老舗MMO(人生)が終わって俺の人生がはじまった件
88話 ヴァリィ
「そーだユキムラ、ハワードがお前に会いたいってよ。明日空いてるか?」
ギルドから出ようとするとガレオンがユキムラに話しかけてきた。
「明日の予定は特にないですが、ハワードさんっていうのは?」
「ああ、この国の王様だよ。わかったそう伝えとく。宿に迎えが行くと思うから頼んだ」
「あ、はい。……って、え?」
手を振りながらガレオンは奥へと引っ込んでしまった。
多分今ので明日、王との謁見が決定したんだろう。
「ギルマスは王と親友なので、たぶん本当で間違いないと思いますよ」
受付の女性もそうフォローしてくれた。
どちらにせよ面会は申し込むつもりだったので好都合と言えば好都合だ。
「レン、ソーカ聞いてたね? 申し訳ないけど明日の準備お願いする」
「あ、それでしたらユキムラさんにも一つお願いがあります」
珍しくソーカ達から提案があるようだ。
「流石に王様に謁見するようなしっかりとした服はないので作っていただきたいなぁなんて思ったり……」
少し申しわけなさそうに、それでも期待しちゃっているような可愛らしい表情でおねだりされる。それに反応しない男などいないのである。本能があっ、買ってあげたい、作ってあげたいと訴える。
  たしかに現実問題として、こないだのパーティの装いでは少々派手すぎる。
「分かった。うちの街の形式的な式典で用いる制服的なのも作らないとな。というか、そういうのがあれば楽だな」
着無精なユキムラは冠婚葬祭全てそれで済ませられるような、日本で言えば礼服のような物が作りたかった。VOは服飾周りも物凄いこだわられていて、人気のある衣装装備職人の作品は天文学的な値段がついたりもしていた。ユキムラの数少ない苦手分野だ。
「ただ、ちょっと不安だし、せっかく王都に来たんだそういう服を扱うところも見て、参考にさせてもらおう」
「こないだのドレスは素敵でしたよ?」
「古い知り合いのセンスを借りたからねぇ、王都での流行りみたいなのも参考にしないとね」
「まだ日暮れまでは時間がありますし、さっそく行きましょう師匠!」
こうして王都ファッションチェックのために服飾店へと行くことになる一同。
王都はさすがの大都市。
立ち並ぶ建物も洗練され統一感を持って作られている。
防衛のためか網の目のように道が配されていて、はじめて来ると少し迷ってしまうかもしれない。
ユキムラはVOでさんざん歩き回っているのでだいたい何がどこにあるかはわかっている。
王城は白と茶色の落ち着いた雰囲気の作りで、華麗さよりも堅牢さが伝わってくる。
それにより国全体の安心感が強まるのかもしれない。
ユキムラ達は高級店がズラリと並ぶ通りを歩いている。
ユキムラたちの服装は質の高い材料から作られているので平民服といえど見る人が見ればわかる作りの良さがある。事実、目の肥えた王都の人々はその衣装が普通のものでないと見抜いて、チラチラと見ていたりする。
ため息が出るほどの顔つきに鍛え上げられて絞り込まれた肉体を持つ美青年、金髪が輝くまだ幼さの残るが将来有望なのは間違いない美青年、スタイルが良く所作振る舞いに隙の無い、本能が、踏まれたい、おねー様と呼びたい! と叫び出す美少女が歩いているのだから、人目を引くのは仕方ない。
さらに足元には神々しささえある真っ白い狼、モッフモフに顔を突っ込んで思う存分にハスハスしたくなる。そりゃ注目を浴びるってものだ。
「なんか見られてません?」
「田舎者って思われてるのかも……」
「実際そうだから何も言えない。諦めよう」
「わうん」
当の本人たちは無自覚だ。
ギルドの職員も一押しの、今王都で一番流行っているという服飾店へと到着する。
王都ではガラスもふんだんに利用されたショーケースもあってユキムラは感心していた。
「うーん、これってゴスロリってやつじゃないか……?」
飾られている服を見てほんの少し不安を覚えるユキムラ。
「師匠先に入りますよー、ってうわー!」
「!? どうしたレン?」
ユキムラが店へ飛び込むと、いかつい筋肉質の男がレンの全身を弄っていた。
「いい! いいわ! 貴方素晴らしいわ! うー創作意欲をここまで刺激されるなんて!!」
「し、師匠ー助けてくださいー!」
ユキムラはそのまま黙って外に出たい気持ちをぐっと抑えた。
「あー、その子はうちの連れなのであまり乱暴にはしないでほしいんだけど……」
「あーら、ごめんなさいね、つ……い……」
ぞくり。ユキムラが自らの死を予感した。
それほどにその大男の目の色が変化したのだ。
「ぬおーーーーーーー!!」
突進してくる大男の意識を、無意識のうちに手刀で刈り取ったユキムラに罪はない。
「は!? 思わず身体が動いた……」
「店長!?」
その後、騒ぎを聞きつけた店員達に事情を話し、落ち着いて話せるようになるまでしばしの時間を必要とした。
「ちょっと~、もう抱きついたりしないからこの鎖外してよ~」
奥の作業場の大黒柱に鎖で拘束している。
身体を動かすたびにギシギシと店全体が軋んでいる気がするが気のせいだと良いな。
「店長、お客さんを撫でくり回すのは無しって言ったじゃないですか……」
店員さんはいかにも服飾関係と言った感じでやり手な女性って感じだ。
服装も確かにおしゃれですごく似合っている。
自分というものがきちんとわかっている。
一方柱にくくりつけられている大男は、緑の髪を腰まで伸ばし、顔は道化のような化粧、胸毛が見える開襟のオレンジ色のシャツ、ギンギラに輝く銀色のズボン、なぜかフリルの付いたコート? なのかを羽織っている。自分の世界を持っている。うまく言えばそういうことだろう。
「だってぇー、目の前に天使が降りてきたら飛びついちゃうのは仕方無くな~い?」
ユキムラを見てバッチコーンとウインクされる。
何か危険な光線でも出ていそうなので思わず避けてしまう。
「それに、見てよ残りの二人も~それにそのワンちゃん! こんな原石、王都で見たことないわぁ~。
もう、創作の神が降りてきてるの、お願い。これ外して?」
そう言って鎖をガチャガチャといじっている。
ユキムラは驚愕した。おかしい、柱に後手で縛ったはずだ!
