俺としちゃかなり妬けたけどな」
「ふぇ?」
 たった数時間いただけで、「安楽椅子」の常連たちからフレンド登録依頼をかなりもらっていた。イッセンやリリアーヌ、そしてジャッジが「厳選」して了承のサインを出したが、早くも五十件を越えたのだ。
 一応「World On Line」の最大フレンド数は、拡張しない限りは二百人である。おそらく、「安楽椅子」に出入りする度に増えるだろうというのが、「安楽椅子」の店員とジャッジたちの総意である。
「まぁ、ジャッジの言葉は無視して、二つのゲームでそれぞれの楽しみ方を見つけるといい」
「はいっ」
 ジャスティスのアドバイスにも、カナリアは笑顔で答えていた。

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