老舗MMO(人生)が終わって俺の人生がはじまった件

穴の空いた靴下

264話 龍の氾濫

「3部隊に分けるよ! 4人ずつ3方向から来る敵を迎え討つぞ!
 抜かれると結構ヤバイから皆頑張って!」

 上層に入って最初の試練は十字路での3方向からの同時攻撃だった。
 氾濫スタンピードと言っていいほどの量の敵が十字路に向かって文字通りなだれ込んできている。
 第一防衛ラインは各通路に素早く侵入して通路の幅を利用した防衛戦だ。
 もしここを抜かれたら入ってきた通路まで一気に後退して、相手する魔物を通路幅に限定しての総力戦となる。
 もちろんそうなってしまうと退路がないので第一次防衛戦で出来る限り敵の兵力をそいでおきたい。
 敵の進入路がまっすぐな一本道なら放出系大魔法も有効だったが山道は曲がりくねっており、正面の敵にきちっと対応するのが上策となる。

 正面通路はユキムラ、オトハコンビと近距離アタッカーに遠距離アタッカー。
 右手通路はソーカ、タロ、ケイジと支援。
 左手通路はレン、ヴァリィに遠距離アタッカーにタンク。
 打ち合わせなくても効率のよく分かれる。
 正面通路が最も広く敵の数も多いので兎にも角にも圧倒的な火力で敵の数を減らすのが役目だ。
 ユキムラとオトハが大暴れして、後ろからもバンバン攻撃を飛ばす。
 右手通路は脇道が多く突然の奇襲にも対応できるようにスピード重視のソーカとタロ、それに定点維持に優れ、さらに高火力のケイジを置いて安定感を出す。
 左手通路は洞窟状になっているのでヴァリィとタンクがしっかりと敵を押さえて、レンが大魔法で吹き飛ばす戦術を取る。

「フハハハハ! どこを向いても敵だらけじゃ! 愉快愉快!」

「オトハちゃん! なるべく巻き込む投技でね!」

「わかっておるわ! 大回転大車輪!!」

「そうそう! えーっと皆は平気ー?」

「こっちはちょこまか鬱陶しいですけどタロが引きずり出して仕留める感じで問題ないです~」

「レンちゃんが張り切ってるわよー、楽させて貰ってるわー」

「Ok! 余裕あるようなら少しづつ戦線を前進させて敵溜まりを処理しに行こう!」

「「了解!!」」

 各方面、最初は少しバタついたが実際は通路の幅でしか敵は襲ってこない。 
 冷静に少しづつ敵を処分しながら対応していけば普段と何も変わらない。

「しかし、ユキムラのかうんたぁはやはり見事じゃのぉ……
 まるで木の葉を舞うがごとく敵が宙を舞う。舞でも舞っているようじゃ。
 大軍を前に身を晒して恐怖はないのかえ?」

「うーん、慣れ……なんでしょうかね……
 冷静さを失えばそのほうが危険だから、簡単に言えばそれが理由ですね……」

「ユキムラは顔に似合わずどれだけの時間を修羅に置いていたのか……」

「ははははは」

 誤魔化すような笑いと表情からオトハはそれ以上追求するようなことはせずに戦闘に集中する。

「ユキムラちゃん、これ、一箇所に繋がってるようなきがするんだけど……」

「そうですね、この先の広間で道が合流しそうですねユキムラさん」

 しばらく敵を押し返して進んでいくとバラバラの十字路から続いた道が全て階層の終点で一緒になっているのがわかる。俯瞰視点でMAPを見ている白狼隊のメンバーが先に気がつく。
 ユキムラの通路は敵の数が多く、他の通路に比べるとやや進行速度が遅い。

「ちょっと広場への突入はタイミング合わせよう。
 狭いところから広いところへ出るのは気をつけたほうが良いからね。
 少しペースを上げるから待っててください」

 通信を切るとすでにアタッカー二人は大技の準備に入っている。
 オトハはそんな二人に敵を流さないように立ち回りを変更している。
 ユキムラはその動きに感心して自身もやるべきことをやる。
 相変わらず途絶えること無く襲ってくる龍族の敵達を今まで降りかかる火の粉を払っていたのを、こちらから積極的に攻めに転じる。
 火力二人の大技完成までの時間を稼ぎつつ数も減らしていく。
 ユキムラは一瞬で装備を換装させ呪文の詠唱を開始する。
 詠唱しながらも両手に持った剣で敵を切り刻んでいく、呪文の進行で一本また一本と光り輝く魔力の剣が現れ、空中を舞うように敵を切り刻んでいく。

「ユキムラ様、行きます!」

 白狼隊隊士の合図で空中に浮かせた魔法剣を通路ギリギリまで散開させる。
 すでにその数は20を超えている。
 同時に隊士の隣までユキムラは飛び退く。

「マキシマムサウザンドアローストーム!!」

「螺旋那由多天破突!!」

 無数の魔法で作られた矢の水平掃射に続いて、嵐のような強力な突きが通路を覆い包むように放たれる。
 轟音が止むと、跡形もなく吹き飛んだ魔物の死骸とエネルギーの残渣が空気をビリビリと震わせている。
 視覚領域の敵勢力は完全に消滅している。
 ユキムラの視界上からも敵反応は消えている。
 一応念のためにユキムラも追撃が取れるように魔法剣を展開していたが、隊士達の働きはユキムラの想像よりも優れていた。

「うん、素晴らしいね! 一気に進もう!」

 まるで自分のことのように素直に喜ぶユキムラの言葉が隊士たちにとっては何よりも嬉しかった。

「いい上司じゃな」

「はい……最高の目標です」

 オトハと隊士は頷き合いながらユキムラの背中を追っていく。

「広場までの道は確保した。間もなく突入できる。二人共準備はいい?」

「大丈夫よ~、派手な閃光は確認してるわ。出口周囲の敵も一掃されてるわ」

「こちらも突入準備できています。広場内での合流地点までの布石も済んでいます」

「そしたら突入!! その後集合で!」

「「はい!!」」

 一気に広場まで突入する。
 半分ほどドーム状に岩盤で覆われている広場、未だ大量の魔物が奥から広場に現れたメンバーに威嚇の鳴き声を浴びせかける。

「あれが、原因か……」

 そしてその大量の魔物たちの中央に白銀に輝く龍と黄金に輝く龍がとぐろを巻いて眠っていた。
 今まで現れた龍とは格が違う、目の前に対峙すると皆の心に高らかに警鐘を鳴らしていた。






 

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