もう! そう言って鉄の鎖を飴細工のように引きちぎった。
  ユキムラは恐怖した。
「あースッキリした。驚かせてごめんね~。私の名前はヴァリィ!
ヴァリィズラブの店長よ」
手を差し出されてしまいユキムラは握手に応じるしかない。
その手をブンブンと振りながらそのまま離さない。笑顔が怖い、舐めるような目線が怖い。
「いいわぁ……ほんとに良いわぁ……」
「あ、あの、は、はな、離してください……」
「あ~らごめんなさいね」
また光線が出そうなウインクをされる。
クネクネとソーカやレン、そしてタロに挨拶をして回るヴァリィ。悪い人では無いようだ。たぶん。
「店長が失礼しました。私が副店長のカイラと申します。
あの通り思いつくと止まらない人なので……」
挨拶を終えたヴァリィは物凄い勢いで服を作り始めている。
いいわ! いいわぁ!! おーうイエス! とか叫びながら。
芸術家にありがちな思い立ったら周りが見えなくなるタイプなんだろう。
それでもその手つきは一流のそれだと思わせる。
あんなごつい手で見事に作り上げられていく。
「腕は、ほんとーーーーーに最高なんですよ!」
カイラさんは素敵な笑顔で説明してくれる。
これがユキムラとヴァリィの出会いであった。
ギルドから出ようとするとガレオンがユキムラに話しかけてきた。
「明日の予定は特にないですが、ハワードさんっていうのは?」
「ああ、この国の王様だよ。わかったそう伝えとく。宿に迎えが行くと思うから頼んだ」
「あ、はい。……って、え?」
手を振りながらガレオンは奥へと引っ込んでしまった。
多分今ので明日、王との謁見が決定したんだろう。
「ギルマスは王と親友なので、たぶん本当で間違いないと思いますよ」
受付の女性もそうフォローしてくれた。
どちらにせよ面会は申し込むつもりだったので好都合と言えば好都合だ。
「レン、ソーカ聞いてたね? 申し訳ないけど明日の準備お願いする」
「あ、それでしたらユキムラさんにも一つお願いがあります」
珍しくソーカ達から提案があるようだ。
「流石に王様に謁見するようなしっかりとした服はないので作っていただきたいなぁなんて思ったり……」
少し申しわけなさそうに、それでも期待しちゃっているような可愛らしい表情でおねだりされる。それに反応しない男などいないのである。本能があっ、買ってあげたい、作ってあげたいと訴える。
  たしかに現実問題として、こないだのパーティの装いでは少々派手すぎる。
「分かった。うちの街の形式的な式典で用いる制服的なのも作らないとな。というか、そういうのがあれば楽だな」
着無精なユキムラは冠婚葬祭全てそれで済ませられるような、日本で言えば礼服のような物が作りたかった。VOは服飾周りも物凄いこだわられていて、人気のある衣装装備職人の作品は天文学的な値段がついたりもしていた。ユキムラの数少ない苦手分野だ。
「ただ、ちょっと不安だし、せっかく王都に来たんだそういう服を扱うところも見て、参考にさせてもらおう」
「こないだのドレスは素敵でしたよ?」
「古い知り合いのセンスを借りたからねぇ、王都での流行りみたいなのも参考にしないとね」
「まだ日暮れまでは時間がありますし、さっそく行きましょう師匠!」
こうして王都ファッションチェックのために服飾店へと行くことになる一同。
王都はさすがの大都市。
立ち並ぶ建物も洗練され統一感を持って作られている。
防衛のためか網の目のように道が配されていて、はじめて来ると少し迷ってしまうかもしれない。
ユキムラはVOでさんざん歩き回っているのでだいたい何がどこにあるかはわかっている。
王城は白と茶色の落ち着いた雰囲気の作りで、華麗さよりも堅牢さが伝わってくる。
それにより国全体の安心感が強まるのかもしれない。
ユキムラ達は高級店がズラリと並ぶ通りを歩いている。
ユキムラたちの服装は質の高い材料から作られているので平民服といえど見る人が見ればわかる作りの良さがある。事実、目の肥えた王都の人々はその衣装が普通のものでないと見抜いて、チラチラと見ていたりする。
