老舗MMO(人生)が終わって俺の人生がはじまった件

穴の空いた靴下

195話 女神の壁

 MDから脱出するとまだ日が出たばかりの早朝だった。

「ちょっと時間間違えましたかね?」

 予定では朝の8時位に出てくるはずだった。それが少し早まっている感じがする。

「正確に一日一時間ってことでもないから、それに今回は無茶苦茶な空間だったからね」

「商会の物と連絡が取れました。大きくはズレていないみたいですね今突入から14時間ほどだそうです」

 サナダ商会の人間には通信端末で時間を知ることが出来る。
 内部にいたユキムラ達は時計が狂ってしまうのでこのように外部の人間に聞くことで時間合わせをしている。いずれは電波時計のようにホームから正しい時間を知らせて自動的に時間を合わせるシステムを作りたいとは思っているが、今はタイムトラベラーなので後回しにしている。

「それでも少しズレているわねぇ」

 いつもより少し外部時間が進んでいる計算になっている。

「たぶん最後の砂漠地帯が無茶苦茶だったんだと思うんだよね、確証は無いけど」

 確かめようのないことをいつまでも話していても仕方が無いということで、とりあえず一行は街へ戻り家へと帰ることにする。

「おお! 皆様ご無事でしたか!」

 衛兵が嬉しそうに対応してくれる。
 白狼隊が突入後、森からの追撃はなく、街の安全は保たれていたそうだ。
 一時はベアの出現に街は騒然となったものの白狼隊が原因追求に出てくれるという知らせが広まると街の平穏はすぐに取り戻すことが出来たそうだ。
 日々の貢献度によって街での信頼度も十分に高まっている。

「ハルッセン様も心配されていたのですぐに連絡をします」

「まぁ、まだ早朝ですから、我々は商店にいますのでどうぞ落ち着いてからで構いませんので」

「お心遣い感謝いたします。それでは後ほど使いのものが行くと思います。
 街を守るものとして、白狼隊の皆様とGUには感謝してもしたりません! 
 一同!! 白狼隊の皆様に敬礼!!」

 いつの間にか衛兵の方々が並んで最敬礼をもって対応してくれていた。
 一つの街を守れたことは白狼隊としても喜びを感じていた。

 商店に戻ったユキムラは皆と話し合ってGUの運用について話し合っていた。

「まぁMDとかに入っていると、いまいち自分たちが強くなった気がしないけども、同じレベルかそれ以上の敵が襲ってくる可能性は最初のサナダ街の時に味わっているから。
 今のGUで平気かどうか不安になってきたんだよね……」

「……そうですね……もっと圧倒的な守る力が欲しいですね……」

「GUだけじゃなくて街を守る結界技術も発展させたいですね」

「そうね、街は結界で強固に護って、そとでGUによる撃退。この方が被害が減りそうね」

「複数箇所設置型で巨大防御結界かぁ、いいね、それ。ロマンが溢れる」

「ワン!」

 最近大人しかったタロが皆が話し合っている机に咥えていた一枚のプレートを置く。

「ん? これ、どうしたのタロ? ……これは!?」

 そのプレートには一枚の手紙が添えられており、アルテス達女神からの『穢れ』を拒絶するシステムの試作品だった。

「そっか、女神様達からの贈り物だね! ありがと、タロ!
 そしたらこれを解析して防御結界用魔道具を作ろう!!」

 それからユキムラとレンはプレートの解析と量産に着手した。
 防御結界についてはソーカとヴァリィが案を出し形にしてユキムラが手直しして組み上げていく。
 今回のMDでの報酬を利用しながら、供給できる量とのバランスを取った中で最高の物が一旦組み上げられた。

「よし、試作品としてはこれでいいだろう。あとは海底洞窟MD後に最終の手直しをしていこう」

 後の世に『女神ウォールオブゴッデス』と呼ばれる絶対結界の雛形の誕生であった。

「とにかく防御に特化させた。やれることは詰め込んだ。悔いはない」

 ユキムラは満足気にソーカが入れてくれたコーヒーを口にする。
 皆も集中から解き放たれ至福のひとときを過ごす。
 いい仕事をしたあとの一杯は格別だった。
 皆がその余韻を楽しんでいるとサナダ商店の従業員が領主であるハルッセンからの使いが来たことを告げに来る。

「そしたら、報告も含めてこの結界装置の実験もさせてもう許可を貰いに行こう。
 それが終わったらセンテナの街へ移動だね」

「そしたら我々は商会の引継ぎ等の準備を進めておきます」

「そしたらソーカお願い、後はレンと行くかな……」

「あの、ユキムラちゃん我儘言っていいかしら? 私も連れてってもらえない?」

「うん、いいよ。そしたらレンとソーカで移動の準備と引き継ぎお願いね」

「わかりました師匠!」

 こうして、レンとソーカは事後処理と移動の準備、ユキムラヴァリィはハルッセンとの面会、タロはお昼寝と決まる。

「悪いわねユキムラちゃん」

「うん? いいよ、気にしなくても。ハルッセンさんと話したいこともあるんでしょ?
 今日は語り明かしてきなよ」

「あら、ユキムラちゃん自分のこと以外はよく見えているのね、ちょっと驚いちゃった!」

 まぁ、人間との付き合いも増えてきて、中身の50歳超えのおっさんと混じり合ってそういうことにもほんの少しわかるようになってきたユキムラなのでした。





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