老舗MMO(人生)が終わって俺の人生がはじまった件

穴の空いた靴下

253話 赤い宝石

 ユキムラ達は大盛況で終えた宴のあとのんびりとした時間を過ごすことが出来た。
 町の人達の笑顔が彼らに活力を与えてくれたことは間違いなかった。

「次のダンジョンを終えれば、残すところはケラリス神国だけだね……」

 ユキムラはソーカと拠点のテラスでゆったりと杯を傾けていた。
 さすがのソーカも会場で大量の料理を胃に収めて来ており、ここでは軽いツマミと酒を楽しんでいる。

「次のダンジョンは龍の巣ですよね、名前の通り龍系の魔物が多いんですか?」

「そうだね、ただ、ドラゴン系じゃなくて龍系なんだよね。
 大きくは変わらないし龍耐性、特攻で問題ないんだけど、浮いてたり物理法則無視してるから少し驚くかもね」

「トウヨウのドラゴンでしたっけ?」

「そうそう。ふふふ、装備も張り切ったからかっこいいよー」

 ユキムラの言うかっこいいは、龍の刺繍やらキンキラの装飾やらでゴテゴテとした方向性だ。
 ヴァリィがデザインしているので、全体として確かにかっこよくまとまってはいる。
 とくにソーカの中華風ドレスっぽい鎧は大変ソーカによく似合った。
 武器もユキムラは青龍刀の二刀流を選択しており、武器の名前も黒竜と白竜と、なんというか、ユキムラ節全開の装備だった。
 本人はこれ以上無いほど上機嫌だったので誰も触れることはない。

「それにしても、いか人参は日本酒とも焼酎とも合いすぎて飲み過ぎちゃうなぁ……」

 人参を細かくスライスしたものと、スルメイカを干して乾燥させたものを同じようにスライスして、酒、みりん、さとう、醤油につけた料理。いか人参。日本では福島のあたりの郷土料理になる。
 イカが多く取れるこのあたりでは昔から干したいかを炙って食べたり汁ものの出汁に利用している。

「この町、少し塩っ辛いおつまみが多くて、ご飯の上に乗せるともう……何杯でも……モグモグ」

 言ったそばから漬物やらタラコやら明太子をご飯の上に乗っけて食べている。
 もう何杯目か、ユキムラは両手で数えられなくなった時点で数えるのを諦めた。
 しかし、ソーカでなくてもこの町で昔から食べられている料理やユキムラが持ち込んだ料理は白米の親友たちが多かった。
 スキルがアレばなんでも作成できるため、この町には無かったタラコやら明太子なんかも用意してある。
 たくあんや漬物も一瞬で作成可能だ。
 山を少し歩けば様々な種類のキノコや山菜も手に入る。
 漬物やきゅうり、キノコ類を細かく刻んで出しと味を調節して一晩つけて作る山形のだしなんかも、スキルの力で直ぐにできる。
 これを炊きたての御飯に乗せて食べるとユキムラでさえ3杯くらいはぺろりと食べてしまう。
 時間のかかる料理や調味料も一瞬で作成できるスキルは素晴らしい。欲しい。
 お腹も満ちて幸せな気分になった二人は素敵な夜を過ごすのでありました。




「さて、それじゃぁ今後のことを決めていこう」

 翌朝、朝食を終えた白狼隊メンバーは朝のミーティングを始める。

「すでに帝都テンゲンでは商店の開設が完了しています。
 売れ行きは大変好調で、さすが首都ですね。
 テンゲン和国の王である帝との面会は師匠が到着後に取り付けていく手はずで、まずは実政を執り行っている役人との顔つなぎから始めています。
 ギルドへたっぷりとダンジョンの宝という点で恩を売っていますし、あれらが帝都に届けばあちらからアクションがあることは間違いないだろう、と報告が上がってきています」

「そりゃそうよね~、合計6箇所。さらにもう一箇所も攻略するであろうパーティ。
 帝都側からすればつなぎ留めておきたくなるわよね~」

「まぁ、俺達はダンジョン終わったらケラリスへ行くけどね」

「でも、その後を考えるためにもきちっと顔を通して壁とGUは配備したいので、師匠には頑張ってもらいます!」

「はーい……」

「そうすると、和装も作ろうかしらね~」

「あ、いいねー。幾つか型作るよー」

「師匠、そこら辺はあとにしてください。まずは出立の日取りはどうしましょう?」

「はいはいはーい! あと2日待ってほしいです!」

「珍しいね。ソーカが積極的に……」

「実はですね『赤い宝石』明日レッドイーセシュリンプが入荷するそうなので、明後日予約してあるんです!」

「おお、ソーカナイス!」

「それはぜひ食べたいですね。ソーカねーちゃんさすが!」

「そしたら私とユキムラちゃんも2日で服作っちゃいましょう」

 ソーカの胃袋を基準に予定が決められていく白狼隊。
 それからユキムラとヴァリィは服飾に籠って、レンは帝都への指示、ソーカはまだ行っていない飲食店の物色に残りの日数を生かすのでありました。

「これがレッドイーセシュリンプ……」

 以前食べたサファイアシュリンプと並んでレア食材の一つだ。
 目の前に置かれたのは単純に茹でただけのレッドイーセシュリンプ。
 燃え上がるように真っ赤な甲羅が輝いている。

「まずは単純に塩ゆでです。これが一番赤い宝石の旨さを感じられると言われています」

 店の名前赤い宝石はレッドイーセシュリンプの別名から取られている。
 鮮やかな甲羅を外すとうっすらとピンク色の白い身がぶりんっと飛び出してくる。
 海老の香りが湯気とともに鼻孔を刺激し、唾液腺が猛烈に仕事を開始する。

「いただきます」

 溢れ出る唾液に注意をしながらかぶりつく。
 歯を弾き返すほどの弾力を一瞬感じるが、ブツリと歯が侵入するとあっさりと身の一部が口の中に転がり込んでくる。同時に大量の旨味を含んだエビのジュースが舌を包み込む。
 小さくなった身を噛むと先程の弾力は少し弱くなっているがしっかりとした噛みごたえが小気味いい。
 噛みしめるたびに大量の旨味が溢れ出し口の中を満たす。
 叩きつけるような強烈な旨味がひくと、あとを引くような上品な甘みが残る。
 ゴクリと身を咀嚼した後にも口の中では優雅な後味が食べるものを喜ばしてくれる。

「ん~~~~~。旨い……」

 ほうっ、とため息が出てしまう旨さだ。
 そして、そのため息に交じる香りでさえも嗅覚を小躍りさせてくれる。
 これが赤い宝石と謳われるレッドイーセシュリンプの破壊力。
 あのソーカも、そのエビの一片一片を大事にじっくりと味わっている。
 それから、エビチリ、エビ餃子、エビチャーハンと堪能した。
 どの料理もそれがはいるだけで何段階も上等な料理に変化する。
 それでも、最初の塩ゆでの衝撃は一番だった。

 ユキムラはこの町にスキルによる赤い宝石の安定供給を一つの目標と掲げることをこの日、決めた。



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