老舗MMO(人生)が終わって俺の人生がはじまった件

穴の空いた靴下

103話 白き獣の怒り

 最終階層50階はユキムラの予想と異なる展開になった。

「タロ!?」

 はじめに現れたレイス、幽霊のようなモンスターなのだが、その集団を見つけた瞬間に、タロが白きオーラを身にまとい猛然と殲滅させていった。
 その後もアンデッド系モンスターとの戦闘が続いたのだが、その全てにおいて、雄々しく猛るタロに一閃のもとに切り裂かれる。一方的な戦闘とも言えない惨殺、既に滅んでいるから殲滅が繰り返された。

「タロは母親をアンデッドに殺されているから、か……」

 すでに魔法による補助くらいしかすることが無くなって、ついていくだけになっていたので、タロとの出会いの話をソーカ、ヴァリィに話していた。

「タロちゃん……」

 ソーカもヴァリィも悲痛な顔をしている。
 その後もタロの快進撃は続き、最後の大部屋へと差し掛かる。

【ほう……何百年ぶりかのぉ、ここまで人間が来るのは……? ん? 獣もいるのか?】

「グルゥゥゥゥ……」

 タロが今まで見せたことのないような明確な敵意を向けている相手。
『リッチ』だ。高位な魔法使いが死霊となった姿として有名だ。

【女神を蘇らせる輩を血祭りにあげるのが我が使命。何者であろうとこの先には行かせぬぞ。
 さぁ我が眷属よ久しぶりの獲物ぞ、存分に楽しむが良い!】

 リッチが両腕を振り上げると大部屋に大量の死霊が現れ、地面から死体がムクリと生えてくる。

「タロ、気持ちはわかるがここは皆で戦おう。リッチのトドメは任せるよ」

「バウ!」

 仕方ない、それで我慢しよう。
  タロはそう言わんばかりにユキムラの元へ合流する。

「それじゃぁ対アンデッド戦闘。安全マージンは最大限取ってね。
 これでおしまいだから惜しみなく行こう」

「命脈活性 活人麒麟陣!」

 ヴァリィは地面に陣を描く。この陣の上にいると身体能力向上、持続回復、状態異常抵抗が上がる。

「聖人の詩 終章 神罰の刻」

 レンが謳う対アンデッド用最高のデバフ効果がある持続性の魔法だ。
 低位なアンデッドならこれだけで浄化される。事実かなりの数のアンデッドが消滅し、更に一部は行動を縛られている。

ホーリーなる十字サンクチュアリインピュアデストロイぼし神の威光エクスプロージョンを顕現せよ」

 ユキムラが照れっ照れで耳を真っ赤にして使用した魔法は、地面に展開した魔法陣から、不浄なる存在に多大なるダメージを与える光を発する魔法だ。VOでも有数の中二病スペルになっている。
 範囲指定スペルとしては珍しく複数箇所を指定して、その周囲にダメージ判定を持つ。
 もちろんユキムラは一瞬で等間隔に全ての範囲にダメージを効率よく撒いている。
 レンとのコンボ効果で小物の全て、中型もほぼ全て吹き飛んだ。
 戦闘開始と同時にだ。

【な、なんなんだ貴様らは!! こうなったら! 全てを焼き尽くす禁断の……】「スペルブレイク」

 パキン

 リッチの頭上で描かれようとしていた魔法陣が驚くほどあっさりと破壊される。
 レンが魔法詠唱に反応してすぐに阻害魔法をぶつける。
 詠唱阻害魔法は相手が唱えようとしている魔法の種類を限定してかけたほうが成功率が飛躍的に上がる。というか、ボス相手には完全一致以外ほぼ通らない。もちろん事前にユキムラからリッチが使う魔法については分厚い本によって教えられている。

「奥義 天覇地裂浄魔斬」

 ソーカの剣技で大物のドラゴンゾンビも塵となって消える。
 あっという間にだだっ広い大広間には白狼のメンバーとリッチだけになった。

【ば、馬鹿な!! そんな馬鹿なぁ!!】

 あまりの一瞬の出来事に半狂乱になりながらリッチが単純な魔法攻撃を雨あられのように振らせてくる。即時発動型魔法はスペルブレイクは出来ない。
 即時型魔法とはいってもボスが使う魔法は強力だ。
 特にリッチほどのクラスになれば4属性に闇魔法、毒魔法も入り混じっての攻撃。
 並の冒険者なら跡形もなく消し飛ぶ。

「アンチマジックフィールド。マジックブラックホール。そしたらタロ。あとは任せたよ」

 周囲の全ての魔法を詠唱不可にして、さらに全ての魔法を吸収する結界を発生させる。
 雨あられのように降り注ぐ魔法が全て黒球に吸い込まれていく。
 リッチが追加の魔法を唱えても魔法が発動しない。
 もちろんユキムラたちも魔法は使えないが、タロには関係ない。

「ワオーン!!」

 タロが大きく雄叫びを上げるとタロが神々しい光のオーラを纏い5m程の狼の姿へと変わる。

【糞がぁ!!】

 リッチは虚空より巨大な鎌を抜き放つ。
 そのままその鎌を目にも留まらぬ速度で振り回し斬撃による障壁を形成する。
 鎌が空を切る音がフォンフォンと怨嗟の声のように聞こえる。
 実際この音には呪い効果が付加されており、レジストに失敗するとMPを持続的に消費する。

 そんな斬撃の障壁も本気モードのタロには意味をなさない。
 光の閃光がリッチを貫いたかと思うと汚いものでも吐き出すうようにタロがペッと何かを地面に吐き出す。
 ゴトッと音を立て床を転がるは鎌を握るリッチの肘から下だ。
 あまりの早業にリッチ自体も自分の身に何が起きているかをまだ認識できていない。

【……なんだそれは……何なんだそれは!!】

 それがリッチの最後の言葉になる。
 光の光線と化したタロは、リッチに執拗な攻撃を浴びせ、その不浄な存在を完璧にバラバラにして、灰へと変えてしまうのに多くの時間を必要としなかった。


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