老舗MMO(人生)が終わって俺の人生がはじまった件

穴の空いた靴下

30話 馬車・・・・・・?

 ファス村からジュナ-の街へはだいたい馬で半日くらい。
 ユキムラ、レン、村長の3人は馬車に揺られ一日かけて街への道程を移動する。
 馬車は2頭引きタイプ。
 もちろんユキムラが色々と改造している。

 まずはサスペンション、サスペンションに風属性の魔石を利用した魔道具を使っています。
 ほとんど浮かせているようなものなので馬車を引く馬の負担軽減だけでなく、どのような悪路であっても室内は快適な空間を約束されています。
 いざという時は動力を魔導エンジンに切り替えて自走できます。
 すでに自動車です。見栄えの問題で馬を連れているって状態です。
 実は飛べます。はい飛びます。
 足回りにはゴムに似た樹脂とミスリル粉を混ぜ合わせた物に魔力を通しており、灼熱の地でも極寒の中、たとえ凍結した路面だろうとしっかりと地面を掴みます。
 その場での旋回さえも可能なコーナリング性能は既存の馬車とは一線を画します。
 と、いうか、これは馬車なのだろうか?

 外郭も一見するとただの木目調の落ち着いた外観ですが、外壁には常に硬化魔法や退魔魔法が展開されており、戦闘の際でも堅牢な防御拠点になります。
 攻撃方法も多彩で各種属性魔法を発射可能な主砲が前後4門、高速で鉄弾を打ち出す機銃が2門備えられています。
 内部の空調は魔法によって管理されており、広く取られた室内には各種調理セットや快適な睡眠を約束するベッドルーム、浴槽つきシャワールーム、トイレ、客室まであります。
 そしてなんと! 村との転移装置までついています!
 お値段はたぶん国家が傾くほどになったでしょう!

 ユキムラが今後の旅の移動拠点、動く我が家のつもりで妥協せずに作り込んだ一品になっています。

「ほんとに進んでるんですよね……」

 窓から見える景色は確かに移動しておりこの馬車が進んでいることはわかる。
 ただ、室内にいると全くそんな様子がわからない。
 ユキムラとの直接的な接点が少なかった村長は彼のやることなすことに驚かされ続けている。
 馬車の中だということが信じられない、普通に家の中にいるのと同じだ。
 二頭の馬も一応馬具によって馬車を引いてはいるが快適そうだ、ほとんど重さは感じていない。
 今はレンが馬を操っている。
 村長とユキムラは街道沿いに定期的に照明器具を設置しながらのんびりと移動を楽しんでいる。

「師匠、このペースだと今日中に到着は難しいですね。ペース上げますか?」

「約束の日は5日後だしそこまで急ぐ必要もないから、野営でもしながらゆっくりといこう」

「わかりました、確か、しばらく行った場所が川も近くて、開けている高台があったはずです」

「頼んだー」

 レンはすっかり頼もしくなっている。
 いろいろな技術もそうだけど知識も、戦いも伸び盛りってやつだ。
 レンの言うとおり数時間ほど進むと川沿いの開けた場所に出た。
 まだ日も傾き始めたぐらいで水面がキラキラと輝いている。
 河原は背の高い植物もなく見通しも良い、急な増水でも安全な高台は野営にはぴったりだ。

「キレイなとこだね」

「街との間の休憩地点として人気があります。
 この馬車ならまず襲われることはないですが、見通しがいいこの場所なら安全です」

 馬車を止め、馬たちにも休憩を取らせる。
 川の水を美味しそうに飲む二頭の馬体は川面に跳ね返る光が当たってとても綺麗だ。
 馬車の天井部分からアタッチメントを展開すると簡易馬舎になる。
 休憩を終えた二頭にブラッシングと餌をやってレンが戻ってくる。
 外に配置したテーブルの上にはユキムラが作った料理が並べられる。
 さきほどそこの川の釣りポイントで釣った魚を香草焼きにしてみた。
 あっちの採集ポイントでもキノコや山菜が取れた。これはスープに使用した。
 それと村から持ってきたフカフカのパンだ。
 食材や料理の種類がちょっと頭がおかしい(褒め言葉)ほど豊富なこだわりをVOは持っていた。
  称号の一つ全レシピ調理なんて数名しか持っていないはずだ。
  当たり前の様にユキムラは手に入れていた。
 ユキムラは自炊など出来ないが、この世界ではスキルよる調理で名シェフにも劣らない。
  スキルに頼らない調理も人並みくらいにはなっている。
  社会に適合していくユキムラ君であります。

「いやー、街との移動中とは思えないうまい飯じゃったー」

「師匠が来る前はかったいパンとしょっぱい塩漬け肉でしたから……」

「それに野生の動物や魔物にも怯えておったからの、さらに盗賊などもな……」

 少し薄暗くなった周囲と違って煌々と照らされる馬車の周囲、虫除け、もう魔物除けと言ってもいいソレのせいで、よほど強力な魔物でもいなければ近づいてこない。
 車内へ入れば強力な魔物だろうと撃退も容易だ。
 車外に配置した感知結界に入った対象に自動掃射を行うモードもある。
 完全に戦車だこれ。

 簡易馬舎も結界に守られる。
 ユキムラはこの世界に来て畜産を通じて、尊い動物の命への愛情と同時に命を頂いている食のありがたみも知った。
 出来る限り馬も仲間として守ってやりたいというこだわりから防備も万全、手を抜くことは無い。
 自走できるし、飛べるけどよほどのことがなければ馬も守ります!

 食事を終えてふと空を見ると空一面が宇宙だった。
 何を言いたいかユキムラにもわからなかったが、最初にその宇宙を見たときに思ったことは宇宙がそこにある、だった。

 照明を落とし社内の光だけが漏れ出るこの一面の闇、
 そこに浮かび上がる星空。
 ほんとうに美しい星空だった。


  

 

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