老舗MMO(人生)が終わって俺の人生がはじまった件

穴の空いた靴下

280話 コウとナオ

 山道を何度も昇り降りして、途中何度か野営もしながらやっと山道を抜ける。

「師匠見てください! すごい景色ですよ!」

 最後の山を登りきると、ウーノの街と岬、それに海が眼前に大絶景パノラマで広がる。
 今日は天気も良いので手前の森の緑、岬の草原、海の蒼さがまるで一枚の絵画のように見える。

「結構大きな街だね」

 遠目にもウーノの街は発展した街とわかる。
 巨大な街の規模もそうだが、それを覆い囲む外壁、街道沿いに外壁の外にも発展している町並み。
 建築にもまるで規制があるように、全て白い壁に赤い屋根、揃えられた整然とした美しさが見て取れる。

「各街に色があるのよね、ウーノの街は赤、火を表しているわ」

「へー、そしたら他の街も楽しみだねー!」

「そしたら残り少し、頑張ってねタロ」

「ワオーン!」

 シュタタタタとタロが軽快にタロ号を疾走らせる。
 周囲に人の気配がなければ大体120キロくらいで走っている。
 視点上に人の気配を発見すればすぐに20キロくらいまで減速する。
 後は山を下れば街。

 白狼隊の旅がそんなに簡単に進むわけがない。

「ワン!」

「師匠! 人の反応が街道から外れて2人! それに魔獣もいます!
 前方には襲われた集団!」

「レンとヴァリィは集団の救護! ソーカとタロは俺と二人を救出に行くぞ!」

 全員タロ号から飛び出す。すぐにアイテムボックスへしまい、それぞれの目的に散開する。
 数キロ先の目標まで全速力で駆けつける。

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「はぁはぁ……ナオ! まだ走れるか!?」

「も、もう、無理だよコウ……」

 鬱蒼と茂る草木を必死に振り払いながら森の中を二人の人影が走る。
 先を行く青年が短剣で必死に木々を払いながら後に続く少女の手を握っている。
 青年は、まだ少年とも言えるあどけなさを残している。
 短めな茶髪は汗と泥によってボサボサになって、意志の強そうな生意気そうな顔つきも今は必死さと恐怖がせめぎ合って揺らいだような表情になっている。
 草木が生い茂る森の中を、人の入り込まない木々の間を必死で走るせいで手足は傷だらけ、顔も泥だらけだ。
 少女はその少年よりも二回りは小さな体、幼い顔立ちをしているが将来は美人になることを約束されているような愛らしい顔つき。今は不安と恐怖で歪んでいる。
 しかし、二人共だいぶ足元がおぼつかない、特に後ろからついていく少女は傷だらけになった足や腕の痛みに必死に堪えている。

「あっ!」

 ついに木の根に足を取られ倒れ込んでしまう。

「うわっ!」

 手を繋いでいた青年も引き倒されるように倒れてしまう、二人ですぐ脇の傾斜をゴロゴロと転がり落ちる。青年は必死に少女を抱きかかえて守ろうとする。

「痛ててて……っ! 大丈夫か!?」

「ご、ごめんねコウ……私は大丈、痛っ!!」

 少女は足首を抱える。見るとパンパンに腫れ上がってきている。

「これは……、ナオ、俺の背中に乗れ! あいつらが追ってきている!」

「駄目だよコウ……もう、私を置いてコウだけでも……」

「ダメだ!!」

 突然の大きな声にビクリと少女は肩を震わせる。

「ご、ごめん……でも、ナオを置いていくなんてダメだ!」

 ガサガサガサ!

 二人は言い争いを止めて息を潜める。
 ハァーハァー……という魔獣の吐息が聞こえる。
 坂を転げ落ちたせいで魔獣たちも二人を見失ったようだ。
 声を潜めて青年は少女の耳元で話しかける。

「うまく行けばやり過ごせる……静かにな……」

「うん……」

【グルルルルルル……】

 狼に似た魔獣が不死落ちした魔物グールウルフが腐敗臭をさせながら周囲を伺っている。
 自分が腐っているのに、生の匂いに敏感だ。
 不幸にも森林を走り抜けて傷だらけの生傷から出る血がほんのりと大地に痕を残している。

【ガルル!】

 まっすぐと二人を睨みつける。

「見つかった!?」

 ボタボタと肉汁を振りまきながらウルフが坂を駆け下りてくる。

「クソ!!」

 青年は少女をかばうように抱きしめる。
 万事休す……
 諦めて目をとじる。

(せめて……ナオだけでも……アルテス様……)

 祈りが通じることは正直この世の中殆ど無い。
 しかし、彼の頬には、すっと清らかな風を感じたような気がした。

「……?」

 魔獣達が飛びついて襲いかかられるまで一寸も無かったはずなのに、何の衝撃も痛みも襲ってこない。
 少年は恐る恐る目を開ける。

「くーん」

「わっ!?」

「ど、どうなったのコウ……わー、綺麗なワンちゃん!」

 真っ白なタロが尻尾を振って二人を守っていた。
 飛びかかった魔物は目にも留まらぬタロの攻撃でまさに蒸発した。
 タロの放つ優しく暖かな光に包まれて、二人の傷も疲れも全部どこかへ行っていた。

「タロはホントにゾンビ系だと早いなぁ……」

「私達いりませんでしたねユキムラさん」

 ちょっとするとさらに二人の冒険者風の人間が現れる。
 ユキムラとソーカだ。
 二人の姿は助けられた青年と少女には、とてつもない美青年のおにーさんと美少女のおねーさんに映った。

「あ、あの! 助けてもらってありがとうございます!!
 お、俺、あ、ぼ、僕はコウって言います! こっちがナオです!」

「ああ、助けたのはそっちのタロだから。僕たちは付いてきただけになっちゃったよ」

「こちらがユキムラさん。私がソーカね。
 二人共立てる? 皆のところへ戻りましょ!」

 優しく手を差し伸べてくれる赤毛の美しい女性、こんな綺麗な人をコウは見たことがなかった。
 ぽーっとしながら差し伸べられた手を掴み立ちあがる。
 ユキムラもナオに手を差し伸べて立たせている。
 ナオにしても、こんな素敵な男性は見たことがない。

「かっこいい……」

 思わず口から素直な感想が漏れてしまう。

「なっ……はぁぁー……」

 ちょっとムッとしてしまうコウだったが、正直そのユキムラと呼ばれた青年の姿や振る舞いは同性でも目を奪われてしまうほど格好がいいので、敗北感にさいなまれるしか無い。
 自分もソーカの方に目を奪われてしまっていた。腹を立てる資格はない……

「さて、結構距離があるから、タロ! 頼むよ」

「ワン!」

「きゃっ!」

「うおっ!」

 ふわっと身体が浮いたと思ったら二人は少し大きくなったタロにまたがるように乗せられる。

「しっかり捕まっておいてねー」

 そしていきなり走り出す。
 とんでもないスピードだが、不思議と揺れることも激しい風を感じることもない。
 ホントに安心してその身を預けられた。
 森の木々がまるで別れていくかのように開いていく。
 タロの背中で二人はもうわーわーと驚くしか出来ない。
 横を見ればユキムラもソーカもすごいスピードで並走している。
 この二人が、自分なんかとは比べ物にならないほど優れた冒険者であることをまざまざと見せつけられた。

 こうして無事に救助され、街道の他のメンバーのところへ運ばれるのであった。

 

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