老舗MMO(人生)が終わって俺の人生がはじまった件

穴の空いた靴下

303話 試練

「今日の戦闘はアリシアさんの指示で動いてください」

 朝のミーティングで全員に指示が出る。

「精一杯頑張ります! よろしくお願いします!」

 全員の前で深々と頭を下げるアリシア、ダンジョン内では皆対等な仲間だ。

 戦闘が始まるとアリシアはまた一つユキムラの凄いところを知る。
 敵の数が少ない時は順調に指示を飛ばしていたアリシア、複数の敵パーティが合流して敵の属性や攻撃手段の判断が困難な状況になると正確な指示が飛ばせなくなってくる。

「右の敵はユキムラ、タロで当たってください。正面はえーっと、レン、ソーカ、ヴァリィでお願いして左を残りで……」

 厳しくなると白狼隊メンバーの力押しを多用することになってしまう。
 確かにそうすればよほどのことが無い限り敵は倒せる。
 実力を考慮した作戦と言う意味では間違ってはいない。
 しかし、これはアリシアや他のメンバーの訓練でもある。
 戦闘を終えてユキムラは指導をしようと考えていたが、それをソーカが止める。
 今の戦闘がよくないことはアリシア自身が誰よりも理解している。
 そして、アリシアは自分自身で気が付き、考えて答えを出せるとソーカは信じている。
 ユキムラは優しいので上手く誘導して答えを導かせるが、今のアリシアにはその方法はプライドを傷つける。自信なく指示を出していたアリシアからソーカはそう感じ取っていた。

「アリシアさん、いいえ、アリシア。指示をだす時は自信を持って。
 大丈夫、貴方なら出来る」

 ソーカはただそれだけアリシアに伝える。

 敵は空気を読まない。
 次の階層にはいったメンバーを襲ったのは、モンスターハウスに放り込まれるという危機だった。

「これは……アリシアさん……」

「待ってください! アリシア、貴方の判断に従うわ。
 私たちに指示できるなら貴方の指示に従う、無理なら、自分からユキムラさんに伝えて」

 ソーカが珍しくユキムラに異を唱える。
 ソーカは知っている。この5日間という短い時間だが、アリシアが真摯に今回の特訓と向き合い、そして成長していることを。ソーカは生徒を信用したのだ。

「やります……やらせてください!」

「うん、俺が悪かった。指示をコマンダー!」

 波のように四方八方から敵が襲い掛かってくる。
 考える時間はない、それでもアリシアは見事に自分に与えられた責務を果たす。

「キーミッツ、メリア後方に障壁展開! デリカ、カルラは右方向に大技打ち込んで、敵との距離が出来たら呪符による結界展開、左は私が壁を作ります。その後前方通路まで突破をします。
 通路到達後、後方からの侵入は魔道具で塞ぎつつ通路内で迎撃! 行きます!」

 自信を取り戻した意志のある明確な指示。
 ユキムラは大きく頷く。
 キーミッツとメリアによる風と炎による防壁。
 最も敵の接近が早かった右側面に打ち込まれた技によって、生じた空間にレンの結界が発動する。
 迂闊に結界に触れた魔物はその身を聖なる力で焼かれている。
 アリシアは指示を出すと同時に聖なる壁を比較的距離のあった敵との間に作り上げ、見事に敵の第一波を押さえ込む。
 その隙に前方の敵はユキムラ達が蹴散らして通路までの安全を確保する。
 全員で通路内に陣取って迎撃態勢を取る。
 挟撃される恐れもあるが、後方にしっかりとした注意と幾重にも重ねた壁を作り備える。

「あとは狭い通路に入ってくる敵を確実に落としていきます。
 後方監視は申し訳ないのですがタロにお願いします」

 索敵能力が最も優れたタロ、攻防で頼りになるタロを後方監視に置くことで後方の安全を盤石にする。
 ユキムラも心の中でマーベラス(なぜか横文字)と称賛を送る。
 ソーカも嬉しさから張り切って通路に入り込んでくる敵を切り刻む。
 いくらモンスターハウス化した大量の敵でも、狭い通路を利用した完璧に布陣したパーティを抜くことは、よほどの実力差がなければ起こり得ない。
 アリシアを始め、白狼隊メンバーを除いたメンツだけでもこの布陣が取れればこの難局を乗り越えられただろう。
 もちろん、もう少し博打的な要素が入ってしまうだろうが、指示としてはこれ以上無い指示だった。

 あとは時間は掛かるが安全に敵を殲滅する。

「アオーーーン!!」

 タロの遠吠えが戦闘の勝利を告げる。
 同時にフロア全体がセーフエリアに変わる。

「おお、イベント戦だったのか。
 確かに上位種も混じっていたし、アリシアさんナイスプレイ!」

 イベント戦というのはダンジョン内にたまに存在する文字通りイベントで、今回のように大量の敵が出たり、ボスラッシュがあったりと、ダンジョンに対して高レベルな戦闘になることが多い。
 上手くクリアすると報酬が増えるので、おまけ的な要素だ。無視して通過するという選択肢もある。
 今回も終わってみればすぐ側に下の階へと避難する通路が存在していた。
 なんにせよ、アリシアはその難局を見事な指示で攻略したのだ。

「ソーカ先生……」

 アリシアは潤んだ瞳でソーカを見つめる。

「ソーカでいいわアリシア。流石だったわ」

 そのセリフでアリシアの涙腺は決壊した。
 なんだかんだ言っても、不安はあった。それを支えてくれたのがソーカだったのだ。
 ただただソーカの胸の中で静かに涙を流す。
 それは悲しみの涙ではない、喜びと、確かな成長の証の涙だった。



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