老舗MMO(人生)が終わって俺の人生がはじまった件

穴の空いた靴下

115話 ドラゴンスレイヤーへの道

 ユキムラの号令で一斉にその巨大なドラゴンを取り囲むように部屋の中へとなだれ込む。
 幸いほかの魔物の存在は確認されない。
 この巨体に踏みつぶされないように退避しているのかもしれない。

 そのホールは半円状で直径100m近くはありそうだった。まるで陸上競技場のようだ。
 そしてそのほぼ中央にいるのがアースドラゴン、土属性の竜種で特徴はとにかくでかい。
 全長は30mくらい尾を入れれば50mはありそうだ。高さも10mくらいか、とにかく小さな山だ。
 全員これほどの大きさの魔物はお目にかかったことがないので体が不可避の恐怖に震える。
 恐怖なのか? 武者震いかもしれない。

「作戦名は 命を大事に だ」

 ユキムラの、この世界の人間には伝わらないギャグを皮切りにみんなが動き出す。
 巨大なドラゴンであれ、その巨体を支えるのは4本の脚だ。
 体が巨大で重くなれば支える脚にかかる負担も多くなる。
 そこを攻めるのが教科書的なセオリーになる。

「ダブルキャスト! ファイアーランス!」

 レンが魔法で仕掛ける。魔法なら安全域からの攻撃が可能だ。
 二本の炎の矢がドラゴンの脚めがけて飛来する。鈍重な動きではとても避けることができず直撃する。
 バラバラと土と石が交じり合ったかのようなものがはじけ飛ぶ。

「これが厄介な点のその2だね、アースドラゴンは外皮にドロみたいな分泌物を出していて乾くと石みたいに固くなるんだ。これを突破しないと本当の外皮には到達できない」

 もちろんレンも事前にそのことは知っていたが、ここまで強固な防御力があるとは予想以上だった。

「外殻は固いけど内部がぐずぐずしてるから打撃系にも耐性がある。そのくせ竜種は魔法が効きにくい。
 地道に外殻を剥がして少しずつダメージを蓄積するしかない。回復アイテムとかけちらなくていいから安全にいこう」

 多少外殻をもろくする方法もある。

「レン、外殻を乾かすから補助お願い、大魔法使う!」

「わかりました」

「その間あたしたちが注意を引くわよー」

「了解しました!」

「ワオーン!」

 タロは鞭のように激しくたたきつける巨大な尾をダンスをするが如くステップで翻弄している。
 尾の一撃はアースドラゴンの攻撃の中で最も早く、最も注意が必要だ。
 タロは一早くその脅威に気が付きそれを一手に引き受ける。
 ソーカもヴァリィも自分たちが持つ最大限の攻撃を四肢へと重ねていく。
 それでもアースドラゴンはなにもされていないが如く尾を振り、腕を振り外殻を飛ばし、泥のようなブレスを浴びせてくる。
 攻撃全てが巨大で避けるのにも十分な回避行動が必要で、なかなかまとまった攻撃ができない。
 そんな間に少しでも削った外殻はふさがってまた固くなってしまう。

「あと魔法陣2個、21秒後によろしく!」

 大魔法は範囲内に魔法陣を複数設置してその魔方陣を結ぶ巨大魔方陣を作り、その内部へと絶大な威力の魔法を放つ魔法使いの必殺技だ。
 現在ユキムラが準備しているのは『炎殺爆炎獄炎陣』という文字通り火特化大魔法。
 完成すると巨大な火柱が敵を包み込み、さらに継続的に超高熱の結界で敵を持続的に包み込み続ける。
 追加効果でパーティメンバーがその陣の内部の敵に火属性攻撃をすれば追加強化される。
 土属性の敵を相手にするときの最終兵器のような攻撃だ。VO中盤くらいまでは……

「設置終わり!詠唱はいる!」

 魔力が発動するまでの詠唱時間にレンはさらに魔法の威力を上げるためのバフを詠唱時間中にかけられるだけ重ね掛けしていく。

「一旦引いて、発動する!」

 パーティメンバーには魔法によるフレンドリーファイアはないはずだが、あまりの高熱で変化する床やマグマみたいなものが発生すると危険なので一瞬距離を取らせる。

 巨大なアースドラゴンの足元にさらに巨大な魔法陣が展開され、ドーム状にいくつもの魔法陣が展開していく、ドラゴンの身体のほぼ全域に魔法陣で作られたドーム状の結界が出来上がり。

「喰らえ! 炎殺爆炎獄炎陣!」

 魔法発動と同時に轟音と閃光と共に巨大な爆発が起きる。
 爆発は魔法陣内にとどまり余計なエネルギーの浪費を防ぎすべての熱量を対象へとぶつけ続ける。
 ドラゴンの足元にあった地面もグツグツと煮えたぎっている。

「念のために攻撃は四肢へ!」

 ユキムラは全員に指示を出す。
 その手には燃え盛る槍を持ちすぐさま投擲する。

「サイクロンスロー!」

 放たれた槍はすさまじい回転で周囲の空気を引き裂きながらドラゴンへと吸い込まれていく。

「龍穿地割 螺旋突!!」

 ヴァリィも奥義を放つ、火をエンチャントされた強力な突きがドラゴンの身体にねじ込まれる。
 激しい衝撃の後、ヴァリィの手には柔らかい手ごたえを感じる。

「ソーカちゃん! ここ!」

 ヴァリィが叩き込んだのは左の後ろ脚、今なら露出しているはずだ。
 打ち合わせをしていたわけではないがすでにソーカの手には鈴蟲、そして独特の構えだ。

「ウェポンマジックコーティング」

 レンもソーカへ武器保護魔法をかける。

「鳴け 鈴蟲 居合一閃」

 リィィィィィィィィン

【グギャアオオオオオオオオオ!!】

 初めてドラゴンが声を発する。その巨大な後肢が重厚な音を立て地面へと転がった。
 同時にドラゴンの身体が大きく傾き大地に倒れる。

 どーーーーーーーーーん

 ダンジョン全体が揺れるような衝撃が起きる。
 その衝撃でユキムラが構築した魔法陣が破壊されるほどだった。

 魔法陣の熱攻撃から解放されたドラゴンは体表はグツグツとマグマ化した外殻、ところどころ熱傷によってボロボロになった外皮が見えており、そしてソーカの攻撃により切断された後肢の断面は熱により炭化されていた。吹き出す血が熱せられた外気に触れると一瞬で蒸発している。
 あふれ出る熱波をユキムラとレンの魔法でこちら側に影響を与えないようにコントロールが必要になるほどだ。

 ユキムラたちの先制攻撃でアースドラゴンに重傷を与えることに成功した。

 しかし、ユキムラたちが竜種の恐ろしさを知るのはここからだった。
  

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