老舗MMO(人生)が終わって俺の人生がはじまった件

穴の空いた靴下

276話 恋は盲目

「おお! こいつらは最近村の側で暴れまわっていた盗賊団!
 お手柄ですぞオリザス殿!」

「い、いやぁ、私は何も……」

「イヤイヤ! お手柄ですぞ! 本当にこいつらは酷い奴らで村からもギルドからも報奨金が出ますぞ!
 よくやってくださいました! どうぞ今日は宿を使ってください!
 いやいやお代なんていりません! 手配しておきます!
 お連れの皆様もぜひぜひ!!」

 ユキムラが目立ちたくないということで代わりにオリザス頼んだ。
 オリザスは居心地が悪かっただろうが、仕方がない。

「勘弁してくだされユキムラ殿……もう、どんな顔をすればわかりませんでしたよ……」

「なんか、すみません」

「ああ、いや。取り敢えずはギルドと街から衛兵が来るそうです。
 それまではこの村に滞在しなければいけません」

「そちらはおまかせしますよ。我々は明日にはウーノに向かうつもりなので」

「いやいやいやユキムラ殿! 報奨金が出ます! それは受け取ってもらわなければ!!」

 それから上げる、絶対にそれはダメだ! と一向に引かないオリザス。
 しばらくは平行線な会話が続いた。

「オリザスさんはウーノの街に顔が利きますよね?
 私たちはあの町で商売しようと思うので、顔利きしてくれると助かるのですが、それのお礼という形でいかがでしょう?」

「そ、そんなこと私の力でできることならなんでもしますよ!
 駄目です、受け取ってから出立してください!」

「師匠、諦めて受け取りましょう。
 ただ、オリザスさん。先程も言いましたが私たちはウーノの町で商売をします。
 逃げも隠れもしませんから、ウーノの街に来る時に届けてもらえますか?」

「おお、それはもちろん!
 良かった。ただでさえあんな高級な治療薬やら治癒魔法までしてもらっているのですから……」

「うーん、気になさらなくてもいいのに……」

「師匠、流石にそれは無理ですよ。諦めましょう」

 こうしてレンの仲介で丸く収まるのでありました。

 夜は村のご厚意で宿に泊まれることになる。豪華な作りではないが手入れの行き届いた暖かな宿。
 女将さんの料理は絶品で、ソーカが狂い出しそうになっていたが、この村を食糧危機にはしたくないので程々に抑える必要があった。
 テンゲンから食材も料理も大量にストックしてあるので、ソーカの説得も簡単だ。
 ユキムラもレシピが増えたと喜んでいる。

「これは野菜自体がすごく美味しいね。このお芋なんてホクホクで甘ささえ感じるよ」

「こっちの鶏肉も凄いですよ、噛めばじゅわっと肉汁が出るのに弾力が凄くて!」

  味付けは控えめに、そしてシンプルにすることでよい素材をさらに高める素晴らしい技術だ。

「うれしいねぇ! 野菜も鶏もウチで育ててるのさ!
 大地と空と水に感謝。全てアルテス様のご加護ってやつさぁ!」

 宿の女将さんも料理が絶賛されて悪い気はしない。
 素晴らしい料理にお腹を満たした一同だが、不満がないわけではない。
 お風呂が無くて井戸で身体を拭くことしか出来ないのだ。
 これにはソーカもしょんぼりだ。
 彼女の悲しい顔は見たくない。ユキムラが立ち上がる。

「女将さん。もしよければ少し魔道具の心得があるので外に集合入浴所的なのを作っても良いかな?」

 裏庭部分の井戸の横が広場になっているのでそこを利用させてもらう。

「魔道具ったって高いんだろう? うちにそんなお金は……」

「いえいえ、ちょっと修行代わりに作らせてもらいたいからお代は取りません」

「そうかい? 悪いねぇ、それならお願いしようかねぇ~」

 女将は軽い気持ちだった。
 まさか、ちょっと作らせてくれで、ほんの少し目を離している隙に、公衆浴場クラスの建造物を作る人間がいるなんて想像もしていなかったのだ。

「こ、これは……」

 母屋よりは小型だが、建物、と言うしか無いものが広場に出来上がっていれば、絶句するしか無い。
 中を見て空いた口が更に広がってしまう。
 男女に分けられた着替え場、扉を開ければ体を洗う場所にはお湯と水が出る蛇口にシャワー。
 浴槽は広く5人位は手足を伸ばせる。
 しかもそこに魔道具からじゃんじゃんとお湯が注がれている。

「こ、こんな水と、いやお湯が、それぞれ……、うーん……」

 女将さんもショックで倒れてしまうのも仕方ない。
 この村は街道の左右に店舗が並んでおり、その裏側に各家庭の家があるという作りだ。
 基本的には街道を通る人相手の商売と、自分たちが食べる分を賄う農場と畜産というのが基本になっている。なので裏側には結構土地の余裕がある。
 今回はそれが災い? してしまった。
 ユキムラはソーカのためにちょっとの自制心が緩んでしまったのだ。

「師匠……ちょっとやりすぎです……」

「ご、ごめん……」

 女将さんに回復魔法をかけるレンに怒られてしまった。

「ユキムラさん、私のためにありがとうございます!」

 それでもソーカの笑顔を見て後悔はたち消えるのでした。
 レンも一応釘は刺したが、ゆったりとみんなで風呂に浸かるのは反対しなかった。

「今のうちにのんびり過ごしましょう~、どうせまた忙しくなるんでしょうし~」

 ヴァリィは盆を浮かべ酒を楽しんでいる。

「あ、俺も俺も」

 大陸が変わり、少しのんびりとした時間が訪れる。
 白狼隊は、穏やかな時間を短い間だが、たっぷりと満喫するのであった。

 なお、この宿は街道一の風呂がある宿としてこの村の発展に大きく寄与していくことになる。
 それは少し先の話だだ。

 

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