老舗MMO(人生)が終わって俺の人生がはじまった件

穴の空いた靴下

222話 暗雲雷鳴

「さて、今日はこの階でキャンプしよう」

 ユキムラの一言ですでにいい時間になっていることに気がつく。

「もうそんな時間でしたか。早いものですね」

「その割にはそこまで消耗しなくなった! 儂絶好調!」

 マッスルポーズを取るラナイ。今日一日で15階層くらい進めている。
 明らかにペースが早い。
 海底神殿MDの敵は水属性と土属性、それと聖属性。
 強敵なのは聖属性、聖属性は闇属性以外の全ての属性に優位でしかも物理攻撃・魔法攻撃も軽減する。
 闇属性付与や闇魔法で戦うのがセオリーだ。
 しかし、ラッキーな点は斧による聖属性特攻だ。
 斧が不遇武器なVOにおける救済が聖、闇、神属性への特攻なのだ。
 このお陰で今回の白狼隊の構成上、ユキムラ、ラナイ、カイが斧系武器。
 これがばっちり噛み合っている。
 その御蔭で全員の息があってきた今素晴らしいペースでの攻略が可能になっている。

「いやー始めの頃はどうなることかと思いましたが、盛り返してきましたね!」

「いやー、申し訳ない。あの頃の自分をぶん殴ってやりたい!」

 夕食を食べながら歓談を楽しむ。
 食卓の雰囲気もすっかり明るくなっている。
 現在海底神殿深部86階層、入ってから12日目になる。
 ユキムラ達はレベル800台に突入し始めている。
 ラナイ、カイも500を突破している。
 肉体も別組織レベルで強化され、見た目の年齢はラナイは40代、カイも30代後半くらいかと思われるほど若々しくなっている。

「しかし、フィリポネア王。よろしいのですか? もう、別人ですぞ?」

「いやぁ、ギルドのプレートが本人であることを保証してくれるし、これだけの証人もいる。
 たぶん、きっと、大丈夫……だよね?」

「まぁ、伝説でも勇者のお供をした人間は長寿になったり、レベルが高いと老化しにくいって話はアリますから、そこと来訪者の奇跡ってことで……」

「そうだな、来訪者の力ってことで!」

 ガッハッハッハッハ……!
 食卓がメンバーの笑い声で満たされている時。地上では事件が起きていた。



 ギルドマスターとこの国の王様が来訪者と一緒に未知のダンジョン、しかも誰も救出に行けない、そういう場所へ消えていく。
 その問題の大きさに気がついたのは、すでに何も手を出せなくなった後だった。
 突然の建造物が出現したり、伝説の来訪者が実際に現れたり、見たこともないようなお宝がダンジョンから産出されたり。
 皆の頭が半ば熱病にでも曝されていたかのような状態で、思わず要人の冒険帯同を許可してしまった。

 もし、ユキムラ達とガニ、アスリ、イオラナが旅をしていなかったら大混乱は間違いなかった。
 この3人が中心となったおかげでTOP不在の状態でも不安が広がる前に抑えることが出来ていた。
 そんな状態で半日ちょっとが過ぎた時に事件は起こった。

「アスリ様!! すぐに来てください!!」

 王城で現行の執行官たちの相談に乗っていたアスリが血相を変えた兵士に呼ばれたのは、日もくれて空が暗くなり始めた頃だった。
 同時にガニ、イオラナの元へも急使が走っていた。

「あれを!!」

「……なんだあれは……」

 3人が連れられたのは女神の祠と名付けられた丘、そこから見える海の上空に異常が起きていた。
 空にヒビが入り、バチバチと雷がそのヒビから漏れ出している。
 直下の海は荒れ狂い渦潮を描いている。
 フィリポネア王都の正面に広がる海にこのような変化が起きたことはもちろん過去にもなかった。
 研究している学者も、守っている衛兵も慌ただしく、完全に混乱していた。

「落ち着け!! まずは王都に何が起きてもいいように一般市民を城へ避難!
 兵士たちは第一級臨戦態勢で待機!」

 アスリの一喝で混乱からは回復する。
 怒鳴りつけはしたもののアスリの頭も混乱で溢れ出しそうだった。

「アスリ殿! これはいったい……」

 遅れてきたガニ、イオラナも合流する。

「正直儂にもわからん、イオラナ殿、ギルドでも冒険者の取りまとめをお願いしたい。
 兵達には臨戦態勢を指示している。そのつもりで……」

「ええ、もう指示は出しています。それにユキムラさんたちのGUや障壁の設置も終了しています。
 サナダ商会の人たちにもいざという時にはすぐに起動できるように依頼してあります」

「流石齢20にしてギルドマスターを務めるだけはある」

 ユキムラ達が既に手を打っていてくれていたことにアスリはほんの少しの安心を得る。
 そして次の瞬間、轟音とともに雷鳴が海面を貫いた。
 海面が爆発するように爆ぜて一時的に海が割れた。
 大雷鳴が落ちると空のひび割れは何事もなかったかのように闇夜に戻っていた。
 割れた海も轟音とともに水が流れ込み、どんどんと元の海へと回帰していく。
 しかし、3人の胸には平穏に戻る環境が逆に不安を呼び起こしていた。
 割れた海面の先、神殿のような建築物があったからだ。

「まさか……ユキムラ殿達の身になにか……」

「父さん……」

 ガニは震えるイオラナの肩を支える。

「フィリポネア王……」

 3人が思うことは同じだった。
 どうかユキムラが無事であるようにと……
 彼ならば何があろうとなんとかしてくれる。そう信じていた。


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