老舗MMO(人生)が終わって俺の人生がはじまった件

穴の空いた靴下

71話 北の山へ

 文官としての仕事を終えたレンとソーカはサナダ街から来た指導員達と炭鉱に入り浸っている。
 新しい土地で新しいアイテムが出るとわかったら炭鉱夫としてはやるしかないらしい。
 まぁ、ユキムラも一緒になってやっているので何も文句はない。
 炭鉱内の整備も進んだので今日はタロも一緒に来ている。

「ふおおおお!!! でた! 金剛鉄来た!!」

「いいなー! レンいいなー!!」

 レンとソーカの関係も採掘作業レアガチャの前では昔に戻るようだ。
 タロはユキムラの膝の上で丸くなって寝ている。猫みたいなオオカミだ。
 すっかり大きくなって10キロになったが中身は子供のままだ。
 誰よりも早くアントなどの出現を予見し、爪と牙で狩っている。
 それはとんでもなく異常なことなのだが、みんな、

「おお、偉いなぁータロは」

「流石タロ!」

 と、親バカ全開である。
 生後数ヶ月でA級冒険者が手こずる魔物を赤子扱いにしている事の重要性に気が付けないのだから。

 すっかりレアガチャを満喫した一行は雪がしんしんと降り注ぐ街を歩いている。
 防壁外は猛烈な吹雪だそうだ。
 街中は地面に落ちた雪もそのまま静かに消えていく。
 外の強風も結界によって防がれている。
 こんなに快適な冬は生まれて初めてと町の人に大変感謝されている。

 久しぶりに皆でゆったりと昼食を取る。
 ユキムラは自身のレベルが110に達したことであるイベントを起こすか悩んでいた。
 VOでは入場制限が110だったMDマルチダンジョンを思い出す。
 アイスフロントの北にある氷の古龍が住む永久凍土のダンジョンだ。

 この街の鉱石のお陰で氷結耐性装備は結構なレベルのものを作れるようになった。
 ソーカはあの後あの現象は起きていないが、かなりの実力の戦士だ。
 しかし、さすがにレンは連れていけない……
 レンもたぶんかなりの腕前を持っている。
 それは一緒に訓練をやっているからよくわかっている。
 ただ、まだ13歳だ。
 冒険者としての登録は15歳からと決まっている。
 あと1年と少し。しっかりと基礎を教えこんで大事に育てる。
 しかし、ユキムラ自身は自分の実力不足、とくにJOBの育成速度に大いに不満を持っていた。
 とっとと魔法全種は揃えてしまいたい。
 上位の魔法を渡り歩いたとして、必要なJOBは200くらいか……
 この世界に来てまだ十数個のJOBしかマスターできていなかった。
 このペースじゃまずいな……
 ユキムラはほんの少し焦っていた。
 そしてレベル帯が合うMDがすぐそこにある。
 ユキムラ的にはパワーレベリングの時が来たと考えている。

 VOのMDはダンジョンを作成するリーダーのレベルを参照に敵モンスターの強さが決まる。
 つまりレベルが上ってもずっと経験値高効率おいしいの敵が出ることになる。
 つまり、ちょっと本気でMDを回すと、回すっていうのは何度もクリアをすることで、効率よく飛躍的なレベルアップが可能になる。
 VOではそれにイベントクリア経験値がもらえるのでさらに効率よくレベルが上がる。
 あとはモンスターハウスになりやすい狩り場での固定狩り、この二つが代表的なVOでのレベル上げだった。

 MDは性質上ダンジョン内での時間経過が無いはずだ、別世界扱いだから。
 そこら辺がどうなっているのか調べることも必要だ。
 なんだかんだ、まだまだやることは山積みなんだなぁ、食後のコーヒーを飲みながらユキムラは物思いにふけっている。
 足元ではタロが丸くなっている。
 すでにこの町でもタロは人気者になっており、今みたいに飲食店にいても可愛がられている。
 たまに一人で街を散歩していろいろとトラブルを解決しているらしい。
 出来たおおかみだ。

「さて、今後のことを少し話し合っておくか」

 ユキムラの発言でレンもソーカも仕事モードになる。

「流石に街道が整備されはじめたとはいえ冬の間はここで過ごすことになる。
 ソーカとレンは自主鍛錬と鉱山での採掘に励んで欲しい」

「師匠はどうするんですか?」

「俺は北の山の様子を見に行く、もし俺の考え通りだったらしばらく篭って修行するつもりだ」

「それなら私も行きます!」

「僕もお供します!」

「ダメだ。理由はレベル制限、まぁ実力不足だな」

 悔しそうにうつむく二人、タロは二人の足元を行ったり来たりして慰めているようだ。

「まぁ、まずは俺の思った通りの物があるかどうかを確かめに行ってから、だな。
 だから午後は北の山まで付き合ってくれ」

「はい!」「はい師匠!」「ワオン!」

 取り敢えずこの世界にMDがあるのかを調べる。
 そのためには北の山の麓まで行かないといけない。
 北の山へは街の北の裏門と言える場所から山中を貫くトンネルを抜けるとたどり着く、過去に北の山に住む古龍へ生贄を出していた時代からそのトンネルは残っていると伝わっている。
 ここも軽くダンジョン化しているので魔物が出る。
 今回は北の山への道の安全確保と、交通の確保も目的の一つだ。

 トンネルを前に3人と1匹が入念に準備をしている。

「まぁ、きちんと対策した装備だし。
 よほどのことがなければ大丈夫だ。いつもどおりいこう、タロー似合うねーそのお洋服~」

 タロもユキムラ特製ベストを装備済み。
 国が傾くシリーズの超弩級エンチャントつき防具だ。
 全員合わせれば国がとぷんと沈んじゃうような装備になっている。

「さぁ、行こうか」





 
 

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