老舗MMO(人生)が終わって俺の人生がはじまった件

穴の空いた靴下

139話 急転直下

 女神たちはみんなまとめて転移していった。
 これで少しでもアルテスの肩の荷が下りるといいのだが、ユキムラは十分に準備が整ったらスキルの開放にGOサインを出すだろう。
 そうなった場合は女神たちに、特にアルテスには多大なる負担がかかることは間違いがない。
 女神たちの奮闘に期待するしか無いのであった。

 タロはフリルドラと意気投合して目にも止まらない速さでじゃれ合っている。
 仲がいいことは素晴らしい。とはよく言った物で、メンバーは温かい目でその様を見つめている。
 確かにミニドラゴンって感じのフリルドラだが、タロと互角のスピードで飛び回っているので非常に強力な力を持っているのは疑いようもなかった。
 ユキムラ達はダンジョンの宝を念のために封印を施して回収する。

 レックスとサイレスは神や女神とは会えなかった。
 あの時間の中にいるのはユキムラと過ごし信頼しVOでの視界、来訪者の加護を得た者だけなようだ。

「しかし、本当に有意義な時間だった。ありがとう」

「心躍ったが、人には人の役目がある。しばらくはギルマスとして励むよ」

 ふたりとも何かが落ちたようなスッキリとした顔つきをしていた。
 ダンジョン最奥のワープから外へと脱出する。
 雪山にはびこっていた死と闇の香りはすっかり霧散していた。
 フリルドラがダンジョンを掌握したのだろう。

 ビーーーービーーービーーーー

 けたたましい警戒音がユキムラ、ソーカ、レンの持つ通信機から発せられる。

緊急通信エマージェンシーコール!?」

 ユキムラは急いで通話ボタンを押す。

「ユキムラちゃん……よか、った。やっと繋がった……」

「ヴァリィか!? どうした! 何があった!?」

「ゲッタルヘルン帝国が奇襲をかけてきたの、休戦破り。
 しかも、謎の軍団と一緒に、黒いオーラを纏った……」

「師匠!! 王都はすでに陥落しているそうです!!」

「ユキムラさんアイスフロントの街も壊滅、生き残った部隊がトンネルで防戦も、もう……」

 レンやソーカの元に告げられた情報も最悪の事態を告げている。

「どうして、急にしかも謎の部隊って……街は!? 街はどうなった!!」

「……ごめんなさいね。街も半壊。今中央部に集めて抵抗をしてるんだけど……
 ちょっと厳しそうね……」

「厳しそうって、あの装備で、ヴァリィだっているんだろ?
 よほどのやつじゃ相手にならないはずじゃ!?」

「それがね、化物がいたのよ相手に数体。
 私も2体は倒せたけど、もう、戦えない体になっちゃったの……」

「な……!?」

「それに、その謎の軍団、特に黒いオーラに包まれた奴らにつけられた傷は治らなくてね……
 少しでも町民を逃がそうとしたんだけどね……立派な隊員たちだったわ……
 ユキムラちゃん、あいつらは異常よ……戦っちゃ駄目。
 他の国でもいい、逃げてね……」

 その言葉と同時に激しい爆発音が通信機越しに聞こえて通信が途絶する。
 必死に通信を再開させようとするが、その後通信が通じることはなかった。
 5人はわけが分からず立ちすくむしか無かった。

「ガウ!」

「痛っ! タロ、何するんだ! みんなが……」

 タロがユキムラの手を軽く噛む。
 タロの力強い眼差しがユキムラの動揺した心をひっぱたいたような気がした。

「そうだな、俺が落ち着かないとな。よし!!」

 バシンと頬を叩き気合を入れる。

「レン、ソーカすまない。レックスさんサイレスさん街へ戻るのは危険かもしれません。
 危険はありますが転移でサナダ街へ行きましょう」

 サナダ街ユキムラの居所に作られた転移門は二箇所ある。
 一箇所は転移部屋。もう一つは地下深くの隠し部屋だ。
 ユキムラは魔道具で地上部の転移部屋の様子を見ようとするが、やはり見れない。
 どうやら破壊されているようだ。
 地下の転移門は変わらず健在だった。
 ユキムラは車を取り出し、最後尾の隠し装置を発動する。
 転移の門は問題なく開く。

