老舗MMO(人生)が終わって俺の人生がはじまった件

穴の空いた靴下

263話 訓練&訓練

「な、なぁユキムラ? 夜はしっかりと寝たほうが良いのじゃ……
 こ、こんなにたくさんは無理なのじゃ……
 ゆ、許して……」

「ダメですよ、他のメンバーの使う技も頭に入れないとパーティとして動けませんから。
 それに、まだ夕方です。2時間くらい『しか』やりませんよ。
 続きは食事の後ですよ」

 その日からオトハにもユキムラの笑顔が悪魔の微笑みに見えるようになった。
 昼間は戦闘に続く戦闘、早めに切り上げて拠点で座学だ。
 どっさりと積まれたユキムラ特製の教材の山。
 もちろんオトハだけではない。全員参加。
 白狼隊正規メンバーは全員の夜ご飯を作ったりしている。

「べ、勉強は嫌いなのじゃ……」

「勉強はあくまでも基礎ですよ、実際の戦場では無限に近い選択肢から最適解に近いものを瞬時に選ばないといけませんから、知っていてやらないのと、知らなくて出来ないってのは結果は同じですが天と地ほどの差があります。自分の命だけでなくて仲間の命がかかわっているんですから多少大変かもしれませんけど基礎知識として頭に入れておいて損はしないと思います。むしろ知らないことで仲間を危機に陥れて後悔するのは絶対に自分なんですから、その場面を想像すればこういった基礎的な最低限の知識を身に着けるのはむしろ必要最低限の準備だと思いますよ。もちろん同じメンバーでずっと冒険をすることで戦い方やチームプレイを作り上げるスタンスもありますが、それも大変長い時間が必要になります。色々なメンバーと冒険する際に毎回長い時間をかけて戦い方のスタイルを作っていくよりも基礎をしっかりと作っておけば短時間でそれぞれの役割を演じることが可能になります。稀に天才といわれる人は確かにいます。基礎的な知識がなくともその場面においての最適解を直感で把握して行動することができるタイプの人間です。もしもあなたがそういう人間ならこのような座学は必要ありませんね。そうなんですか?」

「いえ……ちゃんと勉強します」

 隣で聞いていたケイジ、ソーシ、ほかのメンバーもいつの間にか正座で教本に向き合っていた。
 こういう時のユキムラは、怖い。

 朝から昼までダンジョンで戦闘、夕方から夜まで座学、夕食や風呂などを済ませたら戦闘指導とミーティング。これが延々と続く。
 しかし、誰一人音を上げることはない。明らかに日々自身の力が成長していくのがわかる特訓にどんどん嵌っていってしまう。
 一週間ほど終えると一回帝都へ帰宅して休日。
 あとはメンツを交代しながらの繰り返しだ。
 もちろんダンジョン内での一週間なので外時間だと一日足らずだ。
 この生活を一か月も続けていると、立派な戦士はいじんが出来上がる。

「それじゃぁ龍の巣ダンジョンもクリアしちゃいましょうか。
 メンバーは白狼隊が10名、それにオトハとケイジで挑むことにします」

 数ヶ月も経過すると、パーティとしての動きは一つの塊として動けるようになり、ダンジョン攻略の準備が十二分に完成された。満を持してのダンジョン攻略である。

「ユキムラ殿、留守はお任せください。
 おかげで親衛隊も精鋭ぞろい、私自身もまさかこのような成長を遂げられるとは……
 オトハ様、ケイジ殿をよろしくお願いします」

 ソーシとライコは留守番だ。
 親衛隊を含めて交代で白狼隊キャンプに参加したおかげで帝都を守る兵士たちも屈強な精鋭に成長した。ギルドを介して冒険者の底上げにもユキムラは積極的に協力している。
 5チームに分かれての育成は今後魔神との戦いに向けての味方戦力の増強に有効な手段であることは間違いない。
 問題は、MDがクリア後には特殊仕様でなくなってしまうことだ。
 しかし、ユキムラには一つ案があった。
 すべての国での旅を終えて、戦闘準備に入ったらそれを利用しよう。そう考えてる手段がある。
 それが実行に移されるのはもう少し先の話となる。

「それじゃぁ、行きましょう!」

 ユキムラの号令でついに龍の巣ダンジョン最終攻略パーティは出発する。
 浅い階層の敵はすでにパターンも完全に理解しており、敵ではない。
 蹴散らしながらずんずんと山道を登っていく。
 龍の巣ダンジョンはリアルでの作りと似て、階層が上がると山道エリアと洞窟エリアが入り乱れる。
 山道エリアは翼龍、地龍、龍人がバランスよく襲ってくる。
 洞窟エリアは地龍と龍人が中心だ。
 たまに洞窟湖などがあって水龍なども出現する。
 龍属性の敵は強力で戦闘も油断は出来ないが、それでも特攻特防対策をしっかりとしている白狼隊パーティにかかれば危なげのない戦闘を行うことが出来る。
 最終回層まで踏破予定なので、疲れを残さないようにしっかりと余裕を持ってセーフエリアでの休憩も取っていく。
 まさに盤石の攻略スタイルを取っている。

「ふぅ、今日はこの階層までじゃの」

「そうですねオトハちゃん。だんだんペース掴んできたね」

「教える者が優秀だからじゃの!」

 がっはっはとオトハとユキムラが笑いあっている。
 ユキムラもオトハに敬語を使うのは止めて最近は息が合う用で戦闘でも近接戦闘スタイルでタッグをよく組んでいる。

「……最近オトハ様と師匠の仲がいい……」

「ユキムラ殿はオトハ様にとって対等以上で接してくれる貴重なお人だからでしょうな」

「なによレン、あっ! もしかしてヤキモチー?」

「な、なに言ってんだよソーカネーチャン!
 ただ、楽しそうだなーって思っただけだよ!
 ネーチャンだってほっとかれてふてくされてたじゃないか!」

「だ、だってー……」

「あらーユキムラちゃんは大人気ね~タロ?」

「わうん!」

「しかし、中腹以上まで上がってきて、このように気安く談笑できるとは……
 白狼隊の強さを垣間見てるような気がします」

「もうケイジさんも引けを取らないじゃないですか!」

「そうですな。私もまだここまで成長するのかと驚いています……」

 ケイジは白狼隊と共に過ごしてから、自分の限界を置いていた事に心の底から反省をしていた。
 勝手にここまでが限界だ。自分には無理だと考えて諦めていた。
 それをいとも簡単にユキムラ達がぶち壊してくれた。

 諦めていた気持ち、それを、諦めるなんて愚かなことだ。
 ケイジの心はある一つの決意を固めていくのでありました。



 
 

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