ため息が出るほどの顔つきに鍛え上げられて絞り込まれた肉体を持つ美青年、金髪が輝くまだ幼さの残るが将来有望なのは間違いない美青年、スタイルが良く所作振る舞いに隙の無い、本能が、踏まれたい、おねー様と呼びたい! と叫び出す美少女が歩いているのだから、人目を引くのは仕方ない。
さらに足元には神々しささえある真っ白い狼、モッフモフに顔を突っ込んで思う存分にハスハスしたくなる。そりゃ注目を浴びるってものだ。
「なんか見られてません?」
「田舎者って思われてるのかも……」
「実際そうだから何も言えない。諦めよう」
「わうん」
当の本人たちは無自覚だ。
ギルドの職員も一押しの、今王都で一番流行っているという服飾店へと到着する。
王都ではガラスもふんだんに利用されたショーケースもあってユキムラは感心していた。
「うーん、これってゴスロリってやつじゃないか……?」
飾られている服を見てほんの少し不安を覚えるユキムラ。
「師匠先に入りますよー、ってうわー!」
「!? どうしたレン?」
ユキムラが店へ飛び込むと、いかつい筋肉質の男がレンの全身を弄っていた。
「いい! いいわ! 貴方素晴らしいわ! うー創作意欲をここまで刺激されるなんて!!」
「し、師匠ー助けてくださいー!」
ユキムラはそのまま黙って外に出たい気持ちをぐっと抑えた。
「あー、その子はうちの連れなのであまり乱暴にはしないでほしいんだけど……」
「あーら、ごめんなさいね、つ……い……」
ぞくり。ユキムラが自らの死を予感した。
それほどにその大男の目の色が変化したのだ。
「ぬおーーーーーーー!!」
突進してくる大男の意識を、無意識のうちに手刀で刈り取ったユキムラに罪はない。
「は!? 思わず身体が動いた……」
「店長!?」
その後、騒ぎを聞きつけた店員達に事情を話し、落ち着いて話せるようになるまでしばしの時間を必要とした。
「ちょっと~、もう抱きついたりしないからこの鎖外してよ~」
奥の作業場の大黒柱に鎖で拘束している。
身体を動かすたびにギシギシと店全体が軋んでいる気がするが気のせいだと良いな。
「店長、お客さんを撫でくり回すのは無しって言ったじゃないですか……」
店員さんはいかにも服飾関係と言った感じでやり手な女性って感じだ。
服装も確かにおしゃれですごく似合っている。
自分というものがきちんとわかっている。
一方柱にくくりつけられている大男は、緑の髪を腰まで伸ばし、顔は道化のような化粧、胸毛が見える開襟のオレンジ色のシャツ、ギンギラに輝く銀色のズボン、なぜかフリルの付いたコート? なのかを羽織っている。自分の世界を持っている。うまく言えばそういうことだろう。
「だってぇー、目の前に天使が降りてきたら飛びついちゃうのは仕方無くな~い?」
ユキムラを見てバッチコーンとウインクされる。
何か危険な光線でも出ていそうなので思わず避けてしまう。
「それに、見てよ残りの二人も~それにそのワンちゃん! こんな原石、王都で見たことないわぁ~。
もう、創作の神が降りてきてるの、お願い。これ外して?」
そう言って鎖をガチャガチャといじっている。
ユキムラは驚愕した。おかしい、柱に後手で縛ったはずだ!
もう! そう言って鉄の鎖を飴細工のように引きちぎった。
  ユキムラは恐怖した。
「あースッキリした。驚かせてごめんね~。私の名前はヴァリィ!
ヴァリィズラブの店長よ」
手を差し出されてしまいユキムラは握手に応じるしかない。
その手をブンブンと振りながらそのまま離さない。笑顔が怖い、舐めるような目線が怖い。
「いいわぁ……ほんとに良いわぁ……」
「あ、あの、は、はな、離してください……」
「あ~らごめんなさいね」
また光線が出そうなウインクをされる。
クネクネとソーカやレン、そしてタロに挨拶をして回るヴァリィ。悪い人では無いようだ。たぶん。
「店長が失礼しました。私が副店長のカイラと申します。
あの通り思いつくと止まらない人なので……」
挨拶を終えたヴァリィは物凄い勢いで服を作り始めている。
いいわ! いいわぁ!! おーうイエス! とか叫びながら。
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