「何度か移動して安全は確かめていますが、覚悟はしてください。今の俺達に他に取れる選択肢がない」

 そう告げるとユキムラは転移装置に飛び込む。その後に迷う人間はいない、皆続々と飛び込んでいく。

 転移した先は静かな部屋、薄っすらと光が瞬いている。
 ズーーーン、ドーーーーンと地響きが伝わってくる。
 地上の戦いは苛烈を極めているようだ……

「サイレスさん、レックスさんはここで待機してください4人で地上部を探ります」

「ああ……」

 悔しいが4人が本気で戦うなら足手まといになる。それは痛いほど理解できた。

「行くぞ」

 ユキムラは隠匿モードで地上へと続く階段を昇る。
 冷静に、冷静にと何度も繰り返す。

「出るぞ」

 振り返らずに地上へと躍り出る。地上部への開口部は瓦礫の山に埋まっていたが魔法でゆっくりとずらしていく。

 そして、そこに広がる景色を信じたくなかった。
 黒煙を上げて燃え盛る瓦礫の山、そこら中に横たわる敵とも味方とも人とも魔物ともつかぬ大量の死体。

「うぐ……」

 こみ上げるものを必死に抑える。
 戦いの気配を確認する。
 市庁舎の方だ。
 素早く駆ける。強化した靴の能力で飛ぶように、少しでも早く。

 そこではサナダ隊が戦っていた。
 巨大なサソリのような化物、体から禍々しい黒いオーラを発している。
 確かに兵士のような人型もいるが、同じく妙なオーラを発していて、動きも生きているそれとは異なっているような印象をうける。まるで操り人形のような。

 対峙しているサナダ隊はボロボロだ。
 片腕で必死に戦っている者がいる、反対の腕は真っ黒に変色して力なくだらりと下がっている。

「ソーカ!!」

 先にソーカが飛び出してしまっていた。

「消し飛べ!! ハイドロエクスプロージョン!!」

 レンも続いて飛び出す。
 レンの放った巨大な爆発が敵の中心部で爆ぜる。
 大量の敵が消し飛ぶ。同時に生じた大量の水が周囲の火を鎮火していく。
 ソーカもレンも街の状況にとても冷静でいられなかった。
 ソーカの一閃がサソリの化物を真っ二つにする。

「ソーカ様! レン様! 救援だ! 救援が来たぞ!」

 サナダ隊が士気を取り戻す。よほど追い込まれていたんだろう、泣き出す者もいる。

「総員状況の報告を!」

 ソーカが怒気の混じった声で命令を飛ばす。

「街は、壊滅。サナダ隊は市民を連れて避難した数名を残し、あとはここに居るだけです」

「ヴァリィは!?」

 思わずユキムラが叫ぶ。

「……ヴァリィ様は……立派な最期でした……」

 ぐにゃり……と。

 世界が歪んだような気がした。

「それ以外に犠牲者は……、生存者を教えてほしい……」

「市民数十名、避難に当たっているサナダ隊が3名、それと……ここに居る者たちが生存者です……」

「そんな、師匠……」

 ユキムラは答えなかった。今にも爆発しそうな怒りを必死に押さえ込んでいた。

「皆、よくぞ生き残ってくれた。とりあえず、目の前の敵を排除する」

 ソーカが真っ二つにしたはずのサソリが闇のオーラで無理矢理繋ぎ止められて襲い掛かってきている。
 レンが吹き飛ばして体が残っていた者はズルズルとオーラによってくっつけられ再び襲い掛かってくる。

「あの黒いのの攻撃を食らうと治癒魔法が効きません、ヴァリィ様もあれで……!」

 隊員がなかば叫ぶように報告してくる。

「レン、ソーカ、気持ちはわかるが、冷静さだけは忘れないでくれ。
 お前らにまで死なれたら俺は独りになる。タロ、必要なら二人を連れて逃げてくれ」

「師匠!」

「ユキムラさん!!」

 レンとソーカの気持ちは痛いほどユキムラに伝わっていた。
 ユキムラを置いて逃げるなんてことを命令する残酷さをユキムラは、ユキムラ自身が一番理解している。
 それでもあえてその命令をしなければいけないほど事態は逼迫している。
 ユキムラを置いて逃げたくないのなら、死なないようにして欲しい。
 無茶な要求だがユキムラはそう伝えるしかなかった……

