老舗MMO(人生)が終わって俺の人生がはじまった件

穴の空いた靴下

163話 おやおやおや?

 薄くスライスされた光り輝く肉。
 少し厚めにカットされたルビーの輝きを放つ肉。
 ドラゴン肉だ。
 残念ながら100%ミートは少量だけだ。
 それでもユキムラが研究を重ねた混合肉の味わいは皆を十分に満足させる。

 それでも、100%は別物なのだ。  byソーカ

「ソーカねーちゃんいつまで泣いてるんだよ……」

「だって……だって……」

 夢のような食事はあっという間に終わってしまい、すでに夜の自由時間。
 ソーカは味の余韻を忘れないためにずっと座ったままで味の記憶を思い出し、感動して涙を流していた。
 ユキムラとヴァリィはタロの装備を作成している。
 レンは皿や調理器具を洗浄機(魔道具)へとしまっている。

「そろそろ椅子とか机とか、片付けたいんだけど……」

「椅子抜いていいよ」

「へ……って気持ち悪!」

 ソーカの見事な空気椅子、椅子を引き抜かれても体勢は全くブレない。

「師匠に言ってもっと食べさせてもらえばいいじゃん、ソーカねーちゃんが言えば師匠は出してくれるでしょ……」

「そ、それは……いや、ダメ。それはしてはいけない行為」

「まぁいいや、僕もタロの装備考えてくるね」



「ふー、疲れたってエッ!?」

 何度目かのエアドラゴン肉試食をしているソーカは、ユキムラの驚愕の声で現実に引きもどされた。

「え、ソーカ……ずっと、そこで、その体勢で?」

「ち、違うんです! 違わないけど、違うんです!!」

 ソーカはバッと立ち上がる。
 かなりの長時間空気椅子をしていたが、その程度で悲鳴を上げるほど軟な鍛え方はしていない。

「ほんとにソーカはドラゴンミート好きなんだねぇ」

「はい!! じゃなかくて、違うんです。
  なんか、その、あー美味しかったなーってボーッとしてたんです!」

「まぁ、わかるよ。アレは凄いもんね……」

 ユキムラも思い出すように目を閉じる。
 つられてソーカも口の中にアノ味が広がることを正確にシミュレートする。

 グルルルルルルルルルルルル

 一瞬タロの警戒音かと思う音が、ソーカの腹部から発生する。

「あ……ち、ちが……」

 みるみる顔色が恍惚としたピンクから青くなり、そして羞恥からまた赤くなっていく。

「はい、これ」

 ソーカは口に何かを突っ込まれた。
  噛みしめると柔らかいパンの味とあの合成肉の味わいが広がる……
  思わず手に取るとコッペパンにレタスと玉ねぎ、それに細切れの肉がはさんである。

「合成肉を切り出した端っこを味付けして炒めたやつだよ。
  美味しいでしょ!」

「んぐ、んっ! はい!! とっても!!」

「レンがさ、そろそろおなかすいてるからなにか持ってってくださいって」

「あっ……」

 さらにゆでダコみたいに真っ赤になってしまう。

「おかわり、いる?」

「……はい……」

 二つ目を手渡される。

「なんか、美味しそうに食べるから俺もおなかすいちゃったヨ。いただきまーす」

 ユキムラも同じものにかぶりつく。

「うん、うまい! これはトマト入れても美味しそうだな……」

「味付けもピリ辛にしても美味しそうですね!」

「いいね、あ、これかけてみる?」

 なんちゃって七味を取り出すユキムラ。自分のもつミートサンドに軽くふりかける。

「お、いい感じ! 甘みにピリッとした刺激が……、なんかもう一個食べたくなってきたぞ、トマト入りも試すか……」

「あれ? 師匠! 師匠まで食べているんですか!?」

 レンとヴァリィ、タロがやってくる。

「いやー、ソーカが美味しそうに食べるからつい。そしたらいろいろとアイデアが……」

「そう言えば頭使ったから少し小腹空いたわね、ユキムラちゃん私にも頂戴」

「そういえば、師匠僕にもください!」

「あ、ヴァリィこれかけて。あとはこれだな……」

 取り出したのはグラスが2つ。ビールを注ぐ。

「あ、確かに辛味とビールが……ぷはー! うまい!」

「ユキムラさんもう一個……」

 いつの間にソーカも食べ終えていた。

「ソーカも飲みなよ辛味と相性が良さそうなレモンとソーダで割ったやつかなー」

 ビールを飲み始めて調子が良くなってきたユキムラがソーカにもグラスを渡す。

「ああ、辛いから食べられるし、飲めますね……」

 いつの間にか酒盛りになっていた。
 ダンジョン探索に息抜きは必要だから。

「ふぁぁ~~そしたら先に寝ますーおやすみなさいー」

「レンーおやすみーまた明日ね~」

「師匠飲みすぎないでくださいねー、ヴァリィさんもソーカねーちゃんもですよー」

「は~~い」

「もう! レンはいつまでも子供扱いして! 私はもう大人なのです!」

(そのテンションがすでにおかしいと気がつこうよ……ま、しーらない)

 レンは寝室へと帰っていく。

「あら~ソーカちゃんはもう大人の女性なのね~」

 ニヤニヤとヴァリィがおちょくる。

「そうですよー、聞いてくださいよユキムラさん! 私バストサイズが上がったんですよ!」

「ブッ!!」

 突然のカミングアウトに思わずユキムラが飲んでいた酒を吹き出す。

「ちょ! ユキムラちゃんひどーい……、もう! 私もシャワー浴びて部屋で飲むわー。
 ユキムラちゃん、ソーカちゃんをよろしくね」

 バチコーンとウインクをしながらヴァリィも部屋へ戻っていく。
 タロも一緒に帰っていく。

「ユキムラさん聞いてますかー? ほらー前より大きくなったでしょー?」

 何故か自分の胸を揉んでいるソーカ、これは完全にできあがっている。

「お、落ち着こうソーカ、な?」

「もっとちゃんと見てくださいよーほらー」

(確かに、成長している……あれ? これって……まずい状況な気が……)

 夜はまだ始まったばかりだ。


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