老舗MMO(人生)が終わって俺の人生がはじまった件

穴の空いた靴下

265話 覚醒タロ

 二匹の龍の周囲にいる魔物たちはその二匹の機嫌を気にしているかのような動きを見せる。
 チラチラと表情を伺うようなそんな動きだ。
 一方の二匹の龍は金色の方は興味がなさそうにちらりと白狼隊達を見ると目をつむり寝始めてしまう。
 白銀の龍は面倒くさそうに短く【ガ】と鳴くと同じように眠りに入ろうとする。
 周囲の魔物たちはその鳴き声を聞くとビクリと身体を震わせて、血走った目で白狼隊達を睨みつける。
 敵意を隠しもしない、ジリジリと白狼隊を取り囲んでいく。

「気に入らんのじゃ……」

「俺達なんて眼中に無いって態度ですね」

「周囲の有象無象とは別格なのは間違いないので、ある意味助かったかもしれないですけどね」

 二匹の龍を見て背中を冷たい汗が伝っているケイジは素直に感想を述べる。
 数を減らしたとは言っても魔物たちは100を超える。
 それらが血眼になって必死に襲い掛かってきて、更に強大な二匹の龍を相手にするのは大変という彼の考えは間違ってはいない。

「でも、ああいう態度ってちょっと頭にくるよねー」

 ただ、戦闘中のユキムラは、普段の穏やかさよりも少し熱くなりやすいのであった。

「まずは雑魚を蹴散らしてあの二匹の鼻をあかしてやろう!」

「ワーオン!!」

 どうやらタロも腹に据えかねるようだ。
 すでにレンなどは雑魚退治の布石を終えている。
 ユキムラの号令とともに半包囲体勢に移行しようとしていた魔物たちは、魔法で作られた壁によって分断され、自由な行動を阻害されるトラップがそこら中に出現する。
 白狼隊隊士も同様の魔法やスキルを使用することによって、魔物からすれば半包囲の圧倒的に有利な立場でなぶり殺すつもりが、突然味方は分断され、周囲が危険なトラップで溢れる戦場に放り込まれたような状態になってしまう。
 それでも魔物は歩みを止められない。
 ここで敵の手にかかるのも、二匹の龍の逆鱗に触れて殺されるのもどちらも同じだ。
 それならば前に出て敵を倒すという選択肢が最善手のように思ってしまうのも仕方がなかった。
 道の敵の力よりも、魔物たちにとっては二匹の力の方が恐ろしいようだ。

「師匠、なんだか変ですねただ無謀な突撃を繰り返しているように見えます。
 さっきまではもう少し賢かったのですが……」

「それだけ後ろの2匹が怖いのかもしれないね……」

「ユキムラさん半数以上は倒しましたし、残りも問題ないですが……」

 倒すべき敵なので、こんなことを思うのも失礼かもしれないとは思ったが、ユキムラは少し魔物たちを不憫に思った。そして二匹の龍に苛ついていた。

【  アオーーーーーーーーーーーン!!   】

 そんな時、タロがとんでもなく大きな声で遠吠えをする。
 魔力にも似た威圧が乗せられており、白狼隊も魔物も思わず動きを止めてしまうほどの雄叫びだった。

【グルルルルルルル……】

 普段のタロからは想像もつかないような険しい顔つきで二匹の龍を睨みつける。
 今まで魔物たちの断末魔を聞いても何の興味なく眠りについていた二匹の龍は、タロの雄叫びを受けてその鎌首を持ち上げてタロを見つめている。
 タロはまっすぐとその目を受け止めて、自身の姿を本気の戦闘形態へと変化させていく。
 数多のドラゴンたちを倒して手に入れてきた力の集合体。
 それぞれの特色を出すのではなく融合させる形で一つの極点へと至る変化。
 それが、据えかねる二匹の龍の仲間である魔物への態度によって、怒りをきっかけに発現する。

「タ、タロ……!?」

 突然の変化にユキムラたちも驚きを隠せない、その姿をただ見守ろうことしか出来ない。
 周囲の魔物たちも身じろぎ一つせずにその変化を見守っているようだ。

 足元より沸き立つ7色のオーラがタロの身体を包み込む、普段は柴犬ぐらいの大きさのタロがビシビシと音を上げながらライオン程の大きさに成長していく……
 額より生える光り輝く角が2本、白き角と黒き角。
 白色の美しい被毛は輝きを増し、白金の衣を身にまとう。
 ユキムラから与えられた防具もタロのオーラに包まれて変化し、金色の龍の鱗を思わせる装いに変わる。
 武具としての手甲は身体と一体化し5色の輝きを放っている。
 白金の毛皮が黄金のオーラを受けて光り輝く。
 その姿は、まさに神々しいという言葉がピッタリと当てはまる。

「アオーーン!!」

 変化したタロが一吠えすると、周囲の魔物は素早く広間の壁際まで引いていく。
 まるでこれから始まる闘いを見守るように静かに息を潜めて、ただそこにいる。

 面白くないのは二匹の龍だ。
 憎々しくタロを睨みつけながらその身を起こしていく。
 白銀の龍は20m程だろうか、金龍に至っては30mくらいの巨大な肉体であることが初めて分かる。
 それだけ巨大な身体がよどみ無く空中に浮遊する。

「ワン!」

 タロがいつもと変わらぬようにユキムラに、さぁやろう! と言った調子で楽しそうに話しかける。

「あ……、ああ! よーし、皆! タロもかっこよくなったし、親玉との対決だ。
 たぶん、周囲の敵は手を出してこない。
 全身全霊で正面の2匹に集中していこう!」

 あっけにとられていたパーティメンバーもユキムラの号令で気を取り直して隊列を組み直す。
 敵の能力は未知数。
 それでも、今までの敵とは別格、格上相手の命をかけた戦闘の火蓋が今切って落とされたのだ。


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