「なら死ぬな。命令だ! 行くぞぉ!!」

 ユキムラが異形の集団に飛び込んでいく、巨大な長剣の二刀流。
 怒りを表すかのような巨大で強靭な双刃によって多数の敵をバラバラにする。

「レン! 欠片も残すな!!」

「はい! トリプルキャスト! フレイムボール!」

 大量の炎の玉がバラバラの肉塊に取り付いて次から次へと灰へ変えていく。
 ソーカも同じように大量の敵を粉微塵に変えていく。
 サナダ隊に取り付いていた大量の敵はあっという間に駆逐されていく。
 サナダ隊はすでに戦える状況では無くその勇姿に声をかけることさえ出来ないでいる。
 タロは自身の持つ神秘の癒やしの力で、ユキムラ達の戦闘の合間にも隊員たちの治療を試みるも、やはりこの黒い痣のせいで回復しない。
 最上位の回復魔法と同等、あるいは格としてそれ以上の回復手段であるタロの力で回復がかなわない場合、既存の方法での回復が不可能なことを意味していた。

 一時の勝利に一息をついたユキムラ達。

 その次の瞬間、タロが白雷とかして駆け出す。
 ユキムラは突然タロに体当りされる。
 敵を駆逐し、ふっと息を抜いた瞬間だった。
 大きく吹き飛ばされる。

「た、タロどうし……た……」

 タロの左後ろ足があった位置にモヤモヤと黒い物がある。

「ガウッ!」

 タロは自らの爪で根本から足を落とす。
 しかし、回復しても失った足は戻ってこなかった。自ら切り落とした傷は塞がり3本足で立つ。
 睨む先には人影、先程までユキムラがいた場所に悠然と立つ人間がいた。

【ほほう、犬っころの分際で主を助けるか……ふむ、忠犬だな……】

 黄金の鎧の隙間から暗黒のオーラを立ち上げそこに立つ騎士。

「誰だ、お前は!」

【ふむ、お前が長か……あいつらのにおいがするなぁ……不愉快だ。消えよ】

 ユキムラは全く反応ができなかった。
 気がつくと目の前に剣があって、剣があって……
 ソーカと、レンが、立ちふさがって……
 その体を貫いている剣が、剣からは血が……

【下らぬ邪魔を……どうした呆けたか? まぁよい死ね】

 騎士が剣を引き抜くと力なく二人の体が地に伏す。
 全身が黒く染まり動くことはない。
 タロが飛びかかる。しかし、その騎士はいとも簡単にあのタロを切り裂く。
 そのまま、何もなかったかのようにユキムラに剣を突き刺してくる。
 見える。見えているが全く体が反応しない。
 今目の前で起きていることが普段なら知覚も出来ない超高速で起きていると脳が分析している。
 しかし、ユキムラはそんなことはどうでもよかった。
 今目の前で起きていることに何も出来ない自分に心の底から怒っていた。

(ぬああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!)

 目の前に迫ってくる剣の速度がさらにゆっくりになっていく、どんどんどんどん遅くなる。

 そして停止する。

 ユキムラは目の前にクロノスがくれた時計が浮いている事に気がつく。
 いつからそこにあったのか気がつけなかった。
 気がついたらそこに在った。

 停止した時間の中でその時計に手を延ばす。
 そうしなければいけないような気がしていた。
 なぜか体が動く、時計を掴み取る。
 同時に周囲から全ての景色が消える。
 ゆらゆらと蠢くタロの足にまとわりつく炎のような闇のオーラ、それとユキムラ。
 世界にそれしか無いようだった。

『許してね。こうするしか無かった』

 いつの間にかクロノスが目の前に立っていた。
 その顔からは眠気は感じられず凛とした顔つきだ。

『今、私達が手を貸す』

 フェイリスだ。普段のふざけた雰囲気はない。

『ユキムラとその仲間は時を遡る』

 アイルス。

『その【けがれ】の対抗策は必ず私達が見つけます』

 フリーラ。

『まずは今回の元凶を食い止めて。5年前のゲッタルヘルン、そこからこの悪夢の準備は始まる。
 それを止めて。悲劇を繰り返さないで』

 アルテス。

『ゲッタルヘルンからは出られない。その力で野望を打ち砕いて』

 クロノス。

 4人の女神と1人の神が時計へと力を込める。
 時計は輝いて周囲全てを飲み込む。
 光がユキムラの視界の全てを飲み込んでいく。




「うっ……」

 ユキムラは目を覚ます。
 どうやら森のなかにいるようだ……

「うーん……」

 ユキムラは心臓が跳ね上がるようだった。
 声の方向に目を向けると。

「レン!! ソーカ!! ヴァリィ!! タロ!!」

 皆が草むらで伏せていた。きちんと呼吸をして。



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