老舗MMO(人生)が終わって俺の人生がはじまった件

穴の空いた靴下

132話 氷龍のダンジョンへの道

 あっという間にアイスフロントの街へたどり着いたメンバーは日もくれていたのでまずは宿を確保する。
 もう驚くまいと思っていたサイレスとレックスだったが、今乗っていた車がユキムラのアイテムボックスに消えていくのを見て度肝を抜かれてしまう。
 自分たちの知っているアイテムボックスはそんな巨大な物はしまえるはずもないからだ。

「お二人に渡したものでも出来ますよー」

 その一言が更に二人を驚愕させる。
 そんなものをぽんと渡してくるユキムラたちの恐ろしさにだ。

「明日は朝イチ領主さんに挨拶してそれから洞窟を抜けてダンジョンへとアタックします。
 今日はゆっくり休んでくださいね」

 普通の宿であることに逆にホッとしてしまう二人だった。

 ユキムラ、レン、ソーカとタロはダンジョン攻略の打ち合わせをする。
 二人を守りながらの戦闘だが、それはタロが請け負ってくれるそうだ。
 ユキムラも戦力的にタロが守ってくれれば一番安心で安定すると考えていたので渡りに船だ。

「んで、今回俺は弓で参戦します。阻害弓って呼ばれるポジションになります」

「えーっと、相手を妨害したり機先を制することに重点を置くスタイルですよね」

「そう。攻撃はレンとソーカ、まぁ慣れてくれば二人も火力になると思うからレンは自己強化バフだけで大丈夫。敵弱体化デバフは俺がスキルでやっていく」

「わかりました」

「ソーカは俺のことは気にせず自由に動いていいから、ちゃんと援護はするから」

 簡単に言っているがソーカが攻撃に特化するとそれこそ目にも留まらぬ速さで戦場を飛び回って敵を斬り刻む。それの邪魔をせずに敵の行動阻害は完璧にやる。ユキムラはそう話しているのだ。
 もちろんレンもソーカもそれを疑問にも思わない。
 それがユキムラだから。それだけで一切の疑問も持たずに信じ切ることができる。
 それが白狼隊の絆だ。

 翌朝いつも通りの時間に起きていつもどおりの鍛錬をこなし、朝食へとつく。
 レンから1日の流れを確認してもらい、アイスフロントの領主との面会へと向かう。
 当然レックスやサイレスも面識があるために領主、ギルマスモードで同席する。
 サルソーはまさかジュナーの街の重鎮と来ているとは思っていなかったので大層驚かせてしまった。

「本気で行かれるのですね……私は冒険者ではないのでその気持を完全に理解することは難しいですが、ユキムラ殿に惹かれるというのはよくわかります。この人と歩いていけば、自分も何か凄いところに到れるんじゃないか? そんな風に年甲斐もなく夢見てしまいますね」

 サルソーは少し寂しさも混じった表情で二人に話しかける。
 二人もその言葉に深く頷くのだった。

「それでは、ダンジョン攻略の報、楽しみに待っております」

 短い時間ではあったが久々の再開が素直にサルソーは嬉しかった。 
 そして立場ある人間が惹かれるユキムラとの出会いが自分にとって有意義であることに疑いは持たなかった。

 「御武運を」

 短くつぶやき、そっと頭を下げた。


 白狼隊のメンバーはアイスフロントの街の山側の門から氷龍の巣へとつながるトンネルへと侵入する。
 以前のスノーアントの大発生から警戒レベルを上げており、今でも定期的な見回りは欠かさないように行われており、現在において異変は確認されていない。
 それでも自然発生するモンスターは出現するので全員、気を引き締めて侵入していく。
 以前よりもしっかりとした照明器具が設置されており、地面の部分も行軍しやすいように加工が施されている。
 ソーカを先頭に2列目にレン、3列目にユキムラ、左右にサイレスとレックス、最後尾がタロになる。
 最初の戦闘はスノーアントが3体。サイレスとレックスは久々の実戦であるため、白狼隊のメンバーも一瞬で殲滅させずに二人の動きを把握させてもらう。

「前に出ていいか?」

「お願いします」

「レックス! 久々だな、行くぜ!」

「ああ!!」

 フィールド・ダンジョンの敵なら装備だけで圧倒できる。
 ここは完全にお任せする。
 久しぶりの魔物との戦闘であってもサイレスはその見事な剣技は日々研鑽を積んでいる。
 一刀のもとに一匹を斬り裂き、もう一匹ののしかかりも盾で簡単にいなしている。
 その間にもレックスは魔法で一体を消し炭にしている。
 レックスは最初こそ少し戸惑っているようだったが、数戦重ねていくうちにサイレスと息の合った動きを見せるようになった。

「お二人とも流石ですね」

 5対のアント相手でも全く問題なく蹴散らした二人にユキムラが声をかける。

「いやー、装備が凄すぎるだろ。それに身体強化魔法。ここまで強力な支援は受けたことがない。
 どれだけ動いても、現役時代よりも動けるし息一つ上がらない」

「自分がこんな魔法を使えるなんて生まれ変わった気分だよ……」

 二人共圧倒的な武具性能に驚いている。
 確かにこのクラスの武具を使えばよほどの異世界にでも行かなければ、フィールド上に発生する魔物なら赤子の手をひねるようなものだ。
 ユキムラの想像以上に二人は動けた。
 タロレーダーにも異常は感じられないままトンネルを通過することに成功する。

 トンネルを抜けると目の前に巨大な山、そして一面の吹雪だった。

「グルルルルルル……」

 山から流れてくる風にタロが不快感を示す。
 どうやら一筋縄では行かなそうだ。

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