老舗MMO(人生)が終わって俺の人生がはじまった件

穴の空いた靴下

208話 ウラスタ

 センテナの街を出立した一同は南東の街ウラスタへと急ぐ。
 センテナのある島とウラスタのある島は距離があり、船で移動するか海底洞窟を利用して抜ける必要がある。
 海底洞窟は人の往来が多く安全ではあるが、急いでいる白狼隊にとってはあまりいい手段とは言えない。
 つまり、海上移動だ。そのために車も水陸両用にしてある。
 タロが海龍の力を手に入れて海をモーゼのように割って走ることが出来ると知ったのは海に出ようとする直前だった。

「ワンワン!」

「大丈夫だよタローこの車は海も走れるからー」

 タロは違う違うとブンブン顔を振ると天井部から顔を出す。

「ワオーン!!」

 雄叫びを一つあげると、なんということでしょう。
 となりの島まで海が割れ海底に道ができたではありませんか!

「……凄いな! そうか龍玉でこんなことまで出来るんだ!
 リヴァイアサンの水も操ってたもんね、すごいなータロは!」

 そんなわけで、波に揺らされることもなく無事にウラスタの街のある島へと移動することが出来たのでありました。
 タロの力は凄いで済むようなものじゃないよなぁ、とのんきなユキムラ以外は思っていたが、まぁ口にだすような無粋な人間はいなかった。

 海底を爆走するとあっという間に隣の島へと到着する。
 走行中の海底の景色は両側に海面がせせり立ち、たぶん一生見ることが出来ない貴重な体験だ。

「いやー、綺麗だったねー」

「すごい景色でした……」

「透明な樹脂で海底にトンネル作ったら名所になりそうだなぁ……そうすれば近くにホテルとか作って一つの事業になる……」

 水族館的な物はこの世界には存在しないので観光としての価値を見いだせるかもしれない。
 ユキムラとレンは将来的なビジネスのチャンスに積極的に意見を交わしながらウラスタへの道を飛ばすのであった。

 ウラスタの街は島に上陸して南方へと車を走らせると見えてきた。
 真っ赤なレンガの城壁が目立っている。
 この島は比較的山地が多く、活火山も存在する。
 山地が多ければ鉱石系の採取に優れているので、街での商店の店員教育に熱が入りそうだった。

 入場は大変スムーズに行われた。ギルド証で白狼隊とわかるとすぐに領主の屋敷へと招待される。
 この街の領主はいまかいまかと白狼隊を待っていたと衛兵の隊長に道すがら話をされた、お陰で連絡が細かくてめんどくさかったので助かる。人懐っこい笑顔を浮かべながら隊長さんはそうぼやいていた。

 ウラスタの街はフィリポネア共和国の中でも最も暑い地帯にあり、雨量も大変多い、町並みも少しでも過ごしやすくするために独特の設計をしている。
 高床式と言われる建築で、スコールなどの大雨でも家の中に水が入るのを防ぎ、そして床下に風を通すことで家全体の通風を得やすくなっている。
 石造りの屋根の上に海藻などを乾燥した素材をかぶせて、その吸水性を利用して水を打つことで建物全体の温度を下げたり直射日光を防いだりと、独自の建築には見るものが多い。
 街の役場を兼ねた領主の館は木造の家が多い中、切り出された大きな石材を基礎に用いて堅牢な土台の上に作られている。
 上モノも漆喰を用いた美しい壁面、街の象徴として堂々とした佇まいだ。

「ようこそいらっしゃいました、サナダ白狼隊の皆様! 私がここウラスタの領主を務めるアスリでございます」

 よく通る大きな声で挨拶をしてくる男性。
 身長は2mほど、そのくせ身体は非常に細い。
 華奢で弱々しいわけではない、必要なものだけを残しているそんな感じだ。
 鋭い知的な目線、この国では珍しい高級品であるはずのメガネ、その奥の瞳は冷静に全員を分析しているようだった。
 ウラスタの街のアスリ、過去にはフィリポネア共和国随一と言われた知恵者で、長い間海賊被害の耐えなかったフィリポネアの問題をその智謀によって解決し、その報奨として中央から地方都市の領主となり、わずか十年で大都市へと成長させた。
 他の領主たちも口を揃えて、味方にすればこれほど頼もしい人物はいない。しかし、敵にするとこれほど恐ろしい人はいない。と言っていた。
 王への信頼も非常に厚く、ユキムラ達がフィリポネア王都へ行く前にこの街に来たかった理由もそこにもある。

「はじめまして、リーダーをしておりますユキムラです」

「ご活躍は聞いております。伝説の来訪者の方とこうして握手できることが出来るとは光栄です」

 対応に一分の隙きもなく、逆に怖さをユキムラは感じていた。
 それでもユキムラ側に悪意はないので自然体が一番だろうと実際にあってみて感じていた。
 隠し事をするなんて不可能。ほんの少し話しただけでユキムラ達にそう感じさせる傑物だった。

「お話は伺っております。街の防備にゴーレムの配置、それに街全体を護る結界装置……
 センテナの結界については既に耳に入っています。素晴らしい能力だそうですね、またそのGUでしたかな、その能力も……」

 用意された紅茶に一口、口をつけるとまっすぐとユキムラの目を見つめる。
 まるで自分のすべてが見透かされるような視線を受けてユキムラは一瞬背中に冷たいものが走る。

「過剰すぎるのではないでしょうか? 本当にその魔神が攻めてくるのかもわからないのに、実は真意は他のところにあるようなことが無いとも限りませんからなぁ」

 驚くほど冷たい口調で放たれる言葉に、汗ばむほどだった部屋に冷気さえ差し込んだように錯覚してしまう。

「それはありません。それに、GUにしても魔神達の幹部と思われる魔物たちには不安さえ残ります」

 それでもユキムラは真実を話すしか無い。そう決めている。

「信じてもらう手立てはありませんが、魔神が攻めてくるのは女神から告げられたことです。
 ダンジョン攻略もこの世界の神や女神を復活させるために行っていることなので、我々は幾度となく神や女神と呼ばれている存在に合っているのです」

「証拠は無いが、信じろと……」

 冷静ではあるが、その声色には猜疑の音が混じっている。

『あら、証拠ならあるわよ』

 ふと気がつくとアルテスがいた。フワフワと空中に。



 

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