老舗MMO(人生)が終わって俺の人生がはじまった件

穴の空いた靴下

251話 女神ミヤコ

 ユキムラは大名に突き刺した長剣が急に軽くなったことを感じた。
 何か攻撃されるのかと飛び退いて距離を取ったが、そうではないことは光となって消えていく大名から理解できた。
 ユキムラの理解ではもう少し時間がかかるかと思っていたが、全員のコンビネーションが予想の上を行っていたようで、いい意味で予想を裏切られた。
 最後の光の欠片が儚く消えて、周囲から敵の気配が完全になくなったことを確認して、武器をアイテムボックスへと収納してみんなに向き直る。

「お疲れ様。完璧な勝利だね!」

 歓声が上がる。
 ユキムラ自身も喜びに感動していた。
 自分で作ったパーティが自分の想像を越えてくれるような事は、VO時代から数えるほどしか無かった。
 そのどれもが苦難を乗り越えて皆で喜びを分かち合う大切な思い出で、それを思い出したのだった。
 この世界での感動はゲームで味わったものよりも遥かに大きい。
 喜び合い抱き合う仲間たちを見て、大きな感動の波がユキムラを包み込んでいた。

「し、師匠!? な、なんで泣いているんですか??」

「え? あ、アレ? 泣いてる。ホントだ……なんでだろ?
 嬉しかったから、かな……?」

「ユキムラさん大丈夫ですか?」

「ゆ、ユキムラ様、我々に何か不手際がありましたでしょうか!?」

「ち、違うんだ逆だよ逆。想像以上にみんなが自分で考えて強くなってくれたのが、なんか嬉しくて……変だよね……はははは」

 ユキムラは白狼隊のメンバー以外の人たちもこうして生きて成長していくことに、確かな世界がここにあることに今更ながら感動してしまっていたことに後に気がつく。
 この出来事をきっかけにユキムラはVOとこの世界を比べることが少なくなる。
 そして、自分自身も完全にこの世界で生きる人間の一人だと強く思うようになっていく。

 ユキムラからの言葉は副隊長たちにも効果は抜群で、なぜかダンジョンの奥で皆で咽び泣くという不思議な状態になってしまった。
 気を取り直して、ボスの宝箱を回収して、最奥の間へと進む白狼隊。
 部屋の中央には立派な着物を着た女性の石像が置いてある。
 お決まりの耳鳴りが発生すると今回はアルテスとクロノスが現れる。

【ユキムラー、今回ほんと早くて助かるわー】

【おかげで新機能追加しに来た】

 アルテスは中央の石像に軽く触れる。そこから光が石像を包み込みパラパラと表面の石の膜が剥がれ落ち、中から見事な振り袖の女性の姿が現れていく。
 クロノスはタロを連れてその女性の前に歩いて行く。

【ん……あっふ……ここはどこ……?】

 すごく通りの良い凛とした声が部屋に響く。
 見た目は20代半ばくらいの女性だが、声は若々しく可愛らしく、美しい。
 声だけでなく、和風な顔つきで色っぽい泣きぼくろに艶っぽいタレ目。
 スッと通る鼻筋、ふっくらと女性の魅力を引き出す唇。
 同性のソーカでさえ見惚れてしまう美女だった。
 アルテスも美しかったが、その女神は艶がある。

【ミヤコ、久しぶりね。
 相変わらずため息が出そうなほど綺麗ね貴方は……
 男どもが沸き立つのが今から想像できるわ】

【ミヤコ、久しぶり。
 悪いんだけど力貸して、この箱に力込めて】

【なんか、よくわからないけど……その御方が持つものなら喜んで……】

 ミヤコはそっと箱に手を乗せ短い祝詞を唱える。
 ほわっと光る力が、箱に吸い込まれていく。

【流石ミヤコ、これなら出来る】

 珍しく上機嫌なクロノスが箱をタロから受け取っていじっている。

【少し時間かかる。アルテス、ミヤコに説明を】

 それからアルテスがミヤコに現状を説明する。
 その間にクロノスは寄木細工の箱をいじるかのように変化させていく。
 タロが楽しそうにその変化を応援しているかのように、くるくると周囲を走り回っている。

【できた】

 ちょうど現状の説明が終えた時と同じタイミングでクロノスの改造も終えたようだった。
 箱の形態は小型で上品な金時計が正面にくっついていて、白をベースとして金細工が施された、可愛い箱。以前の形態と変化はない。

【これで周囲への干渉をいち早く察知できるし、過剰な干渉を妨害も出来る。
 私達が駆けつけることが出来るまで時間稼ぎも出来る。ほぼ完成形。
 あと一国後の統合もスムーズに行える】

 珍しくクロノスが目を輝かせ饒舌になっている。

【クロノス張り切ったのね、ほぼ『端末』クラスの物じゃない……
 ま、私達も情報はいくらでもほしいから。これからもユキムラ達に頑張ってもらわないとね】

【この国もあと一箇所、頑張って】

【ユキムラさんでしたね。大変な旅お疲れ様です。
 もう少し旅が続きますが、すべてを終えて貴方が望む人生が広がることを応援しております】

 優雅に頭を下げるミヤコ、その姿、振る舞いにソーカも嫉妬を忘れて全員が見入ってしまう。

「が、頑張ります!」

 ユキムラも思わず噛んでしまうぐらいドギマギしている。
 ここまでの存在だとソーカも嫉妬さえ出来ないんだなぁと納得してしまっている。

【じゃぁ、またねー】

 呆けているアセルス達がゲートを開いて帰還していった。
 程なくして停止時間が終わるが、白狼隊のメンツはなんとも言えない気恥ずかしさに包まれているのであった。



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