老舗MMO(人生)が終わって俺の人生がはじまった件

穴の空いた靴下

164話 あててんのよ

「ユキムラさーん。好きー」

 ソーカが急にユキムラに抱きつく。
 今は鎧ではない。部屋着、その中でもラフな格好をしている。
 さっきまで胸をもみほぐしていたのに、なんの脈絡もなく急に飛びついた。
 ユキムラは持ち前の能力でフレーム単位で避けることも可能だが、さすがの朴念仁もそれを避けることはしない。

「ちょ、ちょっとソーカさん!?」

「あー、なんで『さん』なんですかー? 浮気ですかー?」

「いや、浮気とかじゃなくて……」

(あ、なんか、ほんとに成長してるな……)

 ユキムラは自分の身体にあたる感触を冷静に分析している。
 さっきまでの酔いは一気に醒めていくのがわかる。
 でも酔いが頭を痺れさせている。
 もちろんそれをどうにかする方法もあるが、その選択肢を選ぶのが惜しいような気もする。
 ユキムラは複雑な感情の間で悩んでいた。

「ユキムラさーん、チューしてください……」

 上目遣いで抱きついて来た女の子にこんなことを言われる。
 ユキムラは考えることを止めた。

「んっ……」

 ユキムラはソーカの願いを叶えてあげる。

「ユキムラさん~もっとー……」

 ソーカの破壊力が凄い……ユキムラはまるで魅了の魔法にでもかかったかのようにソーカの要求にこたえてしまう。
 優しい口づけが唇のふれあいからお互いの唇を求める物に変わっていく。

「んふふふふふふー……」

 急に唇を離して抱きついてくる。
 柔らかい感触が強くなる。
 そして気がつく、気が付いてしまった。
 凄まじい速さで動いているソーカの心臓に。

「ソーカ……酔ってないだろ……」

「……ユキムラさんの、ば~か……」

 ソーカが体を離してしまう。

「あっ……」

 今更自分の最低最悪の悪手に気がついたユキムラ。
 しかし、時すでに遅し。

「まって、ソーカごめん! な、慣れていないんだ……その、こういうこと……」

 帰りかけていたソーカがくるりと反転してユキムラに近づいていく、ユキムラからは下を向いたソーカの表情がわからないので内心はオロオロだ。

 ちゅっ

 突然キスされる。

「まぁ、そんなユキムラさんだから好きになったんですけどね!」

 パァッと花がさくような笑顔だ。
 ユキムラはその笑顔に心を奪われた。

「こ、今度はちゃんと、する!」

 なんとも無様なことを気合を入れて言ってしまう。
 それでもそれが逆にソーカの心を癒していく。

「もう、そういうのは気合い入れて言うことじゃないですよ!
 でも、期待してますよ。ダンジョンから出たらデートしましょ!」

「う、うん! 行こう!」

「おやすみなさい!」

「うん、おやすみ!」

 ユキムラもソーカについて部屋に戻ろうとする。
 もう一度ソーカが振り返ってユキムラの首に手を回してくる。
 耳元で囁く。

「絶対ですよ……」

 そして強引に唇を奪われ、温かい感触がユキムラの口の中に生き物のように入ってくる。
 ユキムラもその温もりを激しく求める。
 絡み合うお互いの部品が溶け合うような快感に溺れる。
 一瞬のような長いような、そんな時間を二人は共有する。

「……それでは……、おやすみなさい!」

 体を離してソーカは部屋へ小走りで走っていく。
 ユキムラは軽い放心状態で手を振って棒立ちだ……
 ソーカはコテージの中へ帰っていく。
 残されたのはユキムラ。

「……うおーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」

 ユキムラは燃え上がった煩悩を振り払うように走り出す!
 セーフエリアも飛び出して走り出す!
 出会った敵に自らの煩悩を叩きつける!
 煩悩が晴れたころ多数の魔物が犠牲となった。
 大量の屍が魔石となってユキムラの懐にしまわれたころに燃え上がった煩悩も収まっていた。

「疲れた……寝よう」

 ☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★

 ソーカはベッドで枕に顔を突っ込んで足をバタバタさせて悶ていた。

(やり過ぎた! アレじゃ痴女じゃないか! 絶対引かれた!!)

 バタ足が高速すぎてドドドドドッドドと響かせている。

(チューしてくださいじゃないよ!? しかもバレるし!!
 変なとこ鋭いんですよユキムラさんは!!)

 枕に向かって語りかける。

「でも……最後の……凄かったな……」

 思わず思い出してしまう。そうすると顔はにやけてしまう。

「フヘヘヘヘヘ……」

 そして襲ってくる羞恥心。
 ソーカの夜もまた長そうだった。

 ☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★

「あ、師匠おはようございます! 珍しくゆっくりですね、飲み過ぎですかー?」

 洗面所へ向かう途中にレンとすれ違う。

「あ、ああ、おはよう。そんなとこ……」

 バシャバシャとぼやけた思考を冷水で引き締める。

「ふぅ……」

「はいどうぞ」

 渡されたタオルで顔を拭く。ユキムラの思考がクリアになっていく。
 そしてタオルを渡してきた女性に気がついて思考と顔の表面が加熱する。

「お、おはようございますユキムラさん」

「あ、ああおはようソーカ!」

 二人共思わずドギマギとしてしまう。
 ぎこちなくタオルを返す。

「そ、それでは私も顔洗ったら食事いきますね」

「う、うん。待ってるよ……」



「あらあら……」

「おやおや……」

「わうん」


 洗面所の影から家政婦は見た状態で覗き込む3人の影。
 昨夜に何かあったのは間違いはないが、それを根掘り葉掘り聞くほどは野暮ではない。
 しかし、ついつい二人をニヤニヤして見守ってしまう。

 ギクシャクしながらも順調にダンジョン攻略は続く。
 順調に、ほんとに順調に80階層へ到達する。

「ここが最後みたいだね」

 神秘的な空中庭園のような造りから、荘厳な神殿内のような場所に変わる。
 床は大理石のように磨き上げられていて、真っ白い柱がはるか天上に伸びている。
 蝋燭によって照らされた空間全体が、緊張感のある空気が重い雰囲気を作り出している。
 突然の雰囲気の変化が、この場がこのダンジョンの特別な階層であることを示していた。